超消滅士・蘇芳鞘の二度目の人生譚

心響

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第11話「鞘のいまわしい記憶とトラウマ」

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 こうして隆史と戦う事になった鞘。
 大広間ではさすがにマズイと全員で天葉邸の隣りに建てられている道場へと移動した。
 ここでは超消滅士たちが日頃から剣術の練習や超生命を駆使して力を操る練習などに励んでいる。
 一族の者は下座に座り、美咲と晃伸たち数名が上座に座った。鞘は彼らの中心に立ち隆史と向かい合う。
 こちらに着いた際、鞘と隆史は美咲からルールを聞かされていた。
「安全を考慮するという点から竹刀で戦っていただきます。ニセモノならば竹刀さえ扱えないでしょうから。その結果、隆史さんを負かせる事が出来たなら第1関門突破とします。だからといってこの時点ではまだあなたが天葉鞘さん本人という証明にはなりませんので、その点はご了承下さいね」
 つまり、竹刀も扱えず隆史に負けた時点で鞘は天葉邸から追い出されるワケだ。
 一方の音羽は光琉と一緒に下座に座っていた。そして音羽の両腕には布に包まれた黒刃があった。 
 先程、前徳が「こちらの刀をお車の中にお忘れでしたよ」と言って2人のもとに持ってきてくれたのだ。音羽は礼を言って刀が鞘の持ち物であると話し「今鞘さんは立て込んでるので私から渡しておきます」と説明し前徳から黒刃を受け取った。

 一族の者は竹刀を持って中央で向かい合っている鞘と隆史を見ながらそれぞれにヒソヒソと話をしている。
 音羽は黒刃に話しかける。
「こうなったら黒刃さまが出ていかれた方が......。一族の皆も納得して鞘さん本人だと認めてくれると思うんです」
 対する黒刃は『それはダメだ』と返答した。
「なぜですか?」
『鞘自身の力で一族の皆を認めさせてこそ彼女も精神的に落ち着けるのではないかな。ましてや一族は身内からの裏切りに遭った末に多くの仲間や家族を失っているからな。再び信じようとするのはかなり勇気がいる事だろう』
「そうですよね......」
『でもそれをどうにかするのも鞘の役目だよ』
 次の瞬間、あたりがシーンと静まりかえり片手を上げた美咲の「はじめ!!」の号令と共に鞘と隆史の竹刀が交わると同時に竹刀がぶつかり合う音が道場内に響き渡った。

 一族の者はいっせいに隆史を応援し、それに応えるように隆史も竹刀で応戦する。
 この様子では隆史が優勢に思えた。

 ところが、次第に一族の皆の表情が蒼くなっていく。

 竹刀を振るう鞘の動きが段々と速くなり、隆史も竹刀を当てるだけで精一杯になっていた。光琉と音羽もスゴイと思いながら見とれている。

 鞘の華麗な竹刀さばきに何人かの者は見覚えがあった。
 あれは17年以上前、鞘が今の状況と同じように一族の前で竹刀を用いての試合をした事があったのだが、その時とあまりに同じだったのだ。
 まさに、蝶の如く舞うように戦う.......。セーラー服を翻し同時に長い黒髪もなびいた。
 17年もの間、眠り続けていたわりに清潔感があった事も疑われた要因なのだろうが。

 そのうち一族の皆は「ひょっとしてあの少女は本当に天葉鞘、その人なのかもしれない」と口々に言い始める。
 やがて、どの者かはわからないが
「......天葉の血を......半分しか受け継いでおらぬ半端者のクセに!!」と吐き捨てるようにつぶやいたのだ。

 その言葉は竹刀を操る鞘の耳にも届いていた。
 聞こえていたのは鞘だけではない、その場にいた全員が聞いていた。それにも関わらず一族の者たちは顔色ひとつ変えず、さも知っている素振りさえ見せる。
 この中で驚いていたのは、光琉と音羽だけだ。
「半分しか受け継いでないって......」
「半端者って、どういう事?」
 そんな2人の疑問に隣に居合わせた女性が「そうか。当時あなたたちはまだ赤ん坊だったから知らないのも当然よね」と前置きしてから話し始める。
「鞘さんはね、あなたたちのお母さま・葵さんのお父上であなたたちにとってはお祖父さまである晃彦さんが別の女性と関係を持った末にできた子供なのよ」
「「え?」」

