超消滅士・蘇芳鞘の二度目の人生譚

心響

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第20話「心の中だけは自由空間」

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 鞘と斗真の出会いは18年前にさかのぼる。

 当時鞘は16才。この頃には血は繋がっていなくとも母・小百合、父・晃彦、姉・葵たちに大切にされていた。更に学校にも通わせてくれたのだ。
 そして高校に進学した鞘はとある男子生徒と出会う。

 それが、藤方斗真である。

 彼は鞘と同じクラスの生徒だった。コミュニケーション力オバケと呼ばれていた斗真はあっという間にクラスの生徒たちと親しくなる。
 もちろん彼は鞘にも声をかけてきた。
 だが、斗真にはひとつ欠点があったのだ。それは、女好きという事。
 女の子を目にすると声をかけずにはいられない癖があるのだ。

「君の名前の『さや』って漢字表記だと刀の鞘なんだね」

 人懐こい笑顔で尋ねてくる斗真に鞘は刀剣好きな両親が名付けたと返した。
 ニコニコしながら話を聞く斗真に鞘は苦手意識を持つ。彼が放つピカピカな眩しい光に消えてしまいそうな気さえした。

 斗真が学校の先生になるのが夢だと知るのはもう少し親しくなってからである。
 その後もいろいろあって斗真を愛するようになり恋人になるワケだが。

 翌年。運命のあの日も斗真は天葉邸にいたが凶星による魔物たちを利用した大事件が起こったために鞘は瀕死の重体に陥り、斗真とは離れ離れになってしまった。

 鞘は以上の事に加え、教師となった斗真から思いがけず「17年前に行方がわからなくなった女性が同じ名前で漢字も刀の鞘なんだ」と聞かされた事も音羽やリアンの皆に話した。
 苺と蜜柑は斗真と17年前に会っており、彼が教師となっていた事に驚くと同時に「思いがけず再会出来てよかったね」と鞘に声をかけた。
 当時2人は7歳。その頃から苺は鞘が大好きで、はじめは斗真を子供ながらにライバル視していたが、彼の人柄を知ると鞘との仲を認めるようになったという裏話がある。

 鞘の話を聞き終え、音羽からは「藤方先生は鞘ちゃんの事を今も覚えている。鞘ちゃんも正体を明かしたら、受け入れてくれていたんじゃないかな」、リアンの皆からも「藤方先生は今も鞘ちゃんの事愛してるんだよ。音羽ちゃんの言うように私はあなたの恋人だった天葉鞘ですって打ち明けたら先生喜ぶと思うけど」とどちらも打ち明けるべきとの見解を示した。

 それに対する鞘の返答は......。
「あれから17年もの長い月日が経っています。つまり私とトマさんにも17年の差が出来た事になります。もし私がトマさんに正体を明かしたとして......いずれトマさんは『自分が担当するクラスの生徒とみだらな関係を持った』と騒がれ非難を受ける事になります。当然教師も続けられなくなり退職を余儀なくされるでしょう。教師になる事はトマさんの長年の夢でした。その思いを知っている私が、私の想いで壊してよいハズがありません。トマさんには大人の女性と結婚して幸せになって頂きたいのです。なので、この先も正体を明かす事はしないでしょう。なぜなら17年前のあの日に天葉鞘はこの世から消滅したからです。消えた人は最愛の人に再会出来ても話をする事は出来ません」 
 そう言った後、鞘は話を聞いてくれて更に打ち明けるべきと背中を押してくれた皆に感謝の言葉を述べた。



 鞘の話は夕飯を済ませてからだったので終わればそれぞれ自室に戻り、自由に過ごす。
 唯一、話を聞いた後の音羽が心配になった光琉が彼女の部屋を訪れていた。
 案の定、音羽はベッドに横になり心ここにあらずと言った状態。
 そして一言つぶやくのだ、「......藤方先生がうらやましい」と。
「話を聞いて思ったの。藤方先生から教師の職を奪わないようにと自分の気持ちを抑え込めるくらいに鞘ちゃんは先生の事を今でも愛してるんだって」
「ショック受けてるのか?」
「......うん。つまり2人は今でもお互いを想い合ってるって事だものね」
 そう痛感したのは今回の話だけではないと音羽は言う。
「鞘ちゃんが真弥さんに言った言葉を思い出したの」
 それはクモと一体になった真弥に鞘が
『好きな人に決して振り向いてもらえない辛さ......もしあの人が私以外の人に夢中になり、振り向いてくれないとしたら、私もあなたと同じように嫉妬を抱きあの人が夢中な相手を憎んだでしょうから』と人を愛する立場としての気持ちを語ったのだ。
「だから今回話を聞いて、鞘ちゃんが言っていた『あの人』が藤方先生の事だったんだなって気がついたの」
 音羽は同性に特別な感情を抱いた時点で決して叶わないものだと理解してる。
「あ~あ。難しいよね」
 ベッドでふさぎこむ妹に対し、光琉は「そんな事は決してないと思うぞ」と励ます。
「同性に向けてのものだとしても、お前の中に芽生えたその感情はお前だけのものだろう? たとえ叶わぬ想いだとしても『心の中』は自由だし誰にも支配されないんだから『想う事』ぐらいは許されてもいいんじゃないかな」
「......」
 兄からの励ましの言葉に何やらハッとするものがあったようで、音羽はベッドから起き上がる。
「ま、あまり思い詰めるなよ。おやすみ」
 そう言って光琉は部屋を出ていった。

「叶わなくても心の中は自由であり誰にも支配されない......だから想う事ぐらいは......つまり私は鞘ちゃんを好きなままでいいって事、だよね」

 兄の言葉を復唱したら、音羽の心がフッと軽くなった。


 翌朝。
 斗真と音羽は校内でばったり出くわす。斗真というと、昨日なぜか睨まれてしまった事がよぎって音羽を前に密かに身構えたのだが。
「おはようございます、藤方先生」と笑顔で挨拶してきたから斗真は拍子抜けと安堵を同時に感じた。
「おはよう...音羽」
 その時、互いに見つめ合う瞬間が訪れる。と言っても正しくは、見つめてくる音羽から斗真が目を逸らせなかったのだが。
 音羽は斗真を見つめながら改めて(この人は鞘ちゃんが心から愛した、今も愛している人......)と認識する。
 そして......
「藤方先生。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」と頭を下げて教室へと向かった。
 それを受けて斗真は(嫌われてないようで安心した)とホッと胸を撫で下ろした。
 一方の音羽は昨夜の兄の言葉を胸に、鞘を想い続けようと決めた。心の中だけは自由であり、誰にも支配出来ない空間なのだから。
 
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