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第3話「棺の少女の正体と17年前の真実」
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「......! そ、その声は......凶さま!!」
双子に邪魔されて鬼の形相をしていた女性が声が聞こえたとたん、しおらしく嬉々とした表情に変わった。
この光景からでも、凶さまとは声の主で真弥とは女性の事なのだとわかる。
すると突然、どこからともなく双子と女性改め真弥の前にスーツ姿にメガネをかけた若い男性が姿を現した。
その男性、メガネの奥のキツネ目に顔もキツネに似ていたが端正な顔立ちであった。
(間違いない。17年経っているけど、彼は天葉凶星だ。やっぱり生きていたんだ)
それから、父はこんな話も光琉にしていた。
「17年前の魔物襲来を起こしたのは、凶星本人だったのではないか」と。
天葉が滅んで以降、彼と、もう1人の行方がわからないまま17年経ってしまった、と父は光琉に打ち明けていた。
彼以外に行方がわからなくなっているもう1人とは、天葉鞘という女性。超消滅士で魔物襲来の際、彼らとの戦いを繰り広げたものの攻撃を受けて瀕死の重体となった。
しかし彼女は滅亡後、凶星と同じく行方がわからなくなった。魔物襲来は凶星本人の仕業だと話す生き残った一族の者たちは「彼が瀕死の鞘をどこかに拉致したのではないか」と口にしていたらしい。
なぜ、天葉凶星という人物はそこまで一族の者から疑われていたのか。
それは、凶星が鞘に強い恋愛感情を抱いていた事に起因していた。
独占欲が強く、気に入ったものは必ず手に入れないと気が済まない彼は、当時の天葉一族女当主・局に鞘との結婚の許しを得ようとしたが、却下された。
局としては鞘には恋人がいたし、彼女が凶星を一族の人間以上には思えない事も承知していたための決断だった。
その様子を見ていた一族の者たちは、凶星を危険な人物と危惧していたようだ。
更に。父は鞘に関する重要な話も光琉に話していた。
だが、それを思い出そうとした直前に光琉は現実へと引き戻されてしまう。突然、捕まえていたハズの真弥が自分から離れていく感覚に気づいたからだ。
それは、いつの間にか真弥の姿が凶星の腕の中にいる、という現象が起こったためである。
「......今のは、天葉凶星の仕業?」
小声でつぶやいた光琉だが、凶星から「その通りだよ」と返された。
「僕はね、小さな声すらこの耳に拾えるほど聴力に優れてるんだ。だから僕を褒める言葉も聞こえれば、悪口も聞こえる。悪口を言った奴には仕返ししてやるけどね。それと、僕は物体を操る事も出来る。今も真弥がこちらに来るよう人差し指でジェスチャーしたんだよ」
凶星が話してる間も真弥は彼にベッタリだ。ウットリした表情で彼を愛しそうに見つめる。
だが、ここから凶星の真弥に対する態度が変わりだす。
「真弥。君にはとても感謝しているんだよ。鞘の命を救っただけでなく、彼女の中から毒素を抜くために冷凍保存状態にしてくれたんだから。おかげでこうして開放日のたびに鞘に会いに来ている」
「わ、私はあの女のために動いた事なんてないのです! すべては凶さまのため......!!」
「僕のため?」
「そうです! 私、あなたのためだったらどんな事もします!! だから凶さま、あの女じゃなく私を見て......」
一生懸命に想いを伝える真弥。対する凶星はニタリと口元に不気味な笑みを浮かべた。
「じゃあ、僕のために死んでくれるかい?」
「......え?」
凶星の発言にキョトンとしてる真弥をよそに彼は声高々に発言する。
「さあ、出ておいで! 食欲に飢えたバケモノたちよ! 今日は3人の人間しかいないけどケンカせずに仲良く食べるんだよ~!!」
「......」
「......」
「......き、凶さま?」
シーンと静まり返った中、いくつもの足音がだんだん近づいてきたと思ったら、やがてそれは部屋の中へと入ってきた。
足音の正体は無数の巨大グモだった。その大きさは光琉たち人間を覆ってしまうほど。
このままではクモたちに囲まれてしまう。
