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リレーするキスのパズルピース
罠とR指定/7
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紺のデッキシューズは組み換えされると、衣擦れと石畳を擦る音が響き渡った、人の気配はたくさんあるのに静寂。まるで深い森の中で様々な生き物の視線にさらされているようだった。
「少し考えればわかるでしょ? こんな策略してくるやつが誰かってことぐらい。罠を張る人間は四人しかいない。そのうちの二人はここにいる。残り二人。優雅なあれは、今、活動休止中。だから、本人が行く可能性が98.77%。だから、孔明になる!」
語尾だけ、真上にピョンとジャンプしたように飛び跳ねた。だがしかし、マゼンダ色の髪の中に隠された、全てを記憶する脳裏に、あのカーキ色のくせ毛と優しさの満ちあふれたブラウンの瞳がボケという名前で蘇った。
「貴増参も時々、策略してきますよ~」
「まあね、だから、一番頭のいい孔明に頼んだんだろうけど……」
限定五個のどら焼き。自分は仕事。どうやって手に入れるか。それを成功させてくれる可能性が一番高い人物は孔明ということことだ。しかも、孔明は明引呼へラブレターを運ぶことと交換条件にして、願い事を聞いている。策の応戦だった。
それぞれの愛妻弁当を膝に乗せながら、青空を見上げる、月命も焉貴も。しばらく二人の間に会話はなく、かすかに聞こえてくる生徒や教師の声、椅子を引く音などに漂っていた。
二人の沈黙はどこまでも続いていうように思えたが、焉貴がボブ髪をぐしゃぐしゃにしてことで破られた。
「それにしても、お前って、人生、自分の思う通りに動いてくよね?」
「ですが、ひとつだけ、僕の思う通りにならないことがありました」
焉貴が右を向くと、ニコニコというまぶたにいつも隠されているヴァイオレットの瞳が姿を現していたが、自分が履くガラスのハイヒールに視線は悲しげに落ちていた。
「そう、どんなこと?」
「僕は同じ職場のある人が好きでした。ですが、そちらの方は高校教諭がいいと言って、移動してしまったんです。ですから、僕の気持ちは伝えられませんでした」
月命の話し方は、今ここにいない誰かの話をしているように聞こえた。焉貴は膝の上で頬杖をついて、男の色香がする声で聞き返した。
「それ、俺のことでしょ? お前、誘ってんの?」
「そちら以外、何があるんですか?」
月命がガラス玉みたいな透き通った声で聞き返すと、強い春風にサアッと桜の花びらが一斉に舞い上がった。さっきまで一度も出会うことのなかった、ヴァイオレットと黄緑色の瞳はとうとう、学校の中庭で一直線に交わってしまった。
月命と焉貴は黙ったまま見つめ合う。まるで二人だけ空間を切り取られ、美しい湖畔で、ふと途切れた会話と歩みのようだった。
お互いのマゼンダと山吹色の髪を、服を、吹いてくる風の口笛のようなヒュルヒュルという音が二人を一緒に包み込み、透明なリボンをかける。
ラブロマンスも顔負けないい雰囲気だったが、ハイテンション数学教師の神聖で純真無垢な言葉で、がっつり崩壊した。月のように美しい頬のラインを、男の指先で焉貴はなめるようになぞる。
「そう。キスがいいの? それとも、フェ○? それとも……セック○?」
月命は再び真正面の教室たちを眺めて、焉貴の手をつかんで下にポイッと無情に落とした。
「こちらは学校です。どちらもしませんよ」
焉貴も前に向き直り、ピンクの細身のズボンで足を組む。
「自分で仕掛けておいて、お預け……。お前、本当にドSだよね? こういうところではさ。プライベートはドMなのに……」
「僕たちは教師です。生徒にキスなどをしてるところは見せられませんからね」
確かな正論。誘っていたのに、何だか矛盾しているようだったが、後ろ髪引かれることもなく、焉貴は気持ちをズバッと切り替えて、「そう? ならいいけど……」右手をサッと斜めに上げた。「今の話、没収させていただきます!」
ヴァイオレットの瞳は焉貴に向くことはなかったが、罠の匂いが思いっきりするようなことを口にした。
「おや? そうきましたか。それでは、こうしましょうか~」
「どうするの~?」
焉貴は両利きの手でマゼンダ色の長い髪を弄ぶ、まるで恋人にするように。誘っていたわりには、さらに遠ざかる内容が、凛とした澄んだ丸みのある儚げで女性的な声で中庭に舞った。
「僕は君とは永遠にキスをしない、です」
石畳の上で紺のデッキシューズは軽く組み直され、背もたれにぐっともたれかかり、視界は完全に校舎に切り取られた青空と、影という憩いの場所を作る木々の葉だけになった。
「お前、本当にドSだよね? 無限に永遠なんだけど、この世界って」
終わりのこない、そんな世界の学校の中庭で、月命の含み笑いが不気味にした。
「うふふふっ。君とはプライベートです」
「ドM……」
黄緑色のどこかいってしまっているような瞳から空は消え失せ、マゼンダ色の長い髪がすっと大きく入り込んできた。月命の耳元に唇を近づけて、教師同士のいけない昼休みがささやかれる。
「お前、俺にどうされちゃいたいの?」
「君の望むまま、どうにでもしてください」
