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3:踏み躙られたい人生

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 監禁方法にダメ出しされて、逃げられないよう自分に依存させろと言われて、全然出来なくて……もう失望したと言われて出ていかれそうになった。
 咄嗟に首輪に繋がれた鎖を勢いよく掴み寄せて久遠さんを無理矢理腕に抱いた。
 どうやら、久遠さんが望んでいた監禁はこういう形だったみたいだ。
 相手の事なんて配慮せず強引で、勝手で、乱暴で、自分の思うがままに世話を焼く。
 
「痛くないですか」
「平気だ。ふ、ふふ……力、思ってた以上に強いんだな」
「……乱暴にされて、嬉しいんですか?」
「そういうさがなんだ。俺」

 マゾっ気というものだろうか?
 ベッドで横になれば期待したような眼差しを感じる。
 
「…………頑張ります。僕、貴方を夢中にさせてみせます」
「期待してる。あ、でもまずはちゃんと監禁してくれ。基礎を疎かにしたら今度こそ出てくからな」
「はいっ!」

 久遠さんの意外な一面を知れたのはいいけれど、人に優しく親切に、誠心誠意生きてきた僕には難関だ。
 嫌な言葉遣い、乱暴な所作、強引な接し方。相手を支配して意のままに操るような恐ろしい真似が出来るのだろうか。
 頑張ってみるけど、道のりが見えてこない。

 ひとまず出来る事から。
 鎖の始点をロック式にして簡単には取れないようにして、思い切って久遠さんの服を下着と靴下のみにした。寒かったら上着やポンチョを着てもらう。

「……いいじゃん。惨めで」
「いいんですか……」

 何処がいいのか何一つわからないけど、筋トレしてるだけあって弛みなく引き締まった身体が目に悪い。
 それに、なんか……その、如何わしい気持ちになる。

「中山くん、どう? 興奮する?」
「少し……」
「本当に俺の事好きなのか? こんなおじさんに露出の辱め受けさせておいて、反応しないなんて」

 うぅ……僕の方が言葉責めされてる。
 何も口答え出来ずにしょぼんと項垂れると、久遠さんが頭をガシガシ掻きながらアドバイスをくれる。

「こういう時は、髪なり鎖なり掴んで“黙れ”ってキスしろ。生意気言ったり、物を上から言ったら、“わからせ”るんだ」
「えぇ……そんな野蛮な」
「ふぅーん……出来ないなら別にいいけど~? 仕事から帰ってきたら俺が居なくなって『グイン!』んぅっ!」
「嫌です。ココに居てください」
「……飲み込みの早い子は好きだぞ」

 鎖を乱暴に引き寄せて、唇を重ねると久遠さんが満更でもなさそうに僕に乗っかってくる。

「ン、ほら……出勤時間まで、もう一回」

 久遠さんが僕の首に腕を回し、長い舌で口の中を蹂躙してくる。
 まるで犯されてるみたいに口の中を乱暴に弄られてゾクゾクする。
 僕も反撃しようと久遠さんの胸を押したり、腰を抱いてみたりしても全然上手くいかない。

「ぷはっ……はい、もう終わり。 はは、キスがヘタ」
「はい……精進します」

 情けないけど、唇を両手で押さえて俯く。拘束して、監禁してるしで優位に立ってる筈なのに立場が全く逆転しないのは何故だ。
 あっ、きっとこの気持ちが大事なんだ。後でメモしとこ。


※※※

 ほぼ裸の状態でも、久遠さんは特に変わった様子はない。僕に期待をしているのか、時折ただならぬ表情で見つめられる。瞳孔ガン開きで感情の読めない微笑を浮かべて僕をジィッとただ凝視してくる姿が正直怖い。

「中山さん、最近口調変わりましたね」
「そうですか?」
「何かありました? 威厳が出て良いとは思いますけど」

 会社で指摘される程に、僕は言葉に張りが出てしまっていた。柔らかく優しい言葉遣いを会社では心がけてたのに。切り替えなきゃ。家と職場は。

「……あのさ。俺抱き枕じゃないんだけど」
「僕の腕の中に監禁してるんですぅ」
「可愛い事言って許されると思うなよ」
「許す許さないの意思決定は貴方には無いんで、大人しくしててください」
「っ……んぅ」

 キツい口調で言い返すと、久遠さんは大人しく僕の腕の中で目を閉じた。
 ほんのり頬が染まってる。本当にこういうのが好きなんだとつくづく思う。
 可愛らしいけど、可哀相にも思えてしまう。
 自分を慰めるように、久遠さんに優しくキスをする。回数を熟すにつれて、上手くなってきた。舌使いも、久遠さんに負けない。

「んっ……ぅ、ん」
「(僕とのキスにモジモジしてる。可愛い)」
「はっ、はぁ……ぁ」

 口を離せば熱っぽい視線が僕に向く。期待の眼差しが突き刺さる中、僕は未だに一歩を踏み出せずにいた。

「中山くん……そろそろ……シたくならねえの? こんだけ一緒に寝て、エロいキスもして……なぁ?」

 久遠さんが視線を泳がせながら僕を誘ってきたけど……僕は言葉を絞り出す。

「酷く……されたい、ですか?」
「……されたい。中山くんに手酷く抱かれたい……オナホ扱いでもいいから」
「なら、オナホでいいじゃないですか。わざわざ貴方を抱かなくても」
「ぁ……や、俺の方が役に立つから。自分で動くし、後処理だって一人で出来る……から……お前に、気持ち良くなってほしい」

 どんどん弱々しい声になっていくのが痛々しかった。この人は何でこんなに悲しい言葉で僕を引っ掻いてくるんだろう。
 僕は何一つ要求してないのに。必要以上に自尊心を差し出してくる。
 どうしたらいいのか分からなくなってくるけど、僕の側に居てもらう為にはちゃんと応えないと。

「ご機嫌取りのセックスは要りませんよ……大丈夫。ただ側にいてくれるだけで、僕は幸せです」
「…………ギリ及第点」
「うーん、手厳しい」
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