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第8話「山雲の森と鞘の後悔」
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天葉一族の双子の兄妹・光琉と音羽が天葉邸の地下空間を探索した結果、長らく行方がわからなくなっていた母の妹にして自分たちにとっては叔母にあたる鞘を発見、再会した。もはやこの空間に留まる理由はない。
しかしながら凶星があのような残虐な行いをクモを使ってしていたと知った以上、この地下空間を閉じなければならないだろう。
3人は考えた結果、再度隅から隅まで空間内を周り潜んでいる魔物を1ぴき残らず倒し、そして慎重に慎重を重ね、全ての出入り口を閉じる事にした。
巡回すると巨大グモがあちらこちらにおり、その都度倒していった。退治が完了すると出入り口に結界を張り、もう2度と何人たりとも足を踏み入れる事は出来ないようにしたのだ。
外へ出ると、鞘はあたり一面に咲き誇っている桜に目を細めた。
「今、季節は春なんですね。まさか再び桜を見られるとは思っていませんでした。17ぶりに見る桜はやはりキレイですね」
そう。長い間地下で眠り続けていた鞘にとって久しぶりの現代なのだ、感動もひとしおであろう。
音羽は満開の桜と鞘をしばらく交互に見つめていた。
しばらくして。
光琉は鞘に「俺たちが現在住んでいる家に行ってみませんか?」と声をかけた。
「先程、家に電話して鞘さんを見つけたとの報告を美咲さんにしたら、ぜひ会いたいからお家にお越し下さいとの事なので」
「あの......美咲さんとは...当主であった局さまのお孫さんの美咲さんでしょうか?」
「はい、そうです。現在は美咲さんが生き残った天葉の者たちを束ねる当主さまなんです」
「そうでしたか。美咲さんは無事だったんてすね」
ホッと安堵の表情を浮かべてつぶやく鞘。
一方の光琉は父から話されたある出来事を思い出す。
「17年前のあの事件で鞘さんが致命的な怪我を負ったのは......赤ん坊だった俺と音羽を身を挺してかばったためだったんですよね」
「え?!」
兄の口から出た衝撃発言に初耳の音羽は驚いて光琉と鞘を交互に見た。一方の鞘はうなずく代わりに「こうして再びお会い出来て、あなた方が無事だったのだとわかって嬉しかったです」と言った。
「私は超消滅士でありながら魔物の攻撃にやられてしまい、一族の皆さんをお守りする事が出来ませんでした......私にとっては恥ずべき事です」
鞘は致命的な怪我を負い戦線離脱した自分を17年経った今でも責めている、それに気づいた光琉は「あの時、生き残った超消滅士たちもそれぞれに自分を責めていたと、父から聞いています。鞘さんだけが責任を一身に背負う必要なんてないと思います」と励ます。
しかし、それでも鞘の心は晴れない。頑なに「私は他の超消滅士よりも更に頑張らなければいけなかったのです」と一点張りだ。超消滅士としてこの現代を、天葉の人たちを守るのが務めではあるが、鞘はその気持ちが強すぎると光琉と音羽は感じた。
美咲が会いたがっているとの話にも「果たして私が行って皆さんに受け入れていただけるかどうか......きっと皆さんは私を恨んでいらっしゃると思うんです」と、ここでも自身を卑下する発言をした。
対して光琉と音羽は理由がわからず互いの顔を見合わせるしかない。
その時だった。
3人の近くに1台の乗用車が止まり、運転席から50代ぐらいのスーツ姿の男性が現れた。そして「光琉さま、音羽さま。遅れて申し訳ありません」と深く頭を下げた。
この男性は前徳富雅という。天葉一族に仕える使用人で彼らの世話から相談係も務めており、時にはこうして車で送迎もこなす。
