【R18】十二年の孤独な両片思い――解けない愛の無理関数

夜子

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番外章 カラー・オブ・ホーム:プライベート・コレクション :石小路家の色彩

作品 No.06 ——『 隠し味の食卓 』

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​結婚後も、二人は頻繁に石小路家を訪れては夕食を共にしていた。今夜の献立は、真翠の母が腕を振るった秘伝のカレーだ。
しかし、真翠は皿の上で不自然に主張する人参を見つめ、ぷいと頬を膨らませた。そして、縋るような視線を隣の煌人に送る。
​煌人はそれを見て、優しく微笑みながら、自分のフォークで真翠の皿から人参を一つ、また一つと自分の皿へ移し替えた。真翠の顔に安堵の笑みが浮かぼうとした、その時。

​「真翠。いい大人なんだぞ、好き嫌いはよせ。自分が嫌いなものを夫に押し付けるなんて、礼儀知らずにもほどがある」
父親の鋭い声が飛ぶ。

​「お父様、そんなに仰らないでください。僕は……人参、好きですから」
煌人はにこやかに、そう言い切った。
​「煌人君。……正直に言いなさい」
父親のトーンが、低く落ちる。

​「…………はい。実は、僕も人参はあまり得意ではありません」
​「聞いたか、真翠。さあ、今すぐ自分の皿に戻しなさい」

​「でもお父さん! 煌人がお家でカレー作ってくれる時は、人参なんてこれっぽっちも入れないんだから!」

​「石小路真翠!」
父親の声が跳ね上がった。

「嫁いだ身でありながら、夫に料理をさせているとは何事だ!」
​「お父様、怒らないでください。料理は僕の趣味なんです。僕が好きでやっていることですから……」
「……もういい。とにかく飯を食え。真翠、その人参を残さず食べなさい」
「……はい」

夕食後、二人は和室に呼び出され、二時間に及ぶ「夫婦の在り方」についての訓話を受ける羽目になった。話の大半は煌人への称賛と、彼がいかに真翠を甘やかしすぎているかという苦言だった。
​ようやく解放された真翠は、不満を爆発させて二階の自分の部屋へ駆け込むと、「今日はもうここに泊まる!」と言い放った。
困り果てた煌人は一晩の宿泊を願い出、真翠の部屋の狭いベッドの下で、地べたに布団を敷いて寝ることになったのだ。
​真翠の残り香に満ちたこの部屋で、煌人はすでに理性が焼けつくような衝動を感じていた。

「ねえ、真翠……そんなに怒らないで……」
煌人がおずおずと声をかけるが、返事はない。
​どうすればいいのかと途方に暮れていた、その時だ。

真翠がベッドから起き上がり、吸い寄せられるように煌人の布団の中へと潜り込んできた。豊かな胸の重みが煌人の胸筋に押し付けられ、彼女の手が彼の口を乱暴に封じる。

​真翠が耳元で、甘く、そして残酷に囁いた。
​「ねえ、完璧な石小路家の婿殿。二年前、この部屋であなたが私に何をしたか……忘れちゃったわけじゃないよね?」

​塞がれた口の端から、煌人の熱い呼吸が漏れ出す。
忘れるはずがない。二週間の青森出張から戻ったその足で、焦がれるように石小路家を訪れたあの午後のことを。

家族での昼食を終え、ご両親が音楽会へ出かけた後の邸内は、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。
​「真翠、すごく疲れてるんだ……」

和室の薄暗がりの中で、彼は背後から彼女をそっと包み込んだ。腕の中に収まる体温だけが、その時の彼の世界のすべてだった。
​「疲れてるなら、眠ればいいじゃない」
​「真翠、男っていう生き物はね……消耗している時ほど、残酷なまでに命の熱が高ぶってしまうものなんだ。だから、どうしても眠れない」
彼は彼女の耳元に唇を寄せ、熱い吐息をそっと這わせた。

「ねえ、僕を助けてくれるかな?」
​「そんなに疲れてるのに、どうやって……」

​煌人は低く、慈しむように笑い、彼女の小さな手を自分の掌でそっと覆った。
「方法は、いくらでもあるだろう? それとも、誰かに見つかるかもしれないここで、無理やり分からせてあげようか」
​「だめ……見つかっちゃう……」
​「いい子だ。……君の部屋へ行こう」

​二階の自室。カーテン越しに射し込む午後の陽光が、微かな埃を黄金色に染め、シーツの上に柔らかな境界線を描いている。

煌人は上半身を起こし、吸い込まれるような瞳で彼女を見つめながら、ブラウスのボタンを一つ、また一つと、祈るような手つきで解いていった。
​「何してるの……疲れてるんじゃなかったの?」
​「上だけでいい。少しだけ、君に触れさせてくれ」

