明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

文字の大きさ
498 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

主人と執事の大人関係/2

しおりを挟む
 涼介と瞬が不思議に思ってそっちを見ると、紺の長い髪の持ち主はひとつだけ空いている席へ、冷静な水色の瞳を向けて、こんなことを突然口にした。

「何かあったのですか――?」

 そう言う崇剛の心の内は、

 こちらで、涼介が聞き返してくるという可能性は99.99%――
 こちらで、瞬が五つ先で質問をするという可能性は45.97%――

 食堂にいる誰かに問いかけたのでもなく、霊感のない執事は簡単に主人の罠に引っかかってしまった。

「だから、通訳してくれって。一人で話すな、そこで。お前おかしな人になってる」

 そばに控えていた使用人にとっては昔からのことで、崇剛ぼっちゃまは小さい頃から誰もいないところに向かって話していたのだ。

 今は亡き先代は優しい方で、やめさせるでもなく、本当に誰かがいて話しているのだろうと判断し、否定するような扱いは決してしないようにと言いつかってきた。

 崇剛は涼しい顔して、最終確認を取る。

「言ってしまっても、よろしいのですか?」
「そこで、こそこそ話されるほうが気分がよくない」

 椅子の下で、アーミーブーツの足先はイライラと床に軽く叩きつけられた。

(どうして、今日は一回確認するんだ? いつもしてこないくせに……)

 執事は違和感に気づいたが、主人の中ではこんな計算がされているとは思いもよらなかった。

 涼介が困るという可能性が78.98%――
 瞬があなたに質問してくるという可能性が78.98%――に変わりました。
 同じ数字です。
 すなわち、瞬が質問することで、あなたが困るということを指しています。

 崇剛はさっきくすくす笑った重要な会話の内容を、密かに悪戯という光を瞳に宿しながら告げた。

「瑠璃さんはこちらのように言っています。『ラジュのお陰で遅れおったわ! 霊力使いすぎて倒れおった。あやつ、我を弄びおって!』だそうです」

 主人は決して嘘は言っていなかった。崇剛はロイヤルブルーサファイアのカフスボタンを線の細い体の前へ寄せ集め、両手をテーブルの上で優雅に組み、予想した通りに乙葉親子が動くのを待った。

「…………」

 そうして、策略家が罠を仕掛けた言葉から五番目の会話――。その通りに、小さな子供――瞬が足をパタパタさせながら父に質問した。

「パパ、もてあそぶって、なに?」
「そ、それは……!」

 毎日のように、BL罠に陥れられている涼介は言葉に思わずつまり、主人の罠が何だったのかここで初めて気づいた。

(お前また罠を仕掛けてきて! その意味って……)

 優雅に微笑んでいる崇剛の冷静な水色の瞳と、何とも言えぬ顔になった涼介のベビーブルーの瞳は、オレンジ色の炎が揺れる夜色の中で絡み合う。

 そうして、策略的な主人によって、執事はBL妄想へと強制送還されてしまった――

    *

 ――青白い月明かりが斜めに差し込む部屋。

 明かりが全て消された空間に、カツンカツンと硬いもの同士がぶつかる音が、体中を舐めるようにはいずり回る。

 涼介の上半身はいつの間にか露出させられたまま椅子に座らされていた。動こうとするが、

「っ!」

 彼の男らしい腕は後ろ手にしてロープでキツく縛られていて、抗おうとするたび、紐は深く食い込む。

 斜めに入り込む月影に、カツンカツンという音をまといつかせながら、茶色のロングブーツがチラチラと映り込んでは、姿を消してをリピート。

 視線を上げると、主人の女性的な長い紺の髪と線の細い体が、神経質な横顔を見せて右へ左へ行ったり来たりしていた。

 下からはい上がるエロスは、夜色に染まった貴族服に強調アンファーゼされ変革を遂げた。残忍な快楽に酔いしれる、人の歪んだ欲望へと。

 主人の腰のあたりで組まれた手の中にある、聖なるダガーの刃は享楽きょうらくに恍惚とし、執事を痛ぶり尽くすような艶麗えんれいな光を放っていた。

 感覚的な執事の妄想はかなり想像力豊かで、SMみたいなシチュエーションを勝手に作り出していた。

 その上、屋敷にきたばかりの頃に、主人からよく仕掛けられていた罠を、めくるめく空想に率先して招き入れてしまい、崇剛の上品なイメージが崩壊したまま話は進んでゆく――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...