王子様が婚約破棄してきたので、用意しておいたスコップで後頭部を強打しました

もう書かないって言ったよね?

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中編・後

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「アルフォンス様、お食事の時間です」

「うぐっ……パトリシア……」

 愛情をたっぷり込めて作った料理は用意できないので、厨房から食べ残しを持ってきた。首と手足に五つの長い鎖が繋がった鉄枷を付けられた王子が私を睨みつけてくる。

「私を今すぐに解放するんだ。そうすれば無かった事にする」

 鉄格子の向こう側から王子が強気な態度でお願いしてきた。残念ながら、新婚生活が始まった私は幸せの絶頂である。当然、断るに決まっている。

「それは無理です。わたくしは無かったにしたくないんですから。アルフォンス様はわたくしと昨日から夫婦になったんですよ」

「……何を言っている? 気でも狂ったのか……」

 王子の顔は真剣になったり、怯えたりとコロコロ変化する。お城で見せてくれる仮面の表情ではない本物の表情だ。私はついつい嬉しくて微笑んでしまう。その所為で王子はさらに怯えてしまっている。

「真実の愛は人を狂わせるんです。アルフォンス様と同じです。私もアルフォンス様の愛を失いそうになって、真実の愛に気付いてしまったんです。さあ、食べてください」

「あーん」とスプーンで掬ったスープを鉄格子の向こう側の王子に食べさせようとする。下町の恋人同士はこんな感じでお互いに食べ物を食べさせあう。
 私も真似して挑戦してみたけど、王子は気に入らないようだ。大声で怒鳴ってきた。

「巫山戯るな!」

「もー! アルフォンス様、ビックリするからやめてください!」

 王子が叫んだので、せっかくのスプーンのスープを床にこぼしてしまった。
 秘密の結婚生活なので、私が掃除、洗濯をしなければならない。出来るだけ快適で幸せな結婚生活が出来るように二人で協力しないといけない。

「パトリシア! こんな事をしてどうなるか分かっているのか! 私はこの国の王子なんだぞ! こんな事をやって許されると思っているのか!」

 興奮した王子が矢継ぎ早に怒ってくる。そんな事は王子に言われなくても分かっている。
 はぁぁ、と溜め息を吐いてしまう。アルフォンス様はこの国の第一王子だ。そして、第二王子はいない。つまり完全な一人息子だ。だからこそ、私はこの方法を思いついてしまった。
 もう王子は私と結婚するしかないのだ。

「アルフォンス様、もう誰も助けに来ませんよ。ゆっくりとこの部屋で私と死ぬまで暮らすか、城で私と暮らすか選んでくださいね」

「待って! パトリシア! まだ話は終わってないぞ!」

 王子は引き止めるけど、構わずに食事とランプを持って隠し部屋から出た。また隠し部屋に静寂と暗闇が戻る。
 動物病院で学んだ事だ。元気で乱暴な犬は躾に時間がかかってしまう。少しずつ調教するしかない。それにあまり長い時間、屋敷から姿を消していると怪しまれてしまう。

 ♢

「パトリシア様! アルフォンス様をどこに隠しているんですか!」

 数日後。パイ子が兵士を連れて屋敷に乗り込んできた。これから屋敷の中を徹底的に調べるようだ。
 ……ちょうどいいタイミングです。
 王子が少しずつ私に懐いてきたので、用意していた物もついでに渡してあげましょう。

「フローラ様……実はアルフォンス様から手紙をお預かりしております……」

 パイ子に近づくと小声で話しかけて、服から王子に書かせた手紙を取り出した。手紙の内容は王子を辞めて、平民として小さな村に静かに一緒に暮らそうというものだ。
 渡した手紙を誰にも見られないように隠れて読んでいるパイ子は「嘘っ!」「嫌ぁ!」と呟いている。王子の金、権力、地位が目当てのパイ子には信じられない内容だろう。
 パイ子の気持ちが嘘じゃないなら、丸坊主にするようにも書かれている。

「フローラ様、私は二人の愛を応援しています。さあ、髪を丸坊主にしましょう」

 カミソリを取り出して、パイ子の綺麗な栗色の長い髪を剃り落とすのを手伝おうとした。でも、パイ子の真実の愛は真実ではなかったようだ。

「なっ、嫌に決まっているでしょう! ただの平民に用はないわよ! もういいわ! アルフォンス様が正気に戻るまで待つから!」

 パイ子は手紙をビリビリに破り捨てると兵士達を連れて、屋敷の捜索を諦めて帰って行った。
 兵士達はまだまだ探したいようだけど、私の部屋の下でも花壇の下でも物置小屋の下でもない。絶対に分からない場所なんだから早く村を探しに行ってくださいね。
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