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第9話「天葉一族と疑惑を持たれた鞘」
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山雲の森と呼ばれる森林の奥に、和風式の立派な屋敷が建っている。門の表札は【蘇芳】となっているが、この屋敷こそがあの事件で生き残った天葉の者たちの現在の住まいとなっている。
光琉の話にも出てきた現在の当主・美咲は庭におり、咲いているいくつもの花々にシャワーから放出される水の雨をまんべんなくかけていた。風にのってキレイな長い黒髪がサラサラと揺れ、花々に美しい笑みを向けている。
そこへ「美咲さま~」と呼びながら彼女の元へひとりの男性がやってきた。
「はい、なんでしょう?」と問い返した美咲が蛇口をひねると、シャワーからの水の放出は止まり、それを確認した彼女はシャワーを定位置に戻し、庭に設置されてる丸いテーブルにある椅子に腰をおろした。
一方の男性は見た目40代ぐらい。もちろん、天葉の人間で名は天葉晃伸という。
彼はあわてた感じで美咲に「先程耳にしたのですが、光琉と音羽が今まで行方がわからなかった鞘さんを見つけたとか」と話してきた。
「確かに、光琉さんからはそのような報告を受けました。大切な方ですので前徳さんに車でのお迎えをお願いしました。じきにこちらにいらっしゃるでしょう」
説明する美咲に対して、晃伸は不安な表情を浮かべる。
「はたして、2人が見つけたその者は本当に鞘さん本人なのでしょうか? もしかすると2人が天葉の人間と知り、我が天葉邸に入り込むために自ら鞘さんを名乗った不届き者かもしれないじゃないですか。そのような者を丁重にお迎えする事はないのです」
つまりは、光琉と音羽が連れて来る客人をこの屋敷に入れるのは反対だと言っているのだ。しかし美咲は「そうですね」と同意の言葉を口にはしたがその後に「でも、2人が連れて来る人が鞘さんではないという証拠もありません」と結んだ。
「天葉鞘さんは私たちにとって他の超消滅士同様、17年前に起きたあの事件で命がけで戦ってくれた英雄です。丁重にお迎えして当然ではないですか?」
「......ですが......万が一その者がここで我々に牙を向けたら......」
「その時は、超消滅士の皆さんが倒せばよいだけの事。鞘さんではない真っ赤なニセモノならば倒すのはカンタンでしょう。本物の鞘さんはケタ違いに強い超消滅士なのですから」
美咲からそう言われて晃伸は何も言えなくなってしまった。確かに彼女の言う通り、ニセモノであるなら超消滅士の敵ではないし、あわてふためく事もない。本物ならともかく、ニセモノに我ら天葉の戦士が負けるはずがない。
それでも納得がいかない晃伸に美咲は「大丈夫ですよ」とニッコリ笑顔を浮かべた。
「とりあえずその方に会ってみない事には、鞘さんであるかそうでないのか判断が出来ませんでしょ?」
「.....確かに、美咲さまのおっしゃる通りですね.」
晃伸は美咲が見せた笑顔を前に頷き返した。いずれやってくる鞘と名乗る人物を片っ端から観察してやると意気込みながら。
それにしても、と晃伸はひとりごちる。
(まさか、あのような者が天葉一族最強の超消滅士になるなどと誰が予想したであろう)
彼が指す「あのような者」とは鞘の事だ。その事に異を唱える者は少数いるが、美咲も彼女の祖母で17年前の当主であった局もその兄で鞘と葵の父である晃彦も鞘を受け入れていた。
鞘が最強と言われるのはその刀さばきにある。
「蝶の如く舞うように戦い、蜂のように容赦なく敵にとどめを刺す」と、一族の者たちが口を揃えていたのを晃伸は思い出していた。
そして、再度つぶやく。
「本当になぜあの者がどの超消滅士よりも......強さを身に着けたのだろうか?」と。
** * * *
その頃、光琉と音羽と鞘は前徳の運転する車に乗り、天葉邸がある山雲の森へと向かっていた。さすがに森に向かっているだけあって景色は緑一色であちらこちらに桜が咲いていた。
後部座席には光琉と音羽。ふと光琉が助手席の鞘に「こちらに来るのも久しぶりなんじゃないですか?」と尋ねるが彼女は首を横に振った。
「実は......こちらに来た事はただの1度もないんです」
更に鞘はこう続ける。
「......私のような者が足を踏み入れて良い場所ではないと思ってずっと避けていたので」
その意味がわからず光琉と音羽は再度顔を見合わせ、前徳はそれを黙って聞いていた。
