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第3章・水と迷宮の守護者編

第34話・基本魔法講座

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 目的のアクエリアスの魔石は手に入りました。このあとはダリアの街に引き返して、次の指示を魔女のマリー・タリアスに聞けばいいだけです。

(やっぱり善人を殺すのは気分が悪いな)

 もう人間ならば、100人以上は殺していますが、それでもルインの心は、まだ痛むようです。

 お互いの譲れない正義と、守りたい人が少し違うだけ、殺し合わなければならないのでしょうか? 

 今のルインには正しい正義とは何か。それを理解する事は出来ません。いずれは分かる日がやってくるのかもしれません。もしも、その時に神父を殺した事が間違っていたと知ったルインは、どのような決断をするのでしょうか。曖昧な正義がルインを闇に引き摺り込もうとします。

「もう終わった事だ。いくら考えても、人を殺していい理由なんか見つかる訳がない。やるべき事だけをやるだけだ」

 頭の中から迷いを追い払うと、次に何をするべきか考えます。今、必要な事は強くなる方法です。

 どんなにレベルを上げても、相手の戦闘技術が高かったり、強力な魔法を使われてしまうと、簡単に殺されてしまいます。もっと強くならなくてはいけないのです。

「パイシーズの魔石は水中活動に特化して、アクエリアスの魔石は水を操れるようだから………だったら、2つの力を合わせれば」

(力を示せ! 《アクエリアス》よ!)

 ルインが左腕に嵌めたアクエリアスの腕輪に命じました。身体全体をスッポリと巨大な水球が覆い尽くしました。このままでは溺れ死んでしまいます。すぐにパイシーズの魔石も使いました。

「2つ同時に使う事は出来るようだ。上手く組み合わせる事が出来ればいいけど、今出来るのは、この中で身体と服を綺麗に洗うぐらいか」

 グルグルと思い通りに巨大な水球が回ります。中に入っているだけで身体と服の汚れは綺麗になりますが、2つの魔法を同時に使う事で、精神はドンドン疲労していきます。実際に使えるのは短時間です。

 アクエリアスの魔法を解除すると、パシャン! とすぐに水球は割れてしまいました。

「ハァ~~……フゥー……神父が使った技を練習しないとな」

 ゆっくりと深呼吸して気分を落ち着けます。ノア神父が使った魔法は、水の弾丸《アクア・バレット》と水の刃《アクア・カッター》です。どちらも放出系の魔法攻撃でした。

 魔力を凝縮する事が出来るようになれば、習得する事は比較的に簡単です。魔法を上手く使いたいのなら、魔女のマリーに相談する方が早いです。ルインはダリアの街に急ぎました。

 ♦︎

 ルインは深夜遅くにダリアの街に到着しました。この時間でも宿屋は開いているようです。チェックインを手早く済ませると、宿屋のベッドにすぐに横になりました。

「痛っ⁉︎」

 スヤスヤと気分良く眠っていると、突然、誰かに蹴られたような衝撃が襲ってきました。恐る恐る目を開けると、目の前には魔女のマリーが立っていました。

「昨日の今日で戻って来るんだから、折角のお休みが台無しじゃない! まったく、2~3日ぐらいは休ませなさいよ」

「………アクエリアスの腕輪だ。島の人を5人解放してくれ」

 どちらも相手の話を聞かないタイプのようです。ルインは左腕に嵌めているアクエリアスの腕輪を、ハッキリとマリーに見せました。これで解放されたセルカ島の人間は、合計で10人になります。

「ああ~~、はいはい。こっちで適当に女、子供を選んで解放しておくわ。心配しなくても、約束はキチンと守るから安心するのね」

 何とも投げやりな態度です。本当に島の人間の命はどうでもいいようです。

「………1つお願いがあるんだが、いいか?」

「駄目。次は《天然ダンジョン》に行ってもらうわ。このダンジョンに住み着いているモンスターが腕輪を持っているから、殺して奪いなさい。奪って来れたのなら、考えてもやってもいいわよ」

 お願いは速攻で断られました。天然ダンジョンは人が作った人工ダンジョンとは違い、製作者不明の未知のダンジョンです。ただ、天然ダンジョンには共通点があります。最奥の宝箱の中には貴重な武器やアイテムが納められています。

「魔法を教えて欲しい。基本的なやつでいいから」

「あんた、私の話し聞いてたの? 私、駄目って、言ったわよね? それに魔法なんて簡単よ。魔力の凝縮と放出、拳をグーパーするのと同じよ。握るか、開くか。グーで殴るか、パーでビンタするか。はい、これでいいわね?」

