幼なじみの聖女に裏切られた僕は、追放された女魔王と結婚します

壬黎ハルキ

文字の大きさ
25 / 50

25 ディアドラの語り

しおりを挟む


 それは、まだディアドラが幼い頃の話――

 当時の魔王であった父親が、お忍びで人間界へ偵察へ行くことになり、ディアドラはそれに無理やり付いて行ったのだ。
 誰にも気づかれることなく荷物に紛れることに成功し、人間界についた時点でそれが発覚。そのまま連れていくしかないと周りが折れた形であった。
 幼いディアドラは、それくらいお転婆だったのだ。
 ついでに言うと好奇心旺盛で、何にでも興味を持ってしまうほどであり、周りはかなり手を焼かされた。しかし将来の魔王として、見聞を広める意味では決して悪いことでもない――そう見なされていた。

「――まぁ、お父様が娘の私に対して甘かった、というのも大きかったけどね」

 ディアドラが懐かしそうに空を仰ぐ。

「おかげで幼い頃は、私も割と影口っぽいことを言われたものよ。典型的な七光りのダメ娘になるんじゃないかってね」
「ふむ。今のお前さんを見ている限りでは、そうは思えんが……」
「だとしたら嬉しい限りね。そうならないよう、たくさん努力してきたから」
「なるほどのう」

 エンゼルもすんなり納得した。生まれつき強い者などいない。それは魔物もヒトも同じであることは、長年生きてきただけに分かる。
 こうして笑顔を見せているディアドラも、陰ではどれだけ苦労してきたのか。
 想像してもしきれない。
 そもそも魔物である彼からすれば、生きる世界そのものが根本から違う。それを考慮した上でも、やはりどう考えても理解はしきれない。

「それで、人間界へこっそり付いて行ったと言っておったが?」
「えぇ。そこで私は、お父様たちとはぐれたのよ」

 魔界とは明らかに違う、自然豊かな山奥の景色。その目に飛び込んでくる全ての光景が珍しく、早々に夢中となってしまったのが事の始まりだった。
 気がついたら周りには誰もいなかった。
 どれだけ見渡しても、どれだけ歩いても、人の影すら見えてこなかった。

 ――おとうさまー、どこー?

 今までにないくらい必死に叫んだ。しかし大好きな父の声が、返ってくることはなかった。

「あの時のことは、ホント忘れられないわ――」

 人生で初めて本気で恐怖した。このまま誰にも見つけてもらえずに、一人で知らない世界で生きていかなければならないのかと、幼い子供なりに最悪の展開を想像してしまったのだ。
 既に王族としての教育を開始していたディアドラだからこそ、変なところで冷静に頭が働いてしまった形である。
 ディアドラは泣いた。
 声に出さず、ひたすら大粒の涙を流し続けた。
 しかし歩きを止めることはなかった。
 もう何も考えられていない。立ち止まればもう二度と歩けなくなる――体がそう判断したが故の、一種の自己防衛だったのかもしれない。

「それでも限界は訪れたわ。無理もないわよね。幼い子供が山奥の道なき道を歩き続けるなんて、普通ならば不可能だもの」

 とうとう歩けなくなったディアドラは、大きな岩によじ登り、座り込んだ。
 少しでも高い場所を選んだのは、見つけてもらいやすくするため。きっと大好きな父たちが、今頃心配して探してくれていると信じていた。
 しかし来なかった。
 もう自分のことなんて忘れて、魔界へ帰ってしまったのではと思い、幼いディアドラの目に再び涙が溢れる。
 とうとう声を上げた。
 どんなに厳しい勉強や訓練でも、決して上げたことなんてなかった泣き声が、ここにきて決壊したのだった。
 少女の泣き声は、雲一つない青空に吸い込まれるばかりであった。

「正直、もうダメだと思っていたわ。でも、その時だった――」

 ――ねぇ、だいじょーぶ?

 そう呼びかけられた。ディアドラは泣き止み、涙を流しながら視線を向けると、スライムと一緒に立っている男の子がいた。

 ――ぼく、アレン。みんなでピクニックにきたんだよ。キミは?

 自分よりも少し年下に見えたその男の子は、無邪気な笑みを浮かべていた。
 それまで抱いていた絶望感が、あっという間に吹き飛んでいく。ディアドラは男の子の笑顔に、完全に引き込まれていた。

「なるほど。それがアレンとの出会いということか」
「えぇ。お腹が空いていた私に、お弁当のサンドイッチを分けてくれたの。そして迷子の私を助けるために、一緒に来ていた大人の方たちにも話して、みんなでお父様たちを探してくれたわ」
「協力してくれたということか……」

 話を聞いていたエンゼルは、一つ疑問が浮かんでいた。

「お前さんは魔族じゃろう? 人間とは確執があったのではないか?」
「確かに不思議な話よね」

 当時はそれどころではなかったため、そこまで考える余裕はなかった。しかし思い返してみれば、よく何事もなく助けてくれたものだと言える。

「困っている時はお互い様――村の人たちのその言葉に、お父様は驚いてたわ。人間界にもあのような者たちがいようとはな、ってね」
「それだけ衝撃的だったということか」
「えぇ。そして私は、声をかけてくれたアレンに、すっかり惚れてしまっていた」

 困っている人を助けただけだよ。そんな大したことしてないもん――アレンはまっすぐな笑顔で、はっきりとそう告げてきた。
 ディアドラからしてみれば、大きな衝撃そのものであった。
 彼女は魔王の娘。向けられる笑顔も、家柄や地位を求めた下心満載が基本。裏も何もない眩しさを誇る表情は、それが初めてだったのかもしれない。

「そして私は、お父様と再会できた。容赦のないゲンコツをもらって、それから優しく抱きしめてくれたわ」

 これに関しては、完全に自分が悪いからとディアドラも納得している。
 たとえ娘が相手であろうと、叱るときは全力で――そんな教育方針を徹底していた父親だからこその行動であったと。

「本当はアレンともっとお話とかしたかったのだけど、そうもいかなかった」

 しかし、このまま何も言わずに別れるのだけは、どうしても嫌だった。
 そこでディアドラはアレンに言った。

 ――いつか私が大きくなって迎えに行くから、そのときは結婚しましょう!
 ――ケッコン? うん、いいよー♪

 そんなやり取りを交わして二人は別れを告げたのだった。

「恐らく……というか間違いなく、アレンは私が言ったことの意味なんて、全く理解していなかったと思うわ」
「……じゃろうなぁ」

 エンゼルもその姿が想像できてしまい、思わず苦笑する。それはディアドラも同じくであった。

「まぁ、結果的にアレンとは夫婦になれたから、結果オーライなのだけどね」
「そうか」
「あ、ちなみにこのことは、ここだけの話でお願いするわ」
「ふむ……」

 人差し指を立ててウィンクするディアドラだったが、エンゼルは突如として悩ましそうに視線を逸らす。

「済まんがそれは、無理な相談となