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序章・旅立ち編
第1話・セルカ島の少年
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俺の名前はルイン・バンクス。今年で18歳になる。将来は父さんのようなカッコいい冒険者になるのが夢だ。
俺には3つ年下の可愛い妹ルルカがいて、父さんの代わりに悪い虫が付かないように見張っている。
母さんは帰って来ない父さんの代わりに、一家の大黒柱として日夜働き続けていた。今は俺も妹も成長して、少しは家の手伝いやアルバイトで家計を助けられるようになったが、父さんがいなくなった10年前は酷いものだった。
俺の暮らす小さな離島《セルカ》の町では、当然のように冒険者ギルドなんかない。この島の外にはモンスターという危険な生物が生息していたり、高価な魔法道具が簡単に手に入る場所があるらしい。
「あ~あ、モンスターがいればいいのに」
不謹慎かもしれないが、この島にはモンスターなんていない。家畜の牛、羊、ニワトリやペットの猫や犬ぐらいの動物しかいない。空を飛んでいるカモメまで加えると、6種類程度だ。まあ、釣れる魚を加えられるのならば、少なくとも20種類は増やす事が出来るかもしれない。
冒険者登録するには島を出て、ギルドで登録料を支払えば、15歳以上の成人ならば誰でもなる事が出来る。簡単な採用条件らしい。
まあ、派遣社員やフリーランスと呼ばれる仕事形態で、1回限りや期間限定といった不安定な仕事でもある。それに完全な実力主義世界でもある。弱肉強食を絵に描いたような労働環境らしい。まさにブラック企業と呼ぶに相応しいものだった。
「母さんもミリアも何で反対するんだよ。俺の実力が全然分かってないんだよ」
俺のレベルは多分《1》だ。
この数字は紛れもない真実であるが、この島にモンスターがいないから仕方ない事でもある。この世界の創造神の1人《テロス》はモンスターを倒す事で経験値と呼ばれるものを与えるらしい。この経験値を貯める事でレベルはアップするらしい。
レベルとか簡単に言えば強さだ。レベルの数値が高い人は当然強く、レベル1とレベル10が喧嘩すれば、レベル10の人がほぼ勝つだろう。だからこそ、優秀な冒険者にはレベルが高い人が多い。父さんのレベルも当然のように高かった。
もちろん、レベルを上げる方法は他にもある。偉業を達成すれば創造神の1人《アチーヴ》が経験値を与えるらしい。
噂では、この神様が冒険者ギルドの全てのクエストの管理をしているらしい。誰かがギルドにクエストを依頼する場合は、必ずこの神様の許可を得る必要があるらしい。
つまりは神様の許可が得られないクエストは破棄される事になる。まあ、大抵の依頼は許可されるらしいので、その心配はないが、実際は神様が要求する報酬を依頼人が用意する方が難しいらしい。
「確か……人を倒しても経験値って貰えるんだよな。流石に母さんに怒られるよな?」
「おーい!おーい!こんな所にいたのルイン。フィリアさんが探していたわよ」
タッタッタッ! 聞き覚えのある声が足音と共にこっちに向かって近づいて来た。
こいつは幼馴染みのミリア。母さんと結託して、俺の夢を反対する酷い女だ。まったく身体と態度ばかり大きくなって……きっと将来、嫁の貰い手に苦労するだろうな。
「ちょっと、ルイン!私の話、聞いているの?」
「聞いてるよ。母さんが俺を探しているんだろ。んんっ~~、何か約束してたかな?」
全然、思い出せない。今の俺は港で魚釣りをしていた。朝の畑仕事を終えて、鍛冶屋のアルバイトを終えて、今は晩ご飯のお魚を調達している。
絵に描いたような自慢の息子だろうと胸を張って言える自信がある。
「あんな事して覚えていない!昨日、リックスを殴ったじゃない。フィリアさん、カンカンだよ!」
「あぁ、あれか。俺の妹に魚臭い体臭で近づいた、アイツが悪い。殴られて当然の行いだ。俺は間違った事は一切していない。以上だ」
リックスは17歳の漁師の若造だ。俺の可愛い妹に付き纏うストーカー野郎だ。アイツが獲って来た魚なんか、俺の目が黒いうちは絶対に妹に食べさせない。きっと変な薬を仕込んでいるかもしれない。
「はぁ~~、私に言わないで、フィリアさんに直接言いなさいよ。それにルルカも成人したんだから、いい加減に妹離れしないと、いつかウザいと思われて嫌われるわよ」
「………」
「ちょっと、無視してんじゃないわよ!」
(静かにしろよ。魚が逃げるだろ)
「ちょっと、ルイン!聞いてるの⁉︎」
(態度じゃなくて、少しは胸を大きくしろよな)
「ちょっと、ルイン!もう~~、フィリアさんにここに居るって教えてくるからね!」
(それは困る。釣り場を移動しないといけないだろう)
タッタッタッ! どうやら嵐は去ったようだ。ミリアが怒って町に帰って行った。
「ふぅ~~、やっと静かになった」
きっと母さんにでも俺の事を報告しに行ったんだろうな。ミリアも18歳でとっくに成人しているんだから、さっさと結婚でも、恋人でも作ればいいのに、何やってんだよ。
ポォーポォー! 定期船の汽笛が聞こえて来た。釣りを始めて、3時間。もう午後5時を過ぎていた。
「定期船か……そろそろ引き上げて晩ご飯の用意をしないとな」
この島は観光地でもなければ、歴史的な名所がある訳でもない。取れ立ての美味しい魚ならば、他の港町にもあるだろう。定期船はただの生活物資が積まれているだけの中型船である。
でも、その日の定期船には招かれざる乗客が紛れ込んでいた。もしもそれを知っていたとしても、今の俺にはどうする事も出来なかっただろう。
❇︎
「いつまでも守れないよな。ルルカも成人したんだし、父さんも生きているのかも分かんないしな」
父さんが居なくなってから、もう10年経ってしまった。10年前のあの日、父さんと交わした約束を、俺は今日まで守り続けていた。
『ルイン、父さんにもしもの事があったら、お前が母さんとルルカを守るんだぞ』
『うん。僕が母さんとルルカを守るよ!』
『はっははは、頼んだぞ。今回の仕事はちょっと厄介でな。まあ、ルインに言ってもしょうがないな。はっははは………』
父さんは笑って島から出発した。そして、二度と帰って来なかった。冒険者ならば、よくある話かもしれない。ただ、死んだという確認がされていなかった。つまりは生きている可能性も、死んでいる可能性もあるという事を意味していた。
「父さん、10年間だけ約束は守ったよ。俺も冒険者になって、父さんを探してみるよ」
冒険者になる為の登録料は貯まったし、ルルカも成人した。俺が島から出ても、ミリアが居れば、母さんの事もルルカの事も安心して任せる事が出来るよ。ミリアは物凄く怒るだろうな。
さて、そろそろ帰るよ父さん。今度は直接会って言えるといいんだけどね。
「こんにちは。釣れますか?」
「えっ?」
背後を振り返ると綺麗な女性が立っていた。かなり恥ずかしい場面だ。だって、海の先にある大陸に向かって、独り言を言っているのを聞かれてしまった。
「何か釣れましたか?」
「すみません⁈ちょっと考え事をしていて、小さいですが、アジが2匹釣れましたよ。もしかして、観光ですか?」
ピチピチ! 木の桶の中で銀色の魚が2匹仲良く泳いでいます。まだ、晩ご飯のオカズにはちょっと足りない量です。
長い金髪に緑色の瞳、麦わら帽子に白いワンピース、島の人間ではない事はすぐに分かった。金色の髪は島には1人もいない。小さな島だ。若くて綺麗な女性が住民にいたら男達がほっとく訳がないだろう。
「えぇ。本にこの島がとっても良い所だって書かれていたので…本当に綺麗で素敵な島ですね」
「はっははは、その本に騙されてますよ。何もない、ただの島です。モンスターもいないし、観光名所もありません。宿屋だって1軒だけだし、ほとんど休業中ですよ」
まあ、俺はこの島から出た事がないから、他所と比べる事は出来ないけど、島の事はよく知っている。本当に見所が何もない。
「それは困りました。今日は何処かに泊まる予定だったんですけど、どうしましょうか?」
「えっ~と」