やがて山雲の森に到着。そこには整備された道路があり、車はその通りを抜け更に奥へと入っていき、大きな門構えを通過。現在の天葉邸に到着した。
「おかえりなさい、光琉くん、音羽さん」
そう言って彼らを出迎えたのは、美咲と話していた晃伸ではなく、見た目50代くらいの男性だ。
2人からそれぞれ「ただいま」と返される男性が、車から降りてきた鞘を一目見るなり驚きの表情をした。それに気づいた光琉が鞘の事を男性に説明しようとしたものの彼は心ここにあらずといった感じで駆け足で屋敷へと消えていった。
その姿にポカンとしてしまった光琉と音羽は挨拶もせずに行ってしまった男性の非礼を鞘に謝罪した。
それに対し「気にしないで下さい」と返す鞘。
次に現れたのはその晃伸だった。
「ようこそお越しくださいました、天葉鞘さま。私は天葉晃伸といいます」
「はじめまして。天葉鞘と申します。本日は私のために時間を作っていただきありがとうございます」
そう言った鞘の言葉に特に返答もせず晃伸は「どうぞこちらへ。美咲さま並びに天葉の者たちがお待ちです」と坦々と述べたあと眼光を鋭くし
「あなたさまが本当に天葉鞘さまであらせられるのかを確かめるために、です」と口にした。
これには光琉と音羽が抗議する。
「ちょっと待って下さい晃伸さん。ひょっとして鞘さんの事疑ってるんですか?」
「ハッキリ言ってその通りだ」
「そんな......この方は間違いなく母の妹で私と兄さんの叔母である鞘さんです! ニセモノなら母の名前など知らないハズです!」
「そんなの、調べれば何とでもなる」
何とかわかってもらおうと説明する光琉と音羽だが、晃伸の変わらぬ姿勢に言葉を失った。
(ああやはり、予想は当たってしまいました。ですがそれは当然至極。あの事件で仲間を失った方々ならば尚更。外からやってきた得体の知れない者が一族の人間の名前を名乗っても無条件に迎えられるハズがありません)
鞘は本当に自分の浅はかさを後悔した。
(このまま私ひとり天葉の家に足を踏み入れず、去ってしまった方がよろしいのでは?)
しかし、鞘はすぐにその気持ちを消した。なぜなら彼女にこの場から去ってほしくない、去ろうものなら全力で引き止める! という表情で鞘を見つめる光琉と音羽がいたからだ。
自分のせいで可愛い甥と姪が天葉の人たちから悪く言われるのだけは避けたい、そう強く思った鞘。
(お2人のためにも時間はかか
るでしょうが、私が17年前に行方不明となった天葉鞘本人だと皆さんに証明しなくては......!!)
そう決心した鞘は「案内していただけますでしょうか」と晃伸に返したのだった。
光琉の話にも出てきた現在の当主・美咲は庭におり、咲いているいくつもの花々にシャワーから放出される水の雨をまんべんなくかけていた。風にのってキレイな長い黒髪がサラサラと揺れ、花々に美しい笑みを向けている。
そこへ「美咲さま~」と呼びながら彼女の元へひとりの男性がやってきた。
「はい、なんでしょう?」と問い返した美咲が蛇口をひねると、シャワーからの水の放出は止まり、それを確認した彼女はシャワーを定位置に戻し、庭に設置されてる丸いテーブルにある椅子に腰をおろした。
一方の男性は見た目40代ぐらい。もちろん、天葉の人間で名は天葉晃伸という。
彼はあわてた感じで美咲に「先程耳にしたのですが、光琉と音羽が今まで行方がわからなかった鞘さんを見つけたとか」と話してきた。
「確かに、光琉さんからはそのような報告を受けました。大切な方ですので前徳さんに車でのお迎えをお願いしました。じきにこちらにいらっしゃるでしょう」
説明する美咲に対して、晃伸は不安な表情を浮かべる。
「はたして、2人が見つけたその者は本当に鞘さん本人なのでしょうか? もしかすると2人が天葉の人間と知り、我が天葉邸に入り込むために自ら鞘さんを名乗った不届き者かもしれないじゃないですか。そのような者を丁重にお迎えする事はないのです」
つまりは、光琉と音羽が連れて来る客人をこの屋敷に入れるのは反対だと言っているのだ。しかし美咲は「そうですね」と同意の言葉を口にはしたがその後に「でも、2人が連れて来る人が鞘さんではないという証拠もありません」と結んだ。
「天葉鞘さんは私たちにとって他の超消滅士同様、17年前に起きたあの事件で命がけで戦ってくれた英雄です。丁重にお迎えして当然ではないですか?」
「......ですが......万が一その者がここで我々に牙を向けたら......」
「その時は、超消滅士の皆さんが倒せばよいだけの事。鞘さんではない真っ赤なニセモノならば倒すのはカンタンでしょう。本物の鞘さんはケタ違いに強い超消滅士なのですから」
