超消滅士・蘇芳鞘の二度目の人生譚

心響

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第2話「愛に生きたい女とキツネ目の男」

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 天葉の地下空間で双子の兄妹・光琉ひかる音羽おとはが見つけた黒いひつぎ
 その窓から見えたのは、少女の遺体だった。

 光琉はこの少女は何者なんだ? とか、なぜ遺体なのに腐らずにいられるのか? なぜ棺がこんな地下に置かれているのか? と疑問に思うその一方で、ある事に気づく。

 どうして、誰もいないハズの地下空間に松明たいまつが焚かれているんだ? 
 しかも天井に設置されてる電灯もついているのだ。天葉の人間がいない現在、ここは真っ暗闇なハズだ。

「......ここに誰かいる......?」
「え?!」


 するとその時。


 カツーン、カツーン......。

 かすかだが靴音が聞こえてきたのだ。
 しかも音は遠くなるどころか、だんだん近づいてきている。

 ひょっとして、こちらに向かっているのか?

 突然の事態に光琉はガシッと音羽の腕を掴んだ。

「ちょっと......どうしたの兄さ......」
「いいから、早く隠れるぞ!!」

 光琉は小声でそう告げると、いくつかある柱の1本に音羽と共に隠れた。

「......」
「......」

 その間も靴音は大きくなっていき、ついにはこちらの部屋の前で止まった。

 心臓が止まりそうな程の緊張感が双子を襲う。

 やがて靴音の主はこの部屋へと入ってきて、なんと棺のそばまでやってきた。
 光琉はそっと柱の陰から靴音の主を確かめる。
 その者、ワンピースを身にまとったボブヘアの若い女性だった。

 女性は迷う事なく棺のフタを両手で持ち上げた。しかし、女性ひとりの腕力ではそれも容易な事ではない。
 到底無理な事。だが女性は額に汗をかき、声をあげながらもついにフタを開けてしまった。その姿は光琉や音羽には異様な光景に映り、気味が悪いと思わせる程だった。

 それでも、フタが開けられた事で眠っている少女の全身体が明らかになった。
 セーラー服姿の少女は黒髪でその長さは腰あたりまであり、体は全く腐っておらずキレイな状態を保っていた、まるで眠っているようにも見える。

 少女を見つめる女性の様子を伺っていると、持っていたバッグから何かを取り出し、バッグをよそに放り投げた。
 その行動の意味が一瞬わからなかった光琉と音羽だったが、すぐに理解した。

 それは。

 バッグから取り出したサバイバルナイフを両手で持つためだったのだ。
 そしてそのナイフを女性は......
 迷う事なく棺に横たわる少女めがけて振り下ろした。


「......やめろ!!」

 光琉はとっさに柱から飛び出すと女性を背後から捕まえた。

「な、何なのよアンタ!! 離せ!! 私の邪魔をするなぁ!!」
「そうはいかない!!」
「......この女さえいなくなれば......きょうさまは私のものになるのよ!!」

 阻止されたため、女性の手にあったサバイバルナイフは金属音をたてて地面に落下、それをすかさず音羽が拾い上げた。

「なに私のナイフを拾ってるんだ! 返せ!!」

 拾い上げた音羽にさえ女性は食って掛かった。しかし音羽はナイフの柄を両手で握ると女性から遠ざけるように胸に抱きしめ彼女に背中を向けた。

「渡せません! あなたは棺の中のご遺体にナイフを刺そうとしたんですよ! なぜですか?!」

 音羽が尋ねると、女性は突然不気味に笑い出した。

「亡くなってる、ですって? ええそうね。はたから見れば死んでるように見えるわよね。棺に入るのは死んだ者と決まってるもの......でもね! この棺の中の女は正真正銘眠っているのよ! 冷凍保存されてね」

 女性が発した言葉に光琉と音羽は最初、何を言ってるんだこの人は? と思った。しかし、言葉を繰り返すうちに光琉はある事実にたどり着く。

「もしかして......この棺の少女は......生きているのですか?」

 光琉からの問いに女性は「ええ、その通りよ」と返してきた。
 この時、ようやく光琉はわかったのだ。それは音羽も同じようだ。

「兄さん。だからこの人......腐る事なくキレイな状態なのね」
「ああ。生きているんだから、腐らない。まさに眠り姫ってところかな。あなたがこの人に冷凍保存を施したのか?」
「そ、そうよ......! その女が瀕死の重傷を負った時、凶さまに頼まれたのよ。何とか君の力で女を助けてくれないかって。君だけが頼りなんだって。女は攻撃を受けた際、毒素もその体に取り込んでしまっていたから、唯一の方法が冷凍保存状態にして体から毒素を抜く事だったのよ。その選択は成功したわ。こうして変わらずに眠り続けているんだから!!」

 話し続ける女性の表情が更に鬼気迫るものへて変化していく。

「私は......凶さまに振り向いてほしかった。なのに、凶さまはあの日からこの部屋の扉が解放される日のたびにここを訪れてはこの女に会いに来ていた......! それが私にはたまらなく悔しかった!!」

 更に光琉と音羽は彼女の話で、この部屋の扉こそが言い伝えにある「解放される扉」である事を知った。
 あともうひとつ。彼女の口から出た名前........。

「きょうさま?」
凶星きょうせいさまよ、天葉てんよう凶星! かつてこの日本を魔物たちから守っていた超消滅士を束ねていた天葉一族。凶さまはその生き残りよ!」

 光琉は「天葉の名も超消滅士の事も知ってるよ」と答えた。
 しかも彼は、天葉凶星なる人物も知っている。

(あの人は、天葉が滅んでからずっと行方知れずと聞いていたけど、生きていたのか)

 なぜ彼を光琉が知っているのか。

 それは、光琉も天葉一族の人間だから。つまり妹である音羽も同族なのである。

 双子は天葉が滅亡する直前に生まれているが、赤子だったために滅亡に至るまでの記憶などない。
 ただ、亡くなった父から聞かされた話の中に天葉凶星の名が出ており、彼が写ってるという数少ない写真も見せてもらった。
 当然、彼も超消滅士だ
 彼を見た光琉は、まっすぐカメラを見つめるメガネの奥のキツネ目がとても印象強く残っていた。
 例えるなら、まるでヘビのような、感情がない目。

(天葉凶星がこの棺の少女に会いに来てるというなら、松明を焚いたのも電灯をつけたのも彼という事になる。だけど秘密の扉はずっと解放されるワケではないから、これらの行動は無意味だ。本来ならこの地下空間は真っ暗闇なハズ。それとも、別の目的があるのか?)

 思考に耽る光琉。その間にも暴れる女性を拘束する事も忘れていない。


 その時だった。


「ダメじゃないか、真弥まや。見ず知らずの他人にそう簡単に口を滑らしては」


 優しい声色の男性の声が聞こえてきたのだ。

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