正直、俺に聞かれても困る。カッコよく『俺の家に泊まれよ』なんて絶対に言えない。母さんと妹のルルカは大丈夫かもしれない。けれども、ミリアは怒りそうなんだよな。
❇︎
俺には3つ年下の可愛い妹ルルカがいて、父さんの代わりに悪い虫が付かないように見張っている。
母さんは帰って来ない父さんの代わりに、一家の大黒柱として日夜働き続けていた。今は俺も妹も成長して、少しは家の手伝いやアルバイトで家計を助けられるようになったが、父さんがいなくなった10年前は酷いものだった。
俺の暮らす小さな離島《セルカ》の町では、当然のように冒険者ギルドなんかない。この島の外にはモンスターという危険な生物が生息していたり、高価な魔法道具が簡単に手に入る場所があるらしい。
「あ~あ、モンスターがいればいいのに」
不謹慎かもしれないが、この島にはモンスターなんていない。家畜の牛、羊、ニワトリやペットの猫や犬ぐらいの動物しかいない。空を飛んでいるカモメまで加えると、6種類程度だ。まあ、釣れる魚を加えられるのならば、少なくとも20種類は増やす事が出来るかもしれない。
冒険者登録するには島を出て、ギルドで登録料を支払えば、15歳以上の成人ならば誰でもなる事が出来る。簡単な採用条件らしい。
まあ、派遣社員やフリーランスと呼ばれる仕事形態で、1回限りや期間限定といった不安定な仕事でもある。それに完全な実力主義世界でもある。弱肉強食を絵に描いたような労働環境らしい。まさにブラック企業と呼ぶに相応しいものだった。
「母さんもミリアも何で反対するんだよ。俺の実力が全然分かってないんだよ」
俺のレベルは多分《1》だ。
この数字は紛れもない真実であるが、この島にモンスターがいないから仕方ない事でもある。この世界の創造神の1人《テロス》はモンスターを倒す事で経験値と呼ばれるものを与えるらしい。この経験値を貯める事でレベルはアップするらしい。
レベルとか簡単に言えば強さだ。レベルの数値が高い人は当然強く、レベル1とレベル10が喧嘩すれば、レベル10の人がほぼ勝つだろう。だからこそ、優秀な冒険者にはレベルが高い人が多い。父さんのレベルも当然のように高かった。
もちろん、レベルを上げる方法は他にもある。偉業を達成すれば創造神の1人《アチーヴ》が経験値を与えるらしい。
噂では、この神様が冒険者ギルドの全てのクエストの管理をしているらしい。誰かがギルドにクエストを依頼する場合は、必ずこの神様の許可を得る必要があるらしい。
つまりは神様の許可が得られないクエストは破棄される事になる。まあ、大抵の依頼は許可されるらしいので、その心配はないが、実際は神様が要求する報酬を依頼人が用意する方が難しいらしい。
「確か……人を倒しても経験値って貰えるんだよな。流石に母さんに怒られるよな?」
「おーい!おーい!こんな所にいたのルイン。フィリアさんが探していたわよ」
タッタッタッ! 聞き覚えのある声が足音と共にこっちに向かって近づいて来た。
こいつは幼馴染みのミリア。母さんと結託して、俺の夢を反対する酷い女だ。まったく身体と態度ばかり大きくなって……きっと将来、嫁の貰い手に苦労するだろうな。
「ちょっと、ルイン!私の話、聞いているの?」
「聞いてるよ。母さんが俺を探しているんだろ。んんっ~~、何か約束してたかな?」
全然、思い出せない。今の俺は港で魚釣りをしていた。朝の畑仕事を終えて、鍛冶屋のアルバイトを終えて、今は晩ご飯のお魚を調達している。
絵に描いたような自慢の息子だろうと胸を張って言える自信がある。
「あんな事して覚えていない!昨日、リックスを殴ったじゃない。フィリアさん、カンカンだよ!」
「あぁ、あれか。俺の妹に魚臭い体臭で近づいた、アイツが悪い。殴られて当然の行いだ。俺は間違った事は一切していない。以上だ」
リックスは17歳の漁師の若造だ。俺の可愛い妹に付き纏うストーカー野郎だ。アイツが獲って来た魚なんか、俺の目が黒いうちは絶対に妹に食べさせない。きっと変な薬を仕込んでいるかもしれない。
「はぁ~~、私に言わないで、フィリアさんに直接言いなさいよ。それにルルカも成人したんだから、いい加減に妹離れしないと、いつかウザいと思われて嫌われるわよ」
