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10:事前準備※

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 その日の夜、洞窟内に開拓の初期段階で設けられた専用の水浴び場で一人、身体を清めているタスクの姿があった。

『にょろん』
「! ストールさん」
《具合は如何ですか》
「ぁ……はい。やはり、まだ、慣れません」
《どれどれ》
『チャポン』

 水の中に身を投じて、丁度タスクの太腿までの水位の水面をスイスイと泳いで渡る。
 タスクの形の整った臀部に回り込み、割れ目に身を捩じ込む。

「うっ……」
《まだまだ強張ってますね》

 後孔の柔らかさをチェックするようにクニクニと圧をかける。

「準備が必要なのは、理解してますが……俺、大見栄を張っておいてココで魔王様を快く出来る気がしないんです」
《不安でしょうが……大丈夫ですよ。手伝いますから》
「ありがとうございます……」

 臀部から離れて陸に戻り、タスクへ向き直る。

《まずはご自身が快楽を感じなければ、魔王様も気掛かりで事に集中出来ません。しっかり後で快感を拾えるよう練習あるのみです》
「はい」

 二人が行為に及べるように、ストールは忙しく二人のフォローをしていた。
 触手の長をしていた実力を遺憾無く発揮している。

『クチュ、クププ』
「はっ……はぁ……」
《前を触って、コレは気持ちいい事だと身体に覚えさせてください》
「は、い」

 前後同時にグチュグチュと水音を立てながら手を動かす。

「んんっ、くぁ!」

 身体を小さく捩りながら上擦った声を上げるタスクにストールがアドバイスする。

《声は出してください。気持ちいいなら気持ちいいと。言葉にする事は自分にも相手にも効果的です》
「はぃ……ぁ、あっ……き、もちぃ」

 ピクピクと白く丸い尻尾が反応して震え、先端が上向きにピンと張る。

『ゴプッ!』
「っくぁあ!!」

 途端に大きな声を上げ、水の中に白い欲を出してしまった。

「はっ……はっ……ぁ、出したのに、腹の奥が……ムズムズします」
《良い傾向です! そのまま後を続けてください》
「んっ」

 ストールの言う通りに、後だけを続けて刺激する。

『グチュ、グプグプ』
「ぁ、あ、きもちい……止まらない、指止まらない、です」
《素晴らしいですよ。魔王様の前で、この姿を披露しましょう》
「え……魔王様の、前で」

 脳裏にセリアスの顔が浮かぶ。自分のこの痴態をどのような目で見られるのか。

「あッぁ! んんん!」
《想像してドキドキしてます? 恥ずかしいのに、興奮が収まらない感じですか?》
「すご……なんで、わかるんですか?」
《経験則です。それに顔を見ればわかります》
「ん、魔王様の事考えると、中、きゅうきゅうしてます」

 指を咥えこむ肉の縁がリズミカルに窄まる。

《そのまま、絶頂を目指してください》
「はぁ……魔王様……ああっ!」

 気持ちいい部分をぐりぐりと自分で刺激しながら、タスクは全身をビクンと痙攣させ絶頂した。

「はっ……はっ……はぁ、ふぅ……んん」
『ザブン』

 火照った身体を冷却するように、水に肩まで浸かって縁に手をついた。

「腰が、ガクガクします。イったのに、落ち着きません……こんなのは、初めてです」
《気持ちいいですか?》
「はぃ……気持ちいいです。背筋がゾクゾクして、腹の奥がきゅぅって……不思議です。何が起こってるかわからないのに、心地よい感覚です」
《そうですか、そうですか》 

 嬉しそうに何度も頷くストールに疑問を持ちつつも、ありのままの感想を伝えていく。

「ただ……」
《なんです?》
「魔王様との子作りは願ってもない事ですけど……こんなに気持ちいい思いをして、良いのかなって……」

 行為は魔族の為の謂わばセリアスとの共闘である。それに快感を覚えて良いのかと悩むタスクに、ストールは噴き出した。

《ぶふーー! 何言ってるんですか! 気持ち良くない性行為は性行為にあらずです! 心と快感がどちらか伴なわければ拷問ですよ》
「確かに……そうでした。うん」
《触手が何故快感を高める媚薬を分泌するか知ってますか? 捉えた獲物を大人しくさせる為でもありますが、快感を与えた方が着床率が上がるんです》
「!!」
《子を産む為には、気持ち良くならないとダメです》

 若干話は盛られているが、ストールの説明は嘘ではない。

「……気持ちいいのは、悪い事じゃないんですね」
《存分に快感に溺れてください》
「……」
『ブクブク』

 タスクは自分でしただけで、はしたなく乱れてしまった事を思い返し、本番ではそれ以上にきっと乱れてしまうだろうと考え至る。茹るように熱い顔を水につけて恥と共に泡を吐く。

「あれ? そもそも……魔王様って、俺で勃つんでしょうか?」
《……はぁぁぁ》

 不安の尽きぬ二人は世話が焼ける。




 次の日、ストールは森で木の実や素材の採取を行うセリアスへ同行し、単刀直入の質問をした。

《魔王様……大前提として、魔王様のモノは勃ちますか?》
「……なんだ急に。当たり前だ。早々勃起はしないが、機能はしている」
《……タスクさんで、勃ちますか?》
「む! そ、そうだな……それはヤってみなければ、わからん」

 魔族の中でも強者であり、エルフ程ではないがそれなりに長寿な龍人は他の種族よりも性欲が薄い。
 子作りも急いてヤる事ではない。
 逆に触手のような弱小魔族はとにかく、絶滅しないよう数を増やす事を念頭に置いて性欲に特化した進化を遂げている。

《タスクさんの気持ちを受け止める為にも、ちゃんと本番の妄想してください。それでちゃんと勃つのかも確認しておいてください。本番で勃たなかったら……タスクさん絶対傷付きますから》
「わ、わかった。なんだ? 最近やけに短気だな」
《触手として、繁殖行為を後押ししてるだけです》
「(触手を産むという事は、ストールの仲間が増えるという事。積極的になる理由はわかるが、せっつかないで欲しい)」

 とは言え、ストールの言う事は一理ある。本番で勃たなかったら、タスクの覚悟も気持ちも無下にしてしまう。
 性行為がどのような物かは知っている。経験は無いが、乱交文化のある種族の繁殖期にたまたま住処を訪れた際に、行為は沢山目撃している。
 そして、鉱山で行われていたような人間に魔族が慰み者にされている場面に出くわすことも少なくなかった。

「(……タスクを抱く)」

 白く柔らかな髪が上気した肌に張り付き、潤んだ瞳で愛おしげに自分を呼びながら股を開くタスク。
 無意識に喉が鳴った。

「魔王様? ボーッとして如何なさいました?」
「っ……ああ、ヘルクラスか。少し考え事をしていた」
「そうですか? 随分と顔が赤いですよ。あまり無理はしないでください」
「わかっている」

 心配をさせてしまったと反省し、外での妄想は控える事にした。
 しかし、視界にタスクが入るとついつい目で追ってしまう。揺れる耳も、跳ねる尻尾も風に靡く髪も獣毛も、何故か胸をさざめかせる。

「…………」

 愛おしい。ただ、前と変わらずそう思う。しかし、そこに孕んだ熱の温度が徐々に上昇している事を、セリアスは知らない。
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