パステルブルーのドレスを着た男は自ら拘束を選び取った、かろうじて着ているような白のシャツの前で無防備に。一方的なキスが始まりそうだったが、焉貴はナルシスト的に微笑んで、指をパチンと鳴らした。
「そう。じゃあ、こうしちゃう!」
「少し考えればわかるでしょ? こんな策略してくるやつが誰かってことぐらい。罠を張る人間は四人しかいない。そのうちの二人はここにいる。残り二人。優雅なあれは、今、活動休止中。だから、本人が行く可能性が98.77%。だから、孔明になる!」
語尾だけ、真上にピョンとジャンプしたように飛び跳ねた。だがしかし、マゼンダ色の髪の中に隠された、全てを記憶する脳裏に、あのカーキ色のくせ毛と優しさの満ちあふれたブラウンの瞳がボケという名前で蘇った。
「貴増参も時々、策略してきますよ~」
「まあね、だから、一番頭のいい孔明に頼んだんだろうけど……」
限定五個のどら焼き。自分は仕事。どうやって手に入れるか。それを成功させてくれる可能性が一番高い人物は孔明ということことだ。しかも、孔明は明引呼へラブレターを運ぶことと交換条件にして、願い事を聞いている。策の応戦だった。
それぞれの愛妻弁当を膝に乗せながら、青空を見上げる、月命も焉貴も。しばらく二人の間に会話はなく、かすかに聞こえてくる生徒や教師の声、椅子を引く音などに漂っていた。
二人の沈黙はどこまでも続いていうように思えたが、焉貴がボブ髪をぐしゃぐしゃにしてことで破られた。
「それにしても、お前って、人生、自分の思う通りに動いてくよね?」
「ですが、ひとつだけ、僕の思う通りにならないことがありました」
焉貴が右を向くと、ニコニコというまぶたにいつも隠されているヴァイオレットの瞳が姿を現していたが、自分が履くガラスのハイヒールに視線は悲しげに落ちていた。
「そう、どんなこと?」
「僕は同じ職場のある人が好きでした。ですが、そちらの方は高校教諭がいいと言って、移動してしまったんです。ですから、僕の気持ちは伝えられませんでした」
月命の話し方は、今ここにいない誰かの話をしているように聞こえた。焉貴は膝の上で頬杖をついて、男の色香がする声で聞き返した。
「それ、俺のことでしょ? お前、誘ってんの?」
「そちら以外、何があるんですか?」
月命がガラス玉みたいな透き通った声で聞き返すと、強い春風にサアッと桜の花びらが一斉に舞い上がった。さっきまで一度も出会うことのなかった、ヴァイオレットと黄緑色の瞳はとうとう、学校の中庭で一直線に交わってしまった。
月命と焉貴は黙ったまま見つめ合う。まるで二人だけ空間を切り取られ、美しい湖畔で、ふと途切れた会話と歩みのようだった。
お互いのマゼンダと山吹色の髪を、服を、吹いてくる風の口笛のようなヒュルヒュルという音が二人を一緒に包み込み、透明なリボンをかける。
ラブロマンスも顔負けないい雰囲気だったが、ハイテンション数学教師の神聖で純真無垢な言葉で、がっつり崩壊した。月のように美しい頬のラインを、男の指先で焉貴はなめるようになぞる。
「そう。キスがいいの? それとも、フェ○? それとも……セック○?」
月命は再び真正面の教室たちを眺めて、焉貴の手をつかんで下にポイッと無情に落とした。
「こちらは学校です。どちらもしませんよ」
焉貴も前に向き直り、ピンクの細身のズボンで足を組む。
「自分で仕掛けておいて、お預け……。お前、本当にドSだよね? こういうところではさ。プライベートはドMなのに……」
「僕たちは教師です。生徒にキスなどをしてるところは見せられませんからね」
確かな正論。誘っていたのに、何だか矛盾しているようだったが、後ろ髪引かれることもなく、焉貴は気持ちをズバッと切り替えて、「そう? ならいいけど……」右手をサッと斜めに上げた。「今の話、没収させていただきます!」
ヴァイオレットの瞳は焉貴に向くことはなかったが、罠の匂いが思いっきりするようなことを口にした。
「おや? そうきましたか。それでは、こうしましょうか~」
「どうするの~?」
焉貴は両利きの手でマゼンダ色の長い髪を弄ぶ、まるで恋人にするように。誘っていたわりには、さらに遠ざかる内容が、凛とした澄んだ丸みのある儚げで女性的な声で中庭に舞った。
「僕は君とは永遠にキスをしない、です」
石畳の上で紺のデッキシューズは軽く組み直され、背もたれにぐっともたれかかり、視界は完全に校舎に切り取られた青空と、影という憩いの場所を作る木々の葉だけになった。
「お前、本当にドSだよね? 無限に永遠なんだけど、この世界って」
終わりのこない、そんな世界の学校の中庭で、月命の含み笑いが不気味にした。
「うふふふっ。君とはプライベートです」
「ドM……」
黄緑色のどこかいってしまっているような瞳から空は消え失せ、マゼンダ色の長い髪がすっと大きく入り込んできた。月命の耳元に唇を近づけて、教師同士のいけない昼休みがささやかれる。
「お前、俺にどうされちゃいたいの?」
「君の望むまま、どうにでもしてください」
パステルブルーのドレスを着た男は自ら拘束を選び取った、かろうじて着ているような白のシャツの前で無防備に。一方的なキスが始まりそうだったが、焉貴はナルシスト的に微笑んで、指をパチンと鳴らした。
「そう。じゃあ、こうしちゃう!」
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