拗らせΩは恋を知らない

Hiiho

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僕はβになる 3

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綾木の家は古くからの名家で、彼の祖父も父親も警察官僚の‪α‬だ。確か兄も警視庁に勤めているエリートのはず。

うちも代々‪α‬家系だが、賃貸経営やホテル経営、手広く不動産業で財を成しているためエリートというよりただの金持ち。

エリート一族の綾木よりも上にいたのが、ただの金持ちニセ‪α‬だったなんて知ったら、こいつはどう思うんだろう。



βになった俺に発情期は来ないにしても・・・マズイな、リビングに散乱した物の中に抑制剤や特効薬が紛れている可能性も無くなはい。

「綾木・・・α‬のお前に掃除洗濯料理をしてもらうのは気が引ける。悪いが、チェンジだ。・・・・・・あ、もしもし本日よりハウスキーパーをお願いした久遠ですが」

俺はプロフェッショナルハウスキーパー マム にスタッフチェンジ要請の電話を入れると

『久遠様、如何なさいましたか?』

電話番の佐藤さんが対応してくれる。

「スタッフのチェンジを・・・」

『左様でございましたか。綾木が何かご無礼を』

「いや、そんな理由ではないんですが」

『・・・もしかして、綾木が‪α‬であることがご不都合でしたか?』

不都合だ、と言ってしまえば、俺がΩだと自白することになる。あくまで先週までの話だけどな!

「いえ、そういうわけでも」

『当社は理由の無いチェンジは承っておりません。それにまだ綾木はお仕事させて頂いては無いですよね?彼の仕事は完璧です。きっと久遠様もご満足して頂けると思います。一度だけチャンスをくださいませんか?本日の彼の仕事ぶりが気に入らなければ、他のスタッフをご用意致しますので』

低姿勢なのに圧が強い佐藤さんに押され、渋々「わかりました」と言ってスマホをソファに落とす俺。


「なんだよ。俺が同級生の‪α‬だからって遠慮すんなよ水くせぇな。金もらって仕事すんだから、お前が気遣うとこじゃねーって」

気にすんな、と綾木は俺の肩に手をのせる。

ちっがーう!お前を気にしても気遣ってもいない!俺は自分がΩ事が同級生にバレたくないだけだ!

「とりあえず掃除すっから、茜は違う部屋にでも行ってろよ」

「いや、ここで見てる」

ソファの上で体育座りをする俺に、綾木は困ったような視線を向けてくる。

「いくら俺が家追い出された身だからって、人のもん盗ったりとかしねぇって」

「そういうんじゃない。綾木の仕事ぶりを見てる」

そして抑制剤の類が出てこないかを。

「まあ、好きにしてていいけど・・・」

綾木は俺に訝しげな視線を向けてから、慣れた手つきで散らかったリビングを片付けてゆく。


暫くその様子を見ているうちにウトウトと睡魔に襲われ、俺は重い瞼を落とす。




「・・・ね、茜」

「ん・・・うん?」

「寝室以外の掃除は終わったぞ。まだ時間あるけど、なんかメシ作っとこうか?」

「うーん・・・。・・・うん!?」

しまった。完全に寝落ちてしまっていた!
慌ててスマホを見ると、綾木が来てから2時間も経ってしまっていた。

ご丁寧に自分に掛けられていたブランケットを剥ぎ、整頓されたリビングを見渡し、キッチン、バスルーム、トイレ、玄関・・・ベッドルーム以外が綺麗に掃除されているのを確認する。

「さすがはナンバーワンハウスキーパー。仕事が早いな」

「へへ。だろー?気に入ってくれた?」

「まあ・・・」

これならチェンジはしなくても・・・
ってそこじゃないんだよ!俺が気になってんのは!

「綾木、その・・・なんだ。掃除してて何か変わったことは・・・」

例えば‪α‬だと思ってた男の部屋に、Ωの発情抑制剤があった・・・なんて事は無かったか?

「変わったこと?別に無かったけど」

そう聞いてホッとする。

誕生日の1週間ほど前に発情期が終わったところで、次の発情期が約3ヶ月後、つまり30を迎えてから来る予定だったから、散らかし放題の部屋に放置してあった気がする抑制剤。見当たらなかったのならそれでいい。

もう自分には必要の無い物だと、もしかしたら無意識に捨ててしまっていたのかもしれない。



「それよかさー、冷蔵庫、何も入ってねんだけど?お前いつも何食って生きてんの?」

「心配いらない。ネットで注文すればすぐに、自転車に乗った親切な人が食べ物を届けてくれる時代だ。少し多めに支払えばゴミを持って行ってくれたりもする」

「・・・あっそ。なあ、俺なんか作っといてやるよ。買い物行って来ねぇ?」

「買い物だと?買い物なんか行ったらどんな危険があるかわからない」

Ωの定期検診も専属の医師に自宅まで来て貰っているんだぞ。

「危険、って?」

「いつどこで‪α‬に襲われるか・・・」

「‪α‬に?なんで?」

「それは俺が」

そこまで言ってはたと気付く。
おいおいおい!しっかりしろ俺!
高校を卒業してから他人と全く接点が無かったから思わず油断してしまった。家に籠っている期間が長過ぎて、‪α‬のフリをする癖が完全に抜けてしまっている。

「おれっ、俺のような優秀な‪α‬は、ほ、他の‪α‬に本能的に嫌われやっかまれる可能性があるからな!」

「ふーん。‪『‪α‬が本能的に襲う』って、‪‪なんかΩが言いそうな言葉だな。んな警戒しなくても平気だって!行こうぜ買い物。俺財布預かんのとか嫌なんだよ」

「いや、俺は・・・」

いくらβになったからって、発情しないと確実にわかるまでは外出は避けたい。せめて次の発情期が何事も無く過ぎるのを確認してから・・・

「なに、そんなに‪他のα‬が怖い? 高校んときとはえらい違いだな」


‪α‬が怖い、だと?そんなわけがない。

今こうして目の前で俺を見下ろしているコイツは間違いなく‪α‬で、こんなに近くにいるのに俺は何も感じない。それはきっと、俺がβになったからだ。

寝室へ行き、財布を持ってリビングへと戻る。

「行くぞ、買い物に」


俺は綾木と共に、何年か振りに玄関のその先へと踏み出した。
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