超消滅士・蘇芳鞘の二度目の人生譚

心響

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第5話「嫉妬が生み出す悲劇と欲望」

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 音羽を守りながらクモを倒している鞘のサポートをしないと、と思った光琉も動き出す。


「こっちだ、こっち!! お前たちが欲しがってるエサはここにいるぞ! この湖を泳いで俺を食べに来いよ!!」
 言葉巧みにクモたちを湖におびき寄せた光琉は、奴らが湖に次から次へと飛び込むのを確認すると右手を湖面に入れ、電気を放出した。

「くらえ! 雷鳴掌らいめいしょう!!」

  当然クモたちは感電し、全身黒焦げに。

 おかげであれだけいたクモの大群も跡形もなく消え去った。

 この予想外の展開に凶星から拍手が起こる。
「さすがは僕の鞘だね。17年もブランクがあるなんて思えない強さだ。あとお兄ちゃんも。思ったよりも強いんだね」

『ウェ。アイツ、まだ性懲りもなく ❝僕の鞘❞ なんて言ってる』
 黒刃がさも気持ち悪そうに鞘に語りかける。
 対する鞘は上空にいる凶星をキッと鋭い視線で見上げた。
 凶星は鞘が自分を見つめてくれているのだと思い嬉しくなって「久しぶりだったね鞘」と優しい声で話しかけた。
「君に会えるのをずっとずっと待っていたんだよ。さあ、僕のところへおいで。今すぐに結婚式を挙げよう」

「......は?」
「な、何を言ってるの、この人」
 光琉と音羽は耳を疑った。真弥は凶星を慕い、凶星のために鞘を助け冷凍保存を施したというのに。
 彼女がクモに喰われる様を恍惚の表情で見つめ、挙げ句は平然と鞘に結婚式を挙げようと言うなんて。

 言われた鞘は鋭い視線のまま凶星に口を開く。
「17年前にも申し上げたハズです。あなたに一族の人間以上の感情は持っていないと」

 鞘からの返答にこれまで余裕の笑みを浮かべていた凶星の表情が確実に歪みだした。
「...... まだそんな事を言ってるのかい? いい加減僕の愛を受け止めなよ。君のような人を心から愛して挙げられるのは、僕だけなんだよ」
「..... 確かに。私のような人間を理解し愛して下さる方はいないと思ってました。ですが、たった1人だけおります」
「へ、へぇ。もしかして、あの男の事を言ってるのかい?」
「はい.....そして、今でも私はあの人を愛しています」

 自分ではない人間を今でも愛すると言われた凶星は嫉妬でどうにかなりそうだった。そのイライラは鞘の腕の中にいる音羽と黒刃にも向けられる。
「おい、そこの女! とっとと鞘から離れろ!! 鞘の手にある日本刀! 貴様もだ!! 鞘のそばにいる権利を持つのは、僕だけなんだよ!!」

 嫉妬を向けられた音羽は、凶星の鞘に対する執着心に戦慄を覚え、黒刃は『むちゃくちゃな奴だな』とげんなりだ。

 鞘とて言われるままではない。
「あなたにそのような権利はありません。むしろあなたは私にとっては憎しみの対象ですから」
「憎しみ? 僕が?」
「あなたこそが17年前、天葉邸を魔物たちに襲わせるよう仕向けた真犯人です。つまり、多くの天葉の者があなたに殺されたも同然」
「な、何を言ってるのかな?」
「私は知ってるのです。17年前、あなたが真弥さんと私の事について話をしていたのを」

 あの時、凶星は言ったのだ。
 ❝これでついに天葉の口うるさいババァをはじめ、鞘の周りにいる天葉の奴らを抹殺出来た。鞘がこんな事になってしまったのは予想外だったけど、かえって好都合さ。誰にも知られる事なく鞘を連れ出せる。そこで真弥。君に頼みがある。瀕死の鞘を助けてほしい。それが出来るのは医者である君だけだからね❞

 鞘の口から真弥との会話の内容が語られた事で凶星はうろたえ始め、宙に浮いていた体も地面に足をつく程だった。

 鞘は更に続ける。
「ですが、真弥さんには感謝しています。どんな目的があったにせよ、彼女は私に冷凍保存を施し長い時間をかけて私の体内から毒素を抜いて下さったのですから。その真弥さんは、どちらに?」

 鞘に真弥の所在を尋ねられるも凶星はだんまりだ。
 真弥のたどった末路を話したのは光琉だ。同時に嫉妬のあまり鞘を殺そうとした事も聞かせた。
「こんな愚かで冷血な男を一途に愛して、挙げ句利用されてクモに喰われるなんてさ......」
 光琉がやるせなさそうにつぶやくと、鞘も「その通りですね」と返す。その声はとても低く怒りが込められていた。
 その変化ときたら、光琉と音羽が息を呑んだ程だ。

 鞘は黒刃を頭上に振りかざす。
「私、本当は体から毒が抜けても......このまま目覚めず眠り続けようと思いました。愛した人がいない世界に目覚めても何の意味もないと......ですが......今は黒刃さまに感謝しています。こうして17年という年月が経ってしまいましたが、あの時殺されていった天葉の皆さんの仇がこうしてとれる機会をいただけたのですから......!」

 そして黒刃の刃先をまっすぐ、凶星に向けた。向けられた彼の顔色が蒼白になる。
「それはつまり......こ、この僕を殺すって事なのか?」
「ご理解下さりありがとうございます」
「......ぼ、僕は! 君を助けたんだよ? 感謝こそすれ殺そうとするなんて......!!」なんて恩知らずな女なんだ!!」
 好きな相手から殺すと言われたのがよほどショックだったようで、凶星の余裕の笑みはすっかり消えてしまい、キツネ目も鋭くなり「もうお前なんか知るもんか!」と喚き散らしながら物体を操る力で地面に転がっている大小の岩石を彼女めがけて飛ばした。
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