無数のクモたちを前に虫が大の苦手な音羽は、失神しそうだった。
一方、光琉は急いであたりを見回すと、奥に高台を見つけた。
「音羽! あの高台に行くぞ!」
「......わかったわ」
うなずいた音羽だが、なぜか棺に向かうと少女の体を抱きかかえた。
「兄さん、この人、生きているのよね。なら一緒に連れていきましょうよ!」
「......音羽」
大嫌いな虫を前にして自分もどうにかなりそうなのに、それでも助けなきゃという精神も持っている。
光琉は改めて妹を、弱そうに見えても意外と土壇場では芯が強いのかもな、と尊敬の眼差しで見つめた。
対して真弥も凶星に「は、早く逃げましょう、凶さま!」とすがりつく。しかし、凶星はだんだん彼女から遠ざかっていった。
「......凶さま?」
「先程僕が言った言葉をもう忘れた? 僕のために死んでくれるかい? って言ったよね?」
「......」
「だから、巨大グモ(この子たたち)のエサになってくれるね?」
「......きょ、凶さま!! どうして?!」
凶星は物体を操るだけでなく、宙に浮く事も出来るのだ。
この時点でようやく凶星の言った言葉の意味を理解した真弥は、恐怖と愛する人に利用され捨てられる事への絶望感で涙をこぼした。
「凶星さまぁぁぁ!! イヤぁぁぁ!!」
絶叫する真弥を囲んだクモたちは我先にと彼女に一斉に食らいついた。
「ギィアアア!! イダ(痛)い! イダ(痛)いぃぃぃ!!」
あっという間に彼女はバラバラに食いちぎられ、頭部を口にくわえたクモはグシャグシャと噛み砕いた。
凶星は真弥がクモたちに食われるサマを恍惚の表情で見下ろしていた。
「真弥。君は本当に僕の言う通りに動いてくれた操り人形だった。でもね、もう君に用はないし君を頼る必要もなくなった。おやすみ、真弥。良い夢を」
クモに食われたのに良い夢など見られるワケがない。
一方、高台に逃げた光琉と音羽も真弥がクモたちに食われるのを見つめるしかなかった。少女は光琉に抱きかかえられていた。
「こんな人間が......天葉の者なのかよ」
「酷い......! ただ愛する人のため......それだけだったのに......」
しかし、真弥を気の毒と思う余裕も、今の双子にはない。
なぜなら、クモのエサになった真弥を見下ろしていた凶星が顔をあげ、双子の方に意識を向けたからだ。
「さぁーて君たち。クモたちのエサになりたくなかったら、大人しく棺から連れ出したその少女をこちらに渡すんだ」
双子に手を伸ばす凶星。もちろん光琉、音羽には少女を渡す気などない。
「アンタが渡せと言ってる棺の中の人って、天葉鞘さんなんだろ?」
光琉は真弥の話と、凶星の少女に対する異様な執着から、棺の少女こそが行方知れずだった鞘だと推理した。
一方、鋭い質問をぶつけられて、凶星の余裕の笑みがとたんに歪んだ。
どうやら図星のようだ。
「ずっとアンタと鞘さんだけが行方知れずだって聞いてたからな。やっぱり話の通り、アンタが鞘さんを攫ったんだな。更に天葉が滅んだ原因を作った張本人もアンタだ! 父たちが話していたよ。あの魔物襲来は天葉凶星の仕業だったんじゃないかって!」
「......天葉と僕の名前、ましてや鞘の名前も知ってるなんて。お前ら、まさか......」
光琉は凶星からの問いに答える代わりに、右手からバチバチっと音をたてながら電気を放出。同時に、光琉の瞳が黄金色に変化した。
それを見て凶星も気がつく。
「黄金色の瞳。それは自らの超生命を力に替えてる証......。そうか、君も天葉の人間、超消滅士なんだね。まさか生き残りがいたなんてね」
「ひとつ質問がある。あの無数のクモたちは何なんだ? この地下空間のどこにいた?」
「あのクモたちはね、17年前に天葉の者たちを襲った魔物の生き残りさ。この地下空間に密かに住み着いて、ここを訪れる人間たちをエサにしてきたんだ。天葉滅亡後、こちらの事は伝説と称して探検に来る者たちが後を絶たないからね。いつ誰に棺の部屋が見つかるかわからないから僕は毎日のようにここに様子を見に来て、クモたちに人間どもの後始末をしてもらっていたワケさ」
そう。光琉が疑問に思っていた、地下空間に松明が焚かれ、電灯がついていた理由。それは少女改め、鞘が眠る棺の存在を知られないため、探検に来た人間をクモたちのエサにしていたのであった。