 駄目だと言いながらも、一応は教えてくれました。本当の事なのか、適当なのかは分かりませんが、実際にやってみれば嘘か、本当か分かります。

「握って固める。開いて放出する。こんな感じか?」

「こう見えても私、忙しいんだけど。ハァ~、地図にダンジョンの場所を描いているから、あとは好きにやってちょうだい」

 天然ダンジョンの事を忘れて、右手を使って、魔力を固めたり、放出したりしています。マリーは呆れています。そんなに簡単にコントロールが出来る訳がありません。マリーは部屋を出て行こうとしましたが、その前にルインがコツを掴んだようです。ルインは《アクア・バレット》の弾丸を手の平に浮かべています。

「………ねぇ? あんたの両親か、親戚に魔法使いでもいるの。普通はそんなに簡単には、魔力はコントロール出来ないものよ」

「多分いないと思う。父さんも母さんも普通の人だったと思う。父さんは冒険者だったけど、魔法が使えるとは聞いた事がない。これがそんなに難しい事なのか?」

 マリーはすぐに帰るつもりでしたが、気が変わったようです。ルインの血縁関係者に魔法使いがいないか聞いてきました。

「放出は形のイメージで、凝縮は形の具現化。イメージは具現化して初めて、触る事も使う事も出来るようになる。その水玉を前に飛ばしたいなら、放出で前に魔力を撃ち出して、一瞬で凝縮させるの。魔力の放出と凝縮は基本中の基本。一流の魔法使いほど、放出と凝縮のスピードが桁違いに速いから気をつける事ね」

 マリーは満足したのか、部屋を出て行きました。駄目だと言いながらも結局は教えてくれたようなものです。

「一瞬で放出して、凝縮する。………フゥー、ちょっと休憩しないとな」

 放出と凝縮はある程度は出来るようになりましたが、手の平の水球を魔力で凝縮して、氷のように硬くする事はまだ出来ません。

「このままでは水風船を打つけているのと同じか。もっと硬く、鋭い水の刃をイメージしないと誰も殺せないか」

 マリーは魔法はイメージだと言いました。しっかりとしたイメージがなければ使えないのです。そういう意味では、ルインはまだ、自分が目指すべき魔法の形が分かっていないのでしょう。それさえ分かれば、きっと使えるようになります。

 ♦︎

 



 

 



 

 

 

 
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みんなの感想(1件)

こんぶ2
2020.04.26 こんぶ2

冥府の一撃ならば、ヘルナックルというよりかは、アビスナックル(ハデス、アンダーワールド等など)がいいと思います。地獄の一撃ならば、ヘルナックルでもいい気が…
それとも、冥府の一撃を、ヘルナックルとよませることで、何かあれでしょうか。伏線でも貼っているんでしょうか…!?
ともあれ、こういうこと言うと失礼かもしれませんが、以前よりも面白いです!
話は変わりますが…
戦闘シーン練習用は…

書きま……………………

えーっと、お互い、頑張りましょうね…
でわでわ

アルビジア
2020.04.26 アルビジア

申し訳ない!何となく頭に浮かんだ言葉が《ヘル》でした。伏線はないはずですが、あとから無理矢理に使う事も出来ると思います。

ヘルの文字の意味を調べたら《冥府》《死者》《地獄》《隠す》《苦悩》の5つがありました。隠す以外ならばどれでも使えそうで良かったのですが、全力で攻撃しようとしているのに苦悩したら駄目だろうと、苦悩も外しました。

物語的には《死者の一撃》がピッタリな感じがしますが、でも、実際に攻撃している主人公は生きています。ちょっと微妙かな?とこれも外しました。残りは《冥府》と《地獄》です。

冥府と地獄はどちらも場所を表しているので、つまりは攻撃対象をその場所に送る事を意味しているのだろうなと思い。冥府は幅広い霊魂が行く場所、地獄は悪い事した霊魂が行く場所と決めました。

これからも使うとなると、悪い事をしていないモンスターや人間と戦う場合を考えて、消去法で《冥府の一撃》に決まりました。でも、作者のイメージの中では左右の拳を同時に使ったので、冥府の二撃になります。

なんとなく文章だけだと、渾身の右ストレート1発で2匹を同時に倒したようにも読めるので、その辺は読者の想像力にお任せしたいと思います。

書きま……す?せん?どっちだ!どっちが来る!いや、二択じゃないかもしれない。書きました、かもしれない!

では、私も続きを、1時間休憩した後に書き始め………

解除
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