あの事件で生き残った天葉の者たちは、別荘地としていた山雲の森と呼ばれる地に移り住んだ。今年で17年経つ。
前徳は天葉一族が滅んだあとに仕え始めたので、更地になった天葉邸と地下空間への入口は初めて見る。だが、それを目にするだけで口には出さなかった。
今日光琉と音羽はバスと電車を乗り継いでここまで来たので帰りもそうすればいいと思ったのだが、鞘がいる事と彼女に会いたいと言った美咲が「大切な方なので丁重にお迎えするよう、前徳さんに車を出すようお願いしておきます」との事から車でのお迎えとなったのだ。
前徳を労う光琉と音羽、それに返す前徳のやりとりを見ていた鞘。ふと前徳と目が合ったのでとっさに自己紹介した。前徳も鞘の事は耳にしていたので「あなたの事は美咲さまや他の天葉の皆さまから聞いておりました」と話した。
私の事を知っていたのですねと鞘は思ったものの、果たして心から信じているかどうかはわからないと思った。
なぜなら、鞘は本来17年経っているのだから34歳のハズ。なのに前徳の目の前にいるのは鞘と名乗るセーラー服姿の少女。偽物かもと、疑われても仕方ない。しかし、それに関しては前徳からは何もなく自己紹介をされたのち「では、山雲の森へと参りましょう。美咲さまが鞘さまをお待ちです」と穏やかに言った。
鞘はこの瞬間、自分の浅はかさを後悔した。黒刃から天葉の生き残りがいると教えられてこの世に再び目を覚ましたワケだが、17年前と変わらない姿で現れた自分が天葉鞘だと名乗っても最初は信じてもらえない可能性がある。その事をすっかり失念していたのだ。
自分はこの車に乗ってはいけないのではないか?
鞘がそう思った、次の瞬間。
ガシッ。
気がつけば、鞘の腕は音羽の両手によって強く握られていた。
「......音羽さん?」
名を呼ばれた音羽は自分の起こした行動に今更ながらビックリして「ご、ごめんなさいっっ」とあわてて謝り、両手を離した。
「なんだか......鞘さんが私たちの前からいなくなるような、そんな気がして......」
「......」
今まさに心で思っていた事を言い当てられてしまった鞘はビックリしつつも「そのような事はありませんよ」と返すので精一杯だった。
しかしながら凶星があのような残虐な行いをクモを使ってしていたと知った以上、この地下空間を閉じなければならないだろう。
3人は考えた結果、再度隅から隅まで空間内を周り潜んでいる魔物を1ぴき残らず倒し、そして慎重に慎重を重ね、全ての出入り口を閉じる事にした。
巡回すると巨大グモがあちらこちらにおり、その都度倒していった。退治が完了すると出入り口に結界を張り、もう2度と何人たりとも足を踏み入れる事は出来ないようにしたのだ。
外へ出ると、鞘はあたり一面に咲き誇っている桜に目を細めた。
「今、季節は春なんですね。まさか再び桜を見られるとは思っていませんでした。17ぶりに見る桜はやはりキレイですね」
そう。長い間地下で眠り続けていた鞘にとって久しぶりの現代なのだ、感動もひとしおであろう。
音羽は満開の桜と鞘をしばらく交互に見つめていた。
しばらくして。
光琉は鞘に「俺たちが現在住んでいる家に行ってみませんか?」と声をかけた。
「先程、家に電話して鞘さんを見つけたとの報告を美咲さんにしたら、ぜひ会いたいからお家にお越し下さいとの事なので」
「あの......美咲さんとは...当主であった局さまのお孫さんの美咲さんでしょうか?」
「はい、そうです。現在は美咲さんが生き残った天葉の者たちを束ねる当主さまなんです」
「そうでしたか。美咲さんは無事だったんてすね」
ホッと安堵の表情を浮かべてつぶやく鞘。
一方の光琉は父から話されたある出来事を思い出す。
「17年前のあの事件で鞘さんが致命的な怪我を負ったのは......赤ん坊だった俺と音羽を身を挺してかばったためだったんですよね」