理由がわかった今、光琉は尚の事、鞘を守らなきゃといけないと強く思った。
「そんな話を聞いたら尚更、鞘さんをアンタに渡すワケにはいかない」
言い放った光琉に対し、凶星は不敵な笑みを浮かべた。
「では、こうするしかないね」
そうつぶやくと凶星は先程、真弥を自分の元へ来るように人差し指で操ったジェスチャーを今度は音羽に向けて行った。
すると、彼女の体が宙に浮いた。
「に、兄さん......!」
「音羽!!」
あっという間に音羽も凶星の元へと吸い込まれるように彼の腕におさまってしまう。
腕の中の音羽をまじまじと見つめる凶星。
「君はどうやら、超消滅士の力を受け継がなかったようだね」
「......!」
すると凶星は、クモがいる中に音羽をぶら下げた。彼女の手を離せば、クモの大群に真っ逆さまというワケだ。
「......キャ......っ」
「音羽......!! コイツ......音羽を離せ!!」
光琉はとっさに手のひらから電力を放とうとするが、すかさず「いいのか?」と凶星に口を挟まれる。
「君が僕に向けて攻撃を仕掛けた瞬間、僕の手から妹の手が下にずり落ちる事になるよ」
「......くっ」
下にいるクモたちは、新たなエサが自分たちの元に降ってくると思い我先にと音羽に手を伸ばす素振りをしている。
大の虫嫌いな音羽にとってはまさに地獄への入り口に落とされるようなものだ。
「クモに食われた真弥のような姿をカワイイ妹でも再現してほしいのかい?」
「......!」
凶星からの脅迫に光琉の気持ちは揺れる。かと言って鞘を渡せば、必ず彼女は不幸になる。17年前の当主だって必死に鞘を守ろうとしたのだ、その思いに背く事を子孫である自分たちがしてはいけない。でも音羽が絶体絶命なのも事実。
(音羽と鞘さん、2人を助けるためには、どうしたら......!)
「ーーー落としなさいよ」
そう発言したのは、音羽だ。
「あなたのような人に鞘さんを渡すくらいなら、私は......クモに食われる道を選ぶわ!! 鞘さんは永遠にあなたのモノにはならない!!」
その発言にカッとなった凶星は、パッと音羽の手を離す。
「では、クモのエサになるがいい」との言葉と共に。
双子に邪魔されて鬼の形相をしていた女性が声が聞こえたとたん、しおらしく嬉々とした表情に変わった。
この光景からでも、凶さまとは声の主で真弥とは女性の事なのだとわかる。
すると突然、どこからともなく双子と女性改め真弥の前にスーツ姿にメガネをかけた若い男性が姿を現した。
その男性、メガネの奥のキツネ目に顔もキツネに似ていたが端正な顔立ちであった。
(間違いない。17年経っているけど、彼は天葉凶星だ。やっぱり生きていたんだ)
それから、父はこんな話も光琉にしていた。
「17年前の魔物襲来を起こしたのは、凶星本人だったのではないか」と。
天葉が滅んで以降、彼と、もう1人の行方がわからないまま17年経ってしまった、と父は光琉に打ち明けていた。
彼以外に行方がわからなくなっているもう1人とは、天葉鞘という女性。超消滅士で魔物襲来の際、彼らとの戦いを繰り広げたものの攻撃を受けて瀕死の重体となった。
しかし彼女は滅亡後、凶星と同じく行方がわからなくなった。魔物襲来は凶星本人の仕業だと話す生き残った一族の者たちは「彼が瀕死の鞘をどこかに拉致したのではないか」と口にしていたらしい。
なぜ、天葉凶星という人物はそこまで一族の者から疑われていたのか。
それは、凶星が鞘に強い恋愛感情を抱いていた事に起因していた。
独占欲が強く、気に入ったものは必ず手に入れないと気が済まない彼は、当時の天葉一族女当主・局に鞘との結婚の許しを得ようとしたが、却下された。
局としては鞘には恋人がいたし、彼女が凶星を一族の人間以上には思えない事も承知していたための決断だった。
その様子を見ていた一族の者たちは、凶星を危険な人物と危惧していたようだ。
更に。父は鞘に関する重要な話も光琉に話していた。
だが、それを思い出そうとした直前に光琉は現実へと引き戻されてしまう。突然、捕まえていたハズの真弥が自分から離れていく感覚に気づいたからだ。