熱を帯びた指先が白い肌をなぞるたび、真翠の頬は熟した果実のように色づいていく。煌人はその柔らかな感触を掌で確かめ、夢見心地のの中で低く喘いだ。

「いい子だ。ズボンも脱がせてくれないか。知ってるだろう、今の僕は、君なしではいられないんだ」
​真翠は少し拗ねたように唇を尖らせながらも、彼の切実な欲望を、一枚ずつ丁寧に暴いていく。
​「下着もだ、真翠。……口で、試してみる? さっきシャワーを浴びたばかりなんだ」
​真翠は答えず、すでに熱く、硬く昂りきったそこを、壊れ物を扱うような指先でそっとなぞった。

「……まだ何もしてないのに、こんなに熱くなって、震えてる」
​「疲れているからこそ、君の熱が欲しくてたまらなくなるんだ。さっき教えただろう?」
真翠の小さな手が上下に何度か波打ち、煌人は天を仰いで、深い充足の吐息を漏らした。

「あ……はぁ……気持ちいい……」
​「煌人……」
​「ん? どうした?」
​「……私に、口でしてほしいの?」

​煌人は、震える彼女の口元を愛おしそうに指でなぞった。
「……いいのかい?」
​「気持ちよくしてあげられるか分からないけど……試してみる?」
​「……喜んで」

​真翠の拙い、けれどひたむきな奉仕に、煌人の理性が音を立てて崩壊していく。 

静まり返った室内で、互いの鼓動だけがやけに大きく響いていた。
​「真翠、もっと……奥まで……っ」 

​煌人が導くように彼女の頭を寄せると、真翠の小さな口腔が熱い塊を丸ごと飲み込んだ。
「……ん……ん、ふぅ……っ」

喉を衝くような熱量に、真翠の喉が波打つ。密着した粘膜が擦れ合うたび、「ヌチュッ」と卑猥な水音が、逃げ場のない口内から漏れ出した。
​「……苦しい、かい?」
「あんまり……慣れなくて……っ」 

​潤んだ瞳で見上げられ、煌人の腰が微かに跳ねる。
「いい子だ。……真翠、次は胸で擦ってみて」
​真翠は膝立ちになり、ブラウスからはみ出た豊かな胸の谷間で、火照りきった彼の分身を挟み込んだ。
「こう……?」

​真翠が上体を揺らすたび、吸い付くような柔肌が硬い熱と擦れ合い、「スベ、スベッ」と、瑞々しい果実を剥くような甘美な摩擦音が室内の静寂を浸食していく。
「そう、それだ……最高だよ。柔らかくて、熱い……あ、はぁ……っ」
​数回往復しただけで、煌人は自身が限界の淵に立っていることを悟った。荒くなる呼吸を必死に鎮めながら、彼は懇願するように、けれど命令するように真翠の後頭部を掴む。

​「真翠、お願いだ……もう一度、奥まで含んで」
​真翠は再び、その猛々しく昂った熱を口腔へと受け入れた。先ほどよりもさらに肥大したそれが、彼女の柔らかな内側を容赦なく押し広げていく。
煌人は本能に突き動かされるまま、何度も腰を突き上げた。

​「ジュウ、ジュチュ……ッ」
​激しく喉を叩く衝撃に、真翠の目尻から涙が溢れ出す。異変に気づいた時には、もう遅かった。
​「真翠、あ、あ……っ、出る、出る……!」
​逃げ場を失った熱い塊が、彼女の口内で一気に爆ぜた。
「ドクッ、ドクッ」と脈打つ衝撃が真翠の喉を直撃し、溢れんばかりの量に、彼女は声も出せず、ただ苦しげに喉を震わせる。

​眩暈のような快感の余韻に浸る間もなく、真翠は顔を伏せ、慌てて部屋を飛び出そうとした。だが、背後から伸びた煌人の腕が、それを許さない。
​「真翠、いい子だ……飲み込んで」
「ん……んん……っ!」

​首を振って拒む彼女の耳元に、彼は毒を含んだ蜜のような声で囁く。
「今吐き出したら、この部屋に匂いが残ってしまうよ。そうなれば……お父さんたちに、すべて知られてしまうね」

​真翠は絶望に似た眼差しで彼を睨みつけながら、熱い塊を喉の奥へと送り込んだ。
一滴残らず嚥下するまで、煌人は彼女の喉元を愛おしそうに、指先で「ゴクリ」と動くのを確かめるように撫で続けた。 

恥辱に顔を染めた真翠は、弾かれたように階段を駆け下りていった。
煌人は一人部屋に残り、乱れたベッドを驚くほど手際よく整え、窓を大きく開けた。初秋の風が、室内に残る密やかな情事の残香を攫っていく。

​その後、彼は真翠の着替えを手に、脱衣所の前で静かに彼女を待った。
浴室から出てきた真翠は、自分の服を抱えて穏やかに微笑む煌人を見て、ぷいと顔を背ける。
​「真翠、少し一緒に寝よう。……君も疲れただろう?」 
​結局、真翠は彼が差し出す手の温もりに抗えず、和室へと戻った。

畳の上、二人は指先を絡ませ合い、まるで何事もなかったかのように、純真な子供のように眠りに落ちた。
​帰宅した両親は、その睦まじい寝顔を見て、静かに微笑み合った。
「ママ、煌人は約束をちゃんと守ってくれたようだね」
「そうですね、パパ。本当に、信頼できるお婿さんだこと」

今、煌人の上に跨っている真翠は、彼を狂わせるほどに官能的だった。
月の光がカーテンの隙間から差し込み、彼女の白い肌を青白く照らし出している。

「真翠、よせ……っ。隣の部屋には、ご両親がいるんだぞ……」
煌人は苦しげに喉を鳴らし、真翠の細い腰を掴んで押し留めようとする。だが、月光に照らされた真翠の瞳は、挑発的な熱を帯びて揺れていた。

​「今更、何言ってるの? 二年前は、あんなことしたくせに!」
真翠はわざとらしく、彼の耳たぶを熱い舌先で湿らせた。「レロ、チュ……」と濡れた音が、静寂の中で残酷なほど鮮明に響く。 

​「真翠、僕が悪かった……。だから、それ以上は触るな。……大変なことになる」
「何? 爆発でもするの?」

​その言葉が終わるか終わらないかのうちに、煌人の理性が爆ぜた。彼は真翠の体を強引に翻すと、柔らかな布団の上に組み敷いた。
「君の体の中で、爆発する……。真翠、声を出すな。頼むから」

​下着を剥ぎ取り、準備もそこそこに、猛々しく昂った熱を最奥まで一気に叩き込んだ。
「アッ、グ……ッ、ハァ……ッ……!」
​「煌人、だめ……っ、これ……奥、奥が……っ」
「いいんだ……しっかり僕に掴まって。……我慢できなくなったら、僕の肩を噛んで」 

​禁忌の環境が、二人の神経を極限まで研ぎ澄ませる。
壁一枚隔てた隣の部屋では、父母が床から伝わる不自然な振動を感じていた。
「ギィ……、ギィ……」と微かに軋む畳の音が、深夜の沈黙を乱していく。

​「パパ……。これなら、すぐにおじいちゃんになれそうですね」
「ああ……。ママもな。きっと、世界一綺麗な、おばあちゃんになるだろう」
​そんな睦まじい会話の裏で、煌人は狂ったように腰を突き上げ続けていた。 

真翠の狭い内側が、熱い塊を容赦なく締め付け、吸い付く。
「ヌチュ、ジュウ……ッ、カポッ」
結合部から溢れ出す愛液が、粘りつくような卑猥な音を奏でる。 

​「真翠……真翠……っ!」
「……っ、声、声が大きすぎるわよ……ふ、あ……ッ、アッ」
「どうしようもないんだ……。君の中、最高に熱くて、……溶けそうだ……っ」

​煌人の瞳は、もはや理性の光を失い、ただ目の前の快楽を食い尽くす獣のそれだった。真翠は、狂気すら帯び始めた彼の唇を深い接吻で塞いだ。
「ンチュ、レロ……ッ……ジュル、ジュ……」

重なり合う唇から漏れる、空気を混ぜ込んだような湿った音が、二人の熱をさらに煽る。
​腰の動きはもはや制御不能な速度に達し、摩擦の熱で意識が真っ白に染まっていく。

「真翠、好きだ……大好きだよ……っ、出す、出る……っ!」
​愛の告白と共に、真翠のナカは、限界まで溜め込まれた熱い命の奔流で満たされた。
「ドクッ、ドクドクッ、ドリュッ……!」 

奥底まで叩き込まれる衝撃と、内側を焼き尽くすような熱。真翠は白目を剝き、激しく痙攣する身体を煌人に預けて、音のない絶叫を上げた。
​やがて訪れた、耳が痛くなるほどの静寂。
二人は乱れた呼吸の中で互いを見つめ合い、汗ばんだ額を寄せ合って、静かに、そして幸せそうに笑い合った。
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