拗らせΩは恋を知らない

Hiiho

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逆らえない 3

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藤は俯く。

「・・・相応しくない、と思う理由がわからない」

自身の出生が明らかではないから?
そんなのは、藤にはどうしようも無いことなのに。

「お前は、田中に引き取られ育てられたことを恥じているのか?」

「っ!そんなはずありません!父と母の子として誇りを持っています!」

俯いたまま、藤は大きな声で反論する。

「だったら自分をそんな風に思うな」

「けれど・・・っ」

「田中はお前の事を嬉しそうに話していた。愛されている証拠だろう?」

「・・・はい」

「それ以上もそれ以下も無い。自分を卑下する必要は無い」

はい、と返っては来たが、何かを考える様子で藤は顔を上げようとはしなかった。


困ったな。俺は人を励ますのは得意ではない。しかし、使用人がこうもあからさまに落ち込んでいる姿は、見ていて気持ちのいいものでもない。


「藤」

「名を呼ばないでください」

???だったらどう呼べと?
・・・そうだ。田中父をセバスと呼んでいるのだから、息子の方はスチュアートとでも名付けようか。

「では、ステューと・・・」

「茜様。先ほどのは、相応しい と思っても構わない、と捉えてもよろしいのでしょうか」

えっ? そういうつもりでは無かったのだが・・・。
ん?いやそうなってしまうのか?

「すまない。言葉の綾だ。・・・実は俺には恋人が・・・」

「〝恋人〟とは、〝運命〟よりも深い繋がりがあるものなのですか?」

俯いたまま立ち上がった藤が、ゆらりゆらり とベッドの方へ近づいて来る。


逃げ、なければ。


頭では判断するが、体は一向に動かない。

「藤、どうしたんだ突然、下がれっ、藤!」

「突然ではありません。本当は・・・一目見た瞬間から、あなたに触れたくて堪らなかった」

俺が感じていたのと同じだ。
当然だ。藤と俺とは、運命の糸で繋がっているのだ。
彼との距離が縮まるほどに、自らも手を伸ばし求めたくなる衝動を必死で抑える。

ベッドが僅かに軋み、壁に寄り掛かる俺の数センチ先まで迫った藤の瞳に見つめられ、上昇する体温に耐え切れず俺は目を逸らす。

藤の唇が自分のそれに触れそうになり咄嗟に避けるが、頬に柔らかな湿り気を感じた途端「この男の全てを受け入れたい」と本能が騒ぎ出す。


抗オメガ剤など、運命の前では何の抵抗にもならないのか。


全身の力が抜け壁に寄りかかっていた上半身をベッドへと預けると、重なるように跨って来た藤に首元へ顔を埋められ、痛いほどに股間が反応する。
下着の後ろの部分が濡れているのを自覚すると、無意識に きゅんきゅん と収縮する窄まり。

そこをこじ開けられる感覚を俺は知っている。
押し拡げられ、めいっぱい埋め込まれ、中を掻き回される快感を教えられたから。

綾木に。


「い・・・やだ・・・綾木・・・」

体が、綾木にしか反応しなければいいのに。


両手を拘束されている藤が口を巧みに使って、俺のシャツのボタンを外してゆく。

抵抗したいのに、震える体は完全に意志とは切り離されてしまったようだ。

時間をかけて暴かれた胸元に熱い息がかかる。

「恋人につけられた痕でいっぱいですね。妬けるな」

「や・・・        ふ、じ・・・」

「名を呼ばないでとお願いしたはずです。それだけで俺は煽られてしまう」

『私』ではなく『俺』に変わったのは、彼の理性が削られているからなのか。

鎖骨の上を藤の舌が這う。

「・・・っ」

「茜様は、匂いだけじゃなく肌も汗も甘い。『食べてくれ』と言ってるみたい」

「違・・・」

わない。下着の中はもう、張り詰めた屹立と溢れてくる蜜液でぐちゃぐちゃだ。
綾木との行為でもここまで濡れた覚えはない。

藤から色濃く漂うこの匂いが、俺の体を狂わせているんだ。


鎖骨に沿って行き来する舌が下へ降りて行き、胸の突起に触れた瞬間、びくん と背中が跳ねた。
くるくると円を描くように舐られ、強く吸いつく感触に身を捩る。

「ふ・・・っ、うぅ・・・」

声が出そうになるのを両手で塞ぎ、快感に溺れてしまわないようにするのが精一杯の抵抗。
しかし口を塞いだために、α‬のフェロモンを過剰に鼻から吸い込んでしまう。それだけで下半身がブルブルと震え、蓄積した熱を放出したくて堪らなくなる。

もう限界だ。

「んんぅッ、・・・う、・・・ぅ」

まだ触れられてもいない屹立が下着の中で白濁を吐き出す。


乳首を弄られただけで達してしまうなんて、どうなってしまったんだ俺の体は!?
‪α‬のフェロモンにあてられて、快感が増幅しているに違いない。

出したばかりだというのに、萎えるどころかまたすぐにせり上がってくる射精感。
同時に、物足りなさを感じる尻の奥が疼いて堪らなくなる。


「茜、さま・・・    茜・・・っ、        俺の・・・!」

「!!    痛・・・っ!」

フーッ、フーッ と息を荒げた藤が、胸元にある綾木のつけた痕に噛み付く。

歯がくい込む痛みは確かにあるのに、それ以上の悦が身震いをさせる。

「藤、やめ・・・ろ」

言葉とは裏腹に、藤から与えられる快感も痛みも受け入れてしまう。ラット化している彼が欲しいと自分から腰を突き出し、藤の腹に股間を擦り付ける。まるで誰かに操られているかのような身体。

開いた脚の間に割り込んできた藤は、窄まりに擦り付けるように腰を前後し始め、それに合わせて自分も腰を振る。
布の摩擦と卑猥な水音が、更に欲望を掻き立てる。

「あっ、あぁ・・・、ぁ」

挿れて欲しい。挿れて、挿れて・・・
藤と繋がりたい。藤の子を孕みたい。

嫌だと、綾木がいいと思う心が薄れてゆく。
ままならない自分の身体と思考が、もどかしくて恨めしくて涙が出る。


綾木・・・


消えそうな理性を頼りに、枕の下に隠し置いた錠剤へ手を伸ばす。
なんとか掴んだ抗オメガ剤を一錠 口に含んで、俺は藤を引き寄せ口付けた。

応えるように藤の容赦の無い舌が押し入って来て、彼に飲ませようと忍ばせた抗オメガ剤を危うく飲み込んでしまいそうになる。
それでも自分が今出せる力全てを使って、藤の体をベッドに沈め見下ろす体勢に持ってゆく。
溶けかけた錠剤を舌で藤の喉へ押し込むと、唾液と共に こくん と彼は飲み込む。

次第に彼の呼吸は静かになり、暴れていた下半身が動きを鈍くする。血走った瞳が瞼で塞がれ、藤の体は睡眠状態に落ちたように動かなくなった。

それを確認し、自らも外腿に特効薬を射ち、藤の傍らに転がる。



運命、とは何なのだろう。

身体中を支配し、甘く、激しく


そして、残酷だ。







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