それは、いつの間にか真弥の姿が凶星の腕の中にいる、という現象が起こったためである。
「......今のは、天葉凶星の仕業?」
小声でつぶやいた光琉だが、凶星から「その通りだよ」と返された。
「僕はね、小さな声すらこの耳に拾えるほど聴力に優れてるんだ。だから僕を褒める言葉も聞こえれば、悪口も聞こえる。悪口を言った奴には仕返ししてやるけどね。それと、僕は物体を操る事も出来る。今も真弥がこちらに来るよう人差し指でジェスチャーしたんだよ」
凶星が話してる間も真弥は彼にベッタリだ。ウットリした表情で彼を愛しそうに見つめる。
だが、ここから凶星の真弥に対する態度が変わりだす。
「真弥。君にはとても感謝しているんだよ。鞘の命を救っただけでなく、彼女の中から毒素を抜くために冷凍保存状態にしてくれたんだから。おかげでこうして開放日のたびに鞘に会いに来ている」
「わ、私はあの女のために動いた事なんてないのです! すべては凶さまのため......!!」
「僕のため?」
「そうです! 私、あなたのためだったらどんな事もします!! だから凶さま、あの女じゃなく私を見て......」
一生懸命に想いを伝える真弥。対する凶星はニタリと口元に不気味な笑みを浮かべた。
「じゃあ、僕のために死んでくれるかい?」
「......え?」
凶星の発言にキョトンとしてる真弥をよそに彼は声高々に発言する。
「さあ、出ておいで! 食欲に飢えたバケモノたちよ! 今日は3人の人間しかいないけどケンカせずに仲良く食べるんだよ~!!」
「......」
「......」
「......き、凶さま?」
シーンと静まり返った中、いくつもの足音がだんだん近づいてきたと思ったら、やがてそれは部屋の中へと入ってきた。
足音の正体は無数の巨大グモだった。その大きさは光琉たち人間を覆ってしまうほど。
このままではクモたちに囲まれてしまう。
無数のクモたちを前に虫が大の苦手な音羽は、失神しそうだった。
一方、光琉は急いであたりを見回すと、奥に高台を見つけた。
「音羽! あの高台に行くぞ!」
「......わかったわ」
うなずいた音羽だが、なぜか棺に向かうと少女の体を抱きかかえた。
「兄さん、この人、生きているのよね。なら一緒に連れていきましょうよ!」
「......音羽」
大嫌いな虫を前にして自分もどうにかなりそうなのに、それでも助けなきゃという精神も持っている。
光琉は改めて妹を、弱そうに見えても意外と土壇場では芯が強いのかもな、と尊敬の眼差しで見つめた。
対して真弥も凶星に「は、早く逃げましょう、凶さま!」とすがりつく。しかし、凶星はだんだん彼女から遠ざかっていった。
「......凶さま?」
「先程僕が言った言葉をもう忘れた? 僕のために死んでくれるかい? って言ったよね?」
「......」
「だから、巨大グモ(この子たたち)のエサになってくれるね?」
「......きょ、凶さま!! どうして?!」
凶星は物体を操るだけでなく、宙に浮く事も出来るのだ。
この時点でようやく凶星の言った言葉の意味を理解した真弥は、恐怖と愛する人に利用され捨てられる事への絶望感で涙をこぼした。
「凶星さまぁぁぁ!! イヤぁぁぁ!!」
絶叫する真弥を囲んだクモたちは我先にと彼女に一斉に食らいついた。
「ギィアアア!! イダ(痛)い! イダ(痛)いぃぃぃ!!」
あっという間に彼女はバラバラに食いちぎられ、頭部を口にくわえたクモはグシャグシャと噛み砕いた。
凶星は真弥がクモたちに食われるサマを恍惚の表情で見下ろしていた。
「真弥。君は本当に僕の言う通りに動いてくれた操り人形だった。でもね、もう君に用はないし君を頼る必要もなくなった。おやすみ、真弥。良い夢を」
クモに食われたのに良い夢など見られるワケがない。
一方、高台に逃げた光琉と音羽も真弥がクモたちに食われるのを見つめるしかなかった。少女は光琉に抱きかかえられていた。
「こんな人間が......天葉の者なのかよ」
「酷い......! ただ愛する人のため......それだけだったのに......」
しかし、真弥を気の毒と思う余裕も、今の双子にはない。
なぜなら、クモのエサになった真弥を見下ろしていた凶星が顔をあげ、双子の方に意識を向けたからだ。