「………」
「ちょっと、無視してんじゃないわよ!」
(静かにしろよ。魚が逃げるだろ)
「ちょっと、ルイン!聞いてるの⁉︎」
(態度じゃなくて、少しは胸を大きくしろよな)
「ちょっと、ルイン!もう~~、フィリアさんにここに居るって教えてくるからね!」
(それは困る。釣り場を移動しないといけないだろう)
タッタッタッ! どうやら嵐は去ったようだ。ミリアが怒って町に帰って行った。
「ふぅ~~、やっと静かになった」
きっと母さんにでも俺の事を報告しに行ったんだろうな。ミリアも18歳でとっくに成人しているんだから、さっさと結婚でも、恋人でも作ればいいのに、何やってんだよ。
ポォーポォー! 定期船の汽笛が聞こえて来た。釣りを始めて、3時間。もう午後5時を過ぎていた。
「定期船か……そろそろ引き上げて晩ご飯の用意をしないとな」
この島は観光地でもなければ、歴史的な名所がある訳でもない。取れ立ての美味しい魚ならば、他の港町にもあるだろう。定期船はただの生活物資が積まれているだけの中型船である。
でも、その日の定期船には招かれざる乗客が紛れ込んでいた。もしもそれを知っていたとしても、今の俺にはどうする事も出来なかっただろう。
❇︎
「いつまでも守れないよな。ルルカも成人したんだし、父さんも生きているのかも分かんないしな」
父さんが居なくなってから、もう10年経ってしまった。10年前のあの日、父さんと交わした約束を、俺は今日まで守り続けていた。
『ルイン、父さんにもしもの事があったら、お前が母さんとルルカを守るんだぞ』
『うん。僕が母さんとルルカを守るよ!』
『はっははは、頼んだぞ。今回の仕事はちょっと厄介でな。まあ、ルインに言ってもしょうがないな。はっははは………』
父さんは笑って島から出発した。そして、二度と帰って来なかった。冒険者ならば、よくある話かもしれない。ただ、死んだという確認がされていなかった。つまりは生きている可能性も、死んでいる可能性もあるという事を意味していた。
「父さん、10年間だけ約束は守ったよ。俺も冒険者になって、父さんを探してみるよ」
冒険者になる為の登録料は貯まったし、ルルカも成人した。俺が島から出ても、ミリアが居れば、母さんの事もルルカの事も安心して任せる事が出来るよ。ミリアは物凄く怒るだろうな。
さて、そろそろ帰るよ父さん。今度は直接会って言えるといいんだけどね。
「こんにちは。釣れますか?」
「えっ?」
背後を振り返ると綺麗な女性が立っていた。かなり恥ずかしい場面だ。だって、海の先にある大陸に向かって、独り言を言っているのを聞かれてしまった。
「何か釣れましたか?」
「すみません⁈ちょっと考え事をしていて、小さいですが、アジが2匹釣れましたよ。もしかして、観光ですか?」
ピチピチ! 木の桶の中で銀色の魚が2匹仲良く泳いでいます。まだ、晩ご飯のオカズにはちょっと足りない量です。
長い金髪に緑色の瞳、麦わら帽子に白いワンピース、島の人間ではない事はすぐに分かった。金色の髪は島には1人もいない。小さな島だ。若くて綺麗な女性が住民にいたら男達がほっとく訳がないだろう。
「えぇ。本にこの島がとっても良い所だって書かれていたので…本当に綺麗で素敵な島ですね」
「はっははは、その本に騙されてますよ。何もない、ただの島です。モンスターもいないし、観光名所もありません。宿屋だって1軒だけだし、ほとんど休業中ですよ」
まあ、俺はこの島から出た事がないから、他所と比べる事は出来ないけど、島の事はよく知っている。本当に見所が何もない。
「それは困りました。今日は何処かに泊まる予定だったんですけど、どうしましょうか?」
「えっ~と」
正直、俺に聞かれても困る。カッコよく『俺の家に泊まれよ』なんて絶対に言えない。母さんと妹のルルカは大丈夫かもしれない。けれども、ミリアは怒りそうなんだよな。
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