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化け物
しおりを挟む「ちょっと!どこでこんなの、拾ってきたの!」
「ご、ごめん!」
息も絶え絶えで僕たちは叫ぶ。何故か?後ろから追いかけてくるやつが、木を薙ぎ倒して馬鹿でかい音を出すせいで、叫ばないとお互いの声が聞こえないから!
おかしい、僕は薬草採取をしに来ただけだ。それなのに、こんな恐ろしい化け物に追いかけられる羽目になるなんて。どうしてこうなったんだっけ?
えーと、確か……後を着いてくる子供はそのままに、森に入ったんだ。予想通り、森の中まで子供は着いてきた。魔物図鑑によると、森の奥に行けば行くほど強い魔物が出ることが多いみたいな感じのことが書いてあった……はず、多分。だから今日は、森の浅い場所で採取をしようと決めて、少し歩くと障壁が見えるほど近い場所で採取をしていた。
最初は距離をとって隠れてこっちを見ていた子供が、採取をしている間に少しずつ近づいて来ていた。それほど時間が経たないうちに、僕の隣で一緒に採取をしていた。
目に見える範囲の、それっぽい草をいくつか摘んできて尋ねて来るようになった。
「これは?」
「それは雑草」
「じゃあこっちは?」
「そっちはヒール草」
その度に差し出された草を鑑定して教える。何度も繰り返すうちに、子供の手が土で汚れていくのに気づく。どうしてそんなに汚れるんだと気になって、様子を見てみた。
根っこが抜けないように左手で土を抑え、右手で茎部分を掴んでぶちっと千切っている。おぅ……根っこを抜かないのは偉い。偉い、けど千切ったところからまた生えてくるのかなぁ……。薬草を採取するのは僕らだけじゃないし、自分だけナイフ使っているのも忍びない。そう思って、こっそりタオルとナイフを創って渡す。
「僕に?」
ただでさえ大きな目をこれでもかと開いて聞いてくる。そんなに開けたら目がこぼれ落ちそうで怖いんだけど。
「うん」
というか是非使ってほしい。他の冒険者と僕の良心のために。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
嬉しそうに満面の笑み浮かべ、受け取ろうとした手がナイフに触れる直前で不自然に止まった。
「汚しちゃうからちょっと待って」
子供は汚れた手を服で拭こうとする。
「わー!ストップストップ!ちょっと目閉じてて」
慌てて子供の両手首を掴んで止める。そうだよね、貰ったものを汚れた手で受け取りにくいよね。僕の配慮が足りなかった、ごめん。
言われた通りに子供が目を閉じてくれたので、適当に水の出る水筒を出して、子供の手を綺麗にする。途中で「もう目を開けていいよ」と言い、綺麗にした手にナイフを握らせた。
「ありがとう。これでたくさん切ってくるね!」
「う、うん。気をつけて」
ちょっと怖いけど、まぁ大丈夫かなと薬草採取を再開した。しばらく夢中で鑑定していたからか、気がついたら子供の姿が見えなくなっていた。
サーッと血の気が引いて、慌ててあちこちを探し回り、それほど遠くない場所から、ドシンドシンという音が聞こえてくる。なんだかとても嫌な予感がして音のする方へ向かう。
たどり着いた少し開けた場所に探していた子と向かい合うようにその化け物はいた。ガンガンと頭の奥で警報が鳴り響く。逃げないとその一心で子供を引っ張って走り出した。
そして今に至る。これまでの過程を振り返ったからか、少し心に余裕ができて、後ろのやつを見ようと振り返った。多分、僕の人生史上最高の速度で首が動いたと思う。ダメ、無理。直視できない。なにあれ?クッソ怖いんだけど。
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