「さぁーて君たち。クモたちのエサになりたくなかったら、大人しく棺から連れ出したその少女をこちらに渡すんだ」
双子に手を伸ばす凶星。もちろん光琉、音羽には少女を渡す気などない。
「アンタが渡せと言ってる棺の中の人って、天葉鞘さんなんだろ?」
光琉は真弥の話と、凶星の少女に対する異様な執着から、棺の少女こそが行方知れずだった鞘だと推理した。
一方、鋭い質問をぶつけられて、凶星の余裕の笑みがとたんに歪んだ。
どうやら図星のようだ。
「ずっとアンタと鞘さんだけが行方知れずだって聞いてたからな。やっぱり話の通り、アンタが鞘さんを攫ったんだな。更に天葉が滅んだ原因を作った張本人もアンタだ! 父たちが話していたよ。あの魔物襲来は天葉凶星の仕業だったんじゃないかって!」
「......天葉と僕の名前、ましてや鞘の名前も知ってるなんて。お前ら、まさか......」
光琉は凶星からの問いに答える代わりに、右手からバチバチっと音をたてながら電気を放出。同時に、光琉の瞳が黄金色に変化した。
それを見て凶星も気がつく。
「黄金色の瞳。それは自らの超生命を力に替えてる証......。そうか、君も天葉の人間、超消滅士なんだね。まさか生き残りがいたなんてね」
「ひとつ質問がある。あの無数のクモたちは何なんだ? この地下空間のどこにいた?」
「あのクモたちはね、17年前に天葉の者たちを襲った魔物の生き残りさ。この地下空間に密かに住み着いて、ここを訪れる人間たちをエサにしてきたんだ。天葉滅亡後、こちらの事は伝説と称して探検に来る者たちが後を絶たないからね。いつ誰に棺の部屋が見つかるかわからないから僕は毎日のようにここに様子を見に来て、クモたちに人間どもの後始末をしてもらっていたワケさ」
そう。光琉が疑問に思っていた、地下空間に松明が焚かれ、電灯がついていた理由。それは少女改め、鞘が眠る棺の存在を知られないため、探検に来た人間をクモたちのエサにしていたのであった。
理由がわかった今、光琉は尚の事、鞘を守らなきゃといけないと強く思った。
「そんな話を聞いたら尚更、鞘さんをアンタに渡すワケにはいかない」
言い放った光琉に対し、凶星は不敵な笑みを浮かべた。
「では、こうするしかないね」
そうつぶやくと凶星は先程、真弥を自分の元へ来るように人差し指で操ったジェスチャーを今度は音羽に向けて行った。
すると、彼女の体が宙に浮いた。
「に、兄さん......!」
「音羽!!」
あっという間に音羽も凶星の元へと吸い込まれるように彼の腕におさまってしまう。
腕の中の音羽をまじまじと見つめる凶星。
「君はどうやら、超消滅士の力を受け継がなかったようだね」
「......!」
すると凶星は、クモがいる中に音羽をぶら下げた。彼女の手を離せば、クモの大群に真っ逆さまというワケだ。
「......キャ......っ」
「音羽......!! コイツ......音羽を離せ!!」
光琉はとっさに手のひらから電力を放とうとするが、すかさず「いいのか?」と凶星に口を挟まれる。
「君が僕に向けて攻撃を仕掛けた瞬間、僕の手から妹の手が下にずり落ちる事になるよ」
「......くっ」
下にいるクモたちは、新たなエサが自分たちの元に降ってくると思い我先にと音羽に手を伸ばす素振りをしている。
大の虫嫌いな音羽にとってはまさに地獄への入り口に落とされるようなものだ。
「クモに食われた真弥のような姿をカワイイ妹でも再現してほしいのかい?」
「......!」
凶星からの脅迫に光琉の気持ちは揺れる。かと言って鞘を渡せば、必ず彼女は不幸になる。17年前の当主だって必死に鞘を守ろうとしたのだ、その思いに背く事を子孫である自分たちがしてはいけない。でも音羽が絶体絶命なのも事実。
(音羽と鞘さん、2人を助けるためには、どうしたら......!)
「ーーー落としなさいよ」
そう発言したのは、音羽だ。
「あなたのような人に鞘さんを渡すくらいなら、私は......クモに食われる道を選ぶわ!! 鞘さんは永遠にあなたのモノにはならない!!」
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