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24 島の生活
しおりを挟む「あれんー! はやくはやくー!」
「分かったって」
クーに連れられて、アレンは今日も朝から動き回っている。この聖なる島で暮らし始めてから、すぐさま形作られたルーティンであった。
最初は警戒していた魔物たちも、割とすぐにアレンに懐いてしまった。
一緒に遊ぶのは勿論のこと、食べられる野草や木の実などを分けてもらって、帰ってくることもある。
魔物たちと出かける後ろ姿を見送りながら、ディアドラは思った。
アレンはすっかりこの島の住人になったのだと。
まだ暮らし始めて数日しか経過していないというのに、なんとも凄い馴染むのが早いものだと、思わず感心してしまう。
「うぃーす、ディアドラー!」
ばっさばっさと翼を羽ばたかせながら、ガトーが空から下りてきた。強靭な足の爪で掴んでいた『それ』をドサッと地面の上に放り出す。
「ダンナのほうは、またチビスケたちと遊びに行ったみてぇだな?」
「えぇ。すっかり溶け込んじゃったみたいだわ」
「嬢ちゃんこそ、クーたちの面倒を見る、いい嫁さんしてるじゃねぇか」
「フフッ、そりゃどうも」
ディアドラはクスクスと笑う。たとえお世辞だったとしても、ガトーの言葉に対して嬉しく思っていることは間違いない。
それはそれとして、彼女は一つ、気になることがあった。
「ところで、それ――」
「あぁ。さっきそこで仕留めてきた土産だ」
そう言いながら足元に転がした巨大な鳥の亡骸を見下ろす。
「悪いけど血抜きとかはそっちでやってくれ。オレはこのままでも喰えるけど、アンタたちはそうじゃねぇんだろ?」
「ま、まぁね……ありがたくいただくわ」
「おうよ。ソイツは見た目の割に、いい肉を持ってるから、ウマいもんだぜ!」
そしてガトーは、じゃあなと言って飛び去って行く。本当に鳥を届けに来ただけだったのだと、ディアドラは思った。
「……とりあえず捌かないとね。思わぬご馳走が手に入っちゃったわ」
苦笑しながら躊躇することなく亡骸を抱きかかえ、新しく建てた小さな家の裏側へと運んでいく。
そして裏庭から、切り崩した崖の階段を降りていった。
その先に小さな作業場を作ってあるのだ。
仕留めた獣の解体は、主にそこで行っている。血抜きなどで発生する臭いが、家まで流れないようにするためだ。
そこは森が開かれていて日当たりも良く、二人で小さな畑を作った。
とはいえ、まだ大まかな土台しか出来上がっていないのだが。
(何もなかった荒れ地から、たった数日でここまで作った……流石はアレンね)
アレンも自給自足が中心となる生活圏で暮らしていただけあって、本業ではなくとも知識は持っていた。彼曰く、村生まれの男の子は、幼少期から畑作りを手伝わされるとのこと。故に自然と手順も覚えたということであった。
しかし、それでも一人でやれる量には限界がある。
一人より二人。体力のある者が加われば、自然と作業効率は跳ね上がる。畑に対する知識があれば尚更と言えるだろう。
(こんなこともあろうかと、お忍びで田舎に出向いて、作物の育て方を教わっといて正解だったわ。これも夫婦の共同作業よね? 絶対にそうよ)
謎の満足感にディアドラは胸を張る。ここに夫がいないのが残念でならないが、帰りを待つのも妻の役目――そう思いながら、作業場の倉庫から鉈を出す。
実に慣れた手つきで、鳥の血抜きから解体を行ってゆく。
涼しげな笑顔で、鼻歌交じりに鉈を振るうその姿は、まさにプロのハンター顔負けといっても過言ではない。少なくとも、数ヶ月前まで国を治めていた存在だとは思われないだろう。
「――ほう。こりゃまた、随分な獲物が手に入ったんじゃのう」
エンゼルの感心する声が聞こえてきた。
いつの間にか近くまで来ているという事実に、ディアドラはまたしても軽く驚いてしまう。
「ちょっとお爺さん? せめて気配くらい漂わせて来てくれないかしら?」
「スマンスマン。ちょいと驚かせたくなったんじゃよ」
「全くもう……」
しょうがないなぁと言わんばかりに、ディアドラは苦笑する。その間も手はしっかり動かし続けており、エンゼルを更に感心させた。
「手慣れておるのー」
「狩りは何年も前から訓練でやってたのよ。魔界の王たるもの、狩りの一つや二つできないようでは務まらないとね」
「ホホッ、またなんとも逞しい教育を受けてたんじゃな。というより――」
エンゼルの楽しそうな口調が、急に落ち着きを増し始めた。
「お主の場合、最初から何かを見越しておった……というふうにも思えるがの」
「…………」
ディアドラの手がピタリと止まる。しかしすぐに動きは復活し、軽く噴き出しながら笑みを浮かべた。
「なんか見抜かれてたみたいね」
「あくまでワシの勘じゃよ。お前さんほどの者が、そう簡単に王の座を追われるようなヘマをするとは、どうにも思えんからな。それに……」
エンゼルはニヤリと笑った。
「山奥で発生したスタンピードとやらも、お前さんがアレンを助けるには、どうにもタイミングが良すぎる。まるで最初から狙っておったかのようじゃ」
「……お爺さんは、私がスタンピードを起こした張本人だと?」
「いや、お前さんはそんなことをするタイプには見えん。むしろそれを上手く利用するタイプじゃとワシは見ておるが……どうかの?」
チラリとディアドラに視線を向ける。試しているような、射貫くような――様々な思惑が入り混じっているようなスライムの目に、ディアドラは目を見開き、そして力無く笑う。
「降参するわ。概ね、お爺さんの想像どおりだと思うわよ」
「やはりそうじゃったか」
エンゼルが小さく笑いながら言う。ここで潔く認めるのも、ディアドラという人物だからこそなのだろうと、心の中で思った。
「――私はアレンをずっと前から知っていたわ。ある程度の偶然こそ重なってはいるけれど、彼と接触することを目的としていたことは確かよ」
全ては偶然などではなかった――そのことをディアドラはエンゼルに語る。
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