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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
探偵は刑事を誘う/13
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一分の沈黙が流れた。
彰彦はくわえ葉巻のまま口の端でふっと笑い、
「…………」
お前さんの頭は相変わらず、クールでデジタルでいやがる。がよ――
崇剛へ身を乗り出すと、長さの違うペンダントのチェーンがチャラチャラと歪み、しゃがれた声で返事を返してやった。
「いいぜ。邪さんひとりでも多くノックアウトできんだろ。れによ、お前さんがいちいち聖霊寮にくる必要もなくなんだろ」
「ありがとうございます」
三十二年間の中で、一番の緊張感から解放され、崇剛に優雅な笑みが戻った。間髪入れず、流暢な英語が割って入ってきた。
「Hey, Akihiko」さっきまで黙って聞いていたダルレシアンは、鋭いブルーグレーの眼光が自分へ向くのを待った。
「What?」
彰彦は暑くでどうしようもないような気怠さで聞き返した。ダルレシアンは白いローブの下で、妖艶に足を組み替え、意味ありげに微笑む。
「I ’n’ he slept together last night/昨日、彼と一夜をともにしたんだ」
「What kind of joke?/どんなジョークだよ?」
どんな話の順で言ってきてるのか――。彰彦はひとまずカウンターパンチを喰らわせた。
ふたりの話をそばで聞いていた崇剛は、別のところに引っかかりを覚えたのだった。
「英語が話せるのですか?」
弄んでいたジェットライターを、彰彦はローテーブルの上にザーッと滑らせる。
「外国の映画を観んのが好きでな。簡単なものならわかんぜ」
「I see. It's good if you can communicate,maybe?/そう。それなら話が早いかも?」
崇剛に紹介してもらい、英語しか話していなかったダルレシアンは、ここでやっとカミングアウトした。
彰彦は持っていたミニシガリロを乱暴に灰皿へ投げつける。
「てめえ、さっきから、話の内容わかってて、聞いてやがったのか!」
崇剛とふたりきりの世界だと思っていたのに――。
「そうだよ」
しれっと、春風が吹いたみたいに穏やかに微笑みながら、しっかり策略的な外国人を前に、彰彦は帽子をとって、藤色の髪をガシガシとかき上げた。
「どいつもこいつも罠仕かけてきやがって。どうせ、疲れちまって、たまたま一緒に寝たんだろ?」
三十八歳の男を騙そうとは、そうは問屋が卸さない――。
「Not only that/それだけじゃないよ」
聡明な瑠璃紺色の瞳は、デジタルに寂しさ色を帯びて、崇剛の神経質な顔を見つめた。
「Sugata, hug me because I'm lonely?/崇剛、寂しくなったからぎゅーってして?」
崇剛はあきれた顔をする。「昨夜、私の部屋を訪れたのは、罠だったのですね?」
演技だったのだ。やはり男色家であった、元教祖は。何の悪びれた様子もなく、ダルレシアンは春風のようにふんわり微笑んで、
「そう。犯人を探すのは、いつでもよかったよね? だって、もう死んでしまったんだから」
事実として確定している以上、物事は動かないのだ。昨日の夜に寝室を訪れるのは不自然だった。
「おかしな人ですね、あなたは」
崇剛は手の甲を中性的な唇に当てて、くすくす笑い出した。
彰彦はくわえ葉巻のまま口の端でふっと笑い、
「…………」
お前さんの頭は相変わらず、クールでデジタルでいやがる。がよ――
崇剛へ身を乗り出すと、長さの違うペンダントのチェーンがチャラチャラと歪み、しゃがれた声で返事を返してやった。
「いいぜ。邪さんひとりでも多くノックアウトできんだろ。れによ、お前さんがいちいち聖霊寮にくる必要もなくなんだろ」
「ありがとうございます」
三十二年間の中で、一番の緊張感から解放され、崇剛に優雅な笑みが戻った。間髪入れず、流暢な英語が割って入ってきた。
「Hey, Akihiko」さっきまで黙って聞いていたダルレシアンは、鋭いブルーグレーの眼光が自分へ向くのを待った。
「What?」
彰彦は暑くでどうしようもないような気怠さで聞き返した。ダルレシアンは白いローブの下で、妖艶に足を組み替え、意味ありげに微笑む。
「I ’n’ he slept together last night/昨日、彼と一夜をともにしたんだ」
「What kind of joke?/どんなジョークだよ?」
どんな話の順で言ってきてるのか――。彰彦はひとまずカウンターパンチを喰らわせた。
ふたりの話をそばで聞いていた崇剛は、別のところに引っかかりを覚えたのだった。
「英語が話せるのですか?」
弄んでいたジェットライターを、彰彦はローテーブルの上にザーッと滑らせる。
「外国の映画を観んのが好きでな。簡単なものならわかんぜ」
「I see. It's good if you can communicate,maybe?/そう。それなら話が早いかも?」
崇剛に紹介してもらい、英語しか話していなかったダルレシアンは、ここでやっとカミングアウトした。
彰彦は持っていたミニシガリロを乱暴に灰皿へ投げつける。
「てめえ、さっきから、話の内容わかってて、聞いてやがったのか!」
崇剛とふたりきりの世界だと思っていたのに――。
「そうだよ」
しれっと、春風が吹いたみたいに穏やかに微笑みながら、しっかり策略的な外国人を前に、彰彦は帽子をとって、藤色の髪をガシガシとかき上げた。
「どいつもこいつも罠仕かけてきやがって。どうせ、疲れちまって、たまたま一緒に寝たんだろ?」
三十八歳の男を騙そうとは、そうは問屋が卸さない――。
「Not only that/それだけじゃないよ」
聡明な瑠璃紺色の瞳は、デジタルに寂しさ色を帯びて、崇剛の神経質な顔を見つめた。
「Sugata, hug me because I'm lonely?/崇剛、寂しくなったからぎゅーってして?」
崇剛はあきれた顔をする。「昨夜、私の部屋を訪れたのは、罠だったのですね?」
演技だったのだ。やはり男色家であった、元教祖は。何の悪びれた様子もなく、ダルレシアンは春風のようにふんわり微笑んで、
「そう。犯人を探すのは、いつでもよかったよね? だって、もう死んでしまったんだから」
事実として確定している以上、物事は動かないのだ。昨日の夜に寝室を訪れるのは不自然だった。
「おかしな人ですね、あなたは」
崇剛は手の甲を中性的な唇に当てて、くすくす笑い出した。
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