「え?!」
兄の口から出た衝撃発言に初耳の音羽は驚いて光琉と鞘を交互に見た。一方の鞘はうなずく代わりに「こうして再びお会い出来て、あなた方が無事だったのだとわかって嬉しかったです」と言った。
「私は超消滅士でありながら魔物の攻撃にやられてしまい、一族の皆さんをお守りする事が出来ませんでした......私にとっては恥ずべき事です」
鞘は致命的な怪我を負い戦線離脱した自分を17年経った今でも責めている、それに気づいた光琉は「あの時、生き残った超消滅士たちもそれぞれに自分を責めていたと、父から聞いています。鞘さんだけが責任を一身に背負う必要なんてないと思います」と励ます。
しかし、それでも鞘の心は晴れない。頑なに「私は他の超消滅士よりも更に頑張らなければいけなかったのです」と一点張りだ。超消滅士としてこの現代を、天葉の人たちを守るのが務めではあるが、鞘はその気持ちが強すぎると光琉と音羽は感じた。
美咲が会いたがっているとの話にも「果たして私が行って皆さんに受け入れていただけるかどうか......きっと皆さんは私を恨んでいらっしゃると思うんです」と、ここでも自身を卑下する発言をした。
対して光琉と音羽は理由がわからず互いの顔を見合わせるしかない。
その時だった。
3人の近くに1台の乗用車が止まり、運転席から50代ぐらいのスーツ姿の男性が現れた。そして「光琉さま、音羽さま。遅れて申し訳ありません」と深く頭を下げた。
この男性は前徳富雅という。天葉一族に仕える使用人で彼らの世話から相談係も務めており、時にはこうして車で送迎もこなす。
あの事件で生き残った天葉の者たちは、別荘地としていた山雲の森と呼ばれる地に移り住んだ。今年で17年経つ。
前徳は天葉一族が滅んだあとに仕え始めたので、更地になった天葉邸と地下空間への入口は初めて見る。だが、それを目にするだけで口には出さなかった。
今日光琉と音羽はバスと電車を乗り継いでここまで来たので帰りもそうすればいいと思ったのだが、鞘がいる事と彼女に会いたいと言った美咲が「大切な方なので丁重にお迎えするよう、前徳さんに車を出すようお願いしておきます」との事から車でのお迎えとなったのだ。
前徳を労う光琉と音羽、それに返す前徳のやりとりを見ていた鞘。ふと前徳と目が合ったのでとっさに自己紹介した。前徳も鞘の事は耳にしていたので「あなたの事は美咲さまや他の天葉の皆さまから聞いておりました」と話した。
私の事を知っていたのですねと鞘は思ったものの、果たして心から信じているかどうかはわからないと思った。
なぜなら、鞘は本来17年経っているのだから34歳のハズ。なのに前徳の目の前にいるのは鞘と名乗るセーラー服姿の少女。偽物かもと、疑われても仕方ない。しかし、それに関しては前徳からは何もなく自己紹介をされたのち「では、山雲の森へと参りましょう。美咲さまが鞘さまをお待ちです」と穏やかに言った。
鞘はこの瞬間、自分の浅はかさを後悔した。黒刃から天葉の生き残りがいると教えられてこの世に再び目を覚ましたワケだが、17年前と変わらない姿で現れた自分が天葉鞘だと名乗っても最初は信じてもらえない可能性がある。その事をすっかり失念していたのだ。
自分はこの車に乗ってはいけないのではないか?
鞘がそう思った、次の瞬間。
ガシッ。
気がつけば、鞘の腕は音羽の両手によって強く握られていた。
「......音羽さん?」
名を呼ばれた音羽は自分の起こした行動に今更ながらビックリして「ご、ごめんなさいっっ」とあわてて謝り、両手を離した。
「なんだか......鞘さんが私たちの前からいなくなるような、そんな気がして......」
「......」
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