 つまり鞘は光琉と音羽の母・葵と半分しか血が繋がっておらず、同時に2人とも叔母と甥、姪の
 血も半分という事を意味している。
 だから先程
「天葉の血を半分しか受け継いでおらぬ半端者のクセに」との言葉が出たのだろう。
 血が半分しかないのに、超消滅士になった、しかも一族最強......一族の者がそれを憎らしく思うのも当然なのかもしれない。
 鞘がどのような経緯をたどって天葉邸に引き取られたかはまた別の機会に説明するとして、彼女自身は天葉に感謝しており、いつか役に立ちたいという気持ちが強かったためにある日突然、超消滅士の力に目覚めた。
 しかし、そのきっかけも鞘にとってはあまり思い出したくない記憶の中にあった。それも先程一族の者が吐き捨てた言葉が大きく関係している。

 なぜなら鞘は以前にも、同じ言葉を言われた事があるからだ。
 それがどうしてか、隆史と竹刀を交えていくうちにその記憶が鮮明に思い出されていく。

 あれは鞘がまだ6歳の時。天葉邸に引き取られたばかりの頃であった。
 一族の中には鞘に冷たい視線と接し方をする者もいたが、大半の者が彼女を歓迎した。だからこそ鞘自身も恩返しのつもりで皆の役に立ちたいという思いを強く持ち続けた。
 そんな中、ひとりの男性が鞘に声をかけてきた。当時30代の、もちろん天葉の人間である。
「おいで。お兄さんがいい所に連れて行ってあげる」
 そう言いながら男性は子供だった鞘の手を引いてテクテクと歩いていく。鞘からは男性の表情が見えなかった。見えたのは後ろ姿だけ。
 それなのに、鞘は何か嫌なものを感じ取っていた。しかし逃げようにも手を掴まれてるためそれも出来ない。
 そうこうしているうちに男性がたどり着いたのは、ズバリ天葉邸の物置き部屋だった。
 そう。この男性が鞘を連れてこちらに来たのは彼女にわいせつ行為をするため。
 彼は幼女にしか性欲がわかないという性癖があった。そして最近、天葉邸にひとりの幼女=鞘が引き取られた事を知り、彼女に近づく機会を伺っていたのだ。
 鞘は何をされるかなんてものはわからなかったが、とっさに逃げなきゃ、と思い、ブンブンと自分の手を掴む男性の手を「イヤだ......は、はなして......!」と言って振りほどこうともがいた。
 とたんに男性が本性を見せ始める。
「いいから! 俺の言う通りにしろ!!」
 優しかった口調も荒くなり、無理やり自分に従わせようとする。それでも鞘は諦めなかった。
 対する男性は拒絶されてるのがよほど頭にきたのか吐き捨てるように鞘に向かって言い放つ。

「ワガママ言うなよ、半分しか天葉一族の血を引いてないクセに!! 俺たちはな、何処の馬の骨かもわからないお前を引き取ってやったんだぞ! 
 つまりはお前は奴隷も同然なんだ。奴隷は奴隷らしく、引き取ってくれた家の人間の言う事を素直に受け入れればいいんだ!!」

「......」

 その言葉の数々は鞘の心を深く抉る結果となり、同時にある人物から言われた言葉をも思い出してしまった。

『天葉の男に近づいて関係を持てたのに......生まれたのがお前のような出来損ないだなんて......!! これじゃ、何のために出産したのかわからないだろ!!』

 鞘に向けて言い放ったもうひとりの人物ーーーそれは、鞘の実の母親であった。
 いつしか母親からの言葉と男性からの言葉が同時に頭の中で響き渡り、重なった。

「やめて...! やめて...!」
 拒絶を続ける鞘をなおも男性は従わせようと彼女の体を押し倒そうとした。


 その時。
 鞘の中の何かが、弾けた。

「イヤぁぁぁ!!」

 鞘の瞳に黄金の色が浮かび上がると、彼女は思いっきり自分の腕を掴んでいた男性の手をはねのけた。すると突然、男性の体が宙に浮いたかと思えばそのまま部屋の壁へと激突したのだった。

 この瞬間、鞘は超消滅士の力に覚醒。彼女もまた超生命の持ち主であったのだ。

 一族の者が吐き捨てたあの言葉はまさにあの時の男性と同じもの。17年経った現代においても鞘にとってはトラウマとなっている言葉なのだ。
 そのため、隆史相手に彼女は無意識に超消滅士の力を放ってしまったのだ。
 あの時のように。

 そして、その場にいた一族の者全員が目にした。
 鞘の瞳に宿った、黄金の色を。
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