美咲からそう言われて晃伸は何も言えなくなってしまった。確かに彼女の言う通り、ニセモノであるなら超消滅士の敵ではないし、あわてふためく事もない。本物ならともかく、ニセモノに我ら天葉の戦士が負けるはずがない。
それでも納得がいかない晃伸に美咲は「大丈夫ですよ」とニッコリ笑顔を浮かべた。
「とりあえずその方に会ってみない事には、鞘さんであるかそうでないのか判断が出来ませんでしょ?」
「.....確かに、美咲さまのおっしゃる通りですね.」
晃伸は美咲が見せた笑顔を前に頷き返した。いずれやってくる鞘と名乗る人物を片っ端から観察してやると意気込みながら。
それにしても、と晃伸はひとりごちる。
(まさか、あのような者が天葉一族最強の超消滅士になるなどと誰が予想したであろう)
彼が指す「あのような者」とは鞘の事だ。その事に異を唱える者は少数いるが、美咲も彼女の祖母で17年前の当主であった局もその兄で鞘と葵の父である晃彦も鞘を受け入れていた。
鞘が最強と言われるのはその刀さばきにある。
「蝶の如く舞うように戦い、蜂のように容赦なく敵にとどめを刺す」と、一族の者たちが口を揃えていたのを晃伸は思い出していた。
そして、再度つぶやく。
「本当になぜあの者がどの超消滅士よりも......強さを身に着けたのだろうか?」と。
** * * *
その頃、光琉と音羽と鞘は前徳の運転する車に乗り、天葉邸がある山雲の森へと向かっていた。さすがに森に向かっているだけあって景色は緑一色であちらこちらに桜が咲いていた。
後部座席には光琉と音羽。ふと光琉が助手席の鞘に「こちらに来るのも久しぶりなんじゃないですか?」と尋ねるが彼女は首を横に振った。
「実は......こちらに来た事はただの1度もないんです」
更に鞘はこう続ける。
「......私のような者が足を踏み入れて良い場所ではないと思ってずっと避けていたので」
その意味がわからず光琉と音羽は再度顔を見合わせ、前徳はそれを黙って聞いていた。
やがて山雲の森に到着。そこには整備された道路があり、車はその通りを抜け更に奥へと入っていき、大きな門構えを通過。現在の天葉邸に到着した。
「おかえりなさい、光琉くん、音羽さん」
そう言って彼らを出迎えたのは、美咲と話していた晃伸ではなく、見た目50代くらいの男性だ。
2人からそれぞれ「ただいま」と返される男性が、車から降りてきた鞘を一目見るなり驚きの表情をした。それに気づいた光琉が鞘の事を男性に説明しようとしたものの彼は心ここにあらずといった感じで駆け足で屋敷へと消えていった。
その姿にポカンとしてしまった光琉と音羽は挨拶もせずに行ってしまった男性の非礼を鞘に謝罪した。
それに対し「気にしないで下さい」と返す鞘。
次に現れたのはその晃伸だった。
「ようこそお越しくださいました、天葉鞘さま。私は天葉晃伸といいます」
「はじめまして。天葉鞘と申します。本日は私のために時間を作っていただきありがとうございます」
そう言った鞘の言葉に特に返答もせず晃伸は「どうぞこちらへ。美咲さま並びに天葉の者たちがお待ちです」と坦々と述べたあと眼光を鋭くし
「あなたさまが本当に天葉鞘さまであらせられるのかを確かめるために、です」と口にした。
これには光琉と音羽が抗議する。
「ちょっと待って下さい晃伸さん。ひょっとして鞘さんの事疑ってるんですか?」
「ハッキリ言ってその通りだ」
「そんな......この方は間違いなく母の妹で私と兄さんの叔母である鞘さんです! ニセモノなら母の名前など知らないハズです!」
「そんなの、調べれば何とでもなる」
何とかわかってもらおうと説明する光琉と音羽だが、晃伸の変わらぬ姿勢に言葉を失った。
(ああやはり、予想は当たってしまいました。ですがそれは当然至極。あの事件で仲間を失った方々ならば尚更。外からやってきた得体の知れない者が一族の人間の名前を名乗っても無条件に迎えられるハズがありません)
鞘は本当に自分の浅はかさを後悔した。
(このまま私ひとり天葉の家に足を踏み入れず、去ってしまった方がよろしいのでは?)
しかし、鞘はすぐにその気持ちを消した。なぜなら彼女にこの場から去ってほしくない、去ろうものなら全力で引き止める! という表情で鞘を見つめる光琉と音羽がいたからだ。
自分のせいで可愛い甥と姪が天葉の人たちから悪く言われるのだけは避けたい、そう強く思った鞘。
(お2人のためにも時間はかか
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