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1:子供時代

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自分の部屋に戻り、人を払ってからベッドに飛び込む。
アラクに背を向けた頃から痛み出した頭は、今ではもうズキズキと立ってはいられぬほどの痛みを発している。今までのルードとしての人生と、日本という国で生きた俺の人生が頭の中でごちゃまぜになって、気持ち悪い。
(これから、どうしよう)
傲慢なルードとしての俺と、平凡な以前の俺。対照的な二つの人格であったが、これだけは一緒だった──生き延びたい。
きっと聖人君主な人であれば己の罪を悔いて……なんて考えるのかもしれないが、俺はどうにもそんな考えにはならなかった。大体、前世の俺だってルードのように極悪人ではなかったが、善人でもなかった。人を虐めたことはなかったが、虐めのターゲットが俺から別の奴になっても代わろうとはしなかった。ただただ大学受験して自分の実力で当たり障りない会社に入社して、営業成績も普通の社会人だった。犯罪を犯したことはなかったけど、酒と煙草は同級生に誘われて高校生の頃にしたことがあった。そういう、差しさわりのない平凡な人生を歩んでいた俺だったので。
急に俺の一挙一動が死に繋がるかもしれないだなんて、考えたことが無かったのだ。
それに、ルードだって……。自分で言うことではないが、たった9歳の少年なんだぞ。生まれた時から王子として両親に家臣に国民にチヤホヤされて、上等な暮らしを送るのも当たり前。いずれはこの国を導いてゆくのだと信じてやまなかった、たった9歳の少年なんだ。急に自分の残酷な未来が分かってもどうしようもない。大人に言ったところで「悪い夢でも見たんですね」と言われるに決まっているし、下手なこと言って両親にアラクのせいだと思われたら、アラクに酷い折檻をするかもしれない。(両親は悪い人間ではないが、王族として他国の虐げ方をわかっている人間なのだ)
それで小説より酷い結末になってしまっても困る。
(アラクを、幸せにするんだ────)
ガンガンと痛む頭で考えた計画は、至極単純なものだった。
(アラクを、半年間の虐めなんか忘れちゃうくらい、これからの人生を、俺が幸せにするんだ──)
俺が小説で読んだアラクは、どうしようもない環境とルードからの虐待で、心を壊してしまった。だけど今のアラクはまだ9歳。これからの人生をどうにでもしてやることが出来る年齢だ。
俺はゆっくりとベッドから起き上がり、机に向かった。記憶を思い出したからには、原作のルードがやったことをきちんと記しておかなければならないだろう。
「うう…………」
文字に起こした俺の蛮行は、前世の倫理観も持った今の俺から見たらまさに目をそむけたくなるもので。
「ぜったいに、ころさせない……」

俺の生き残りをかけた戦いが、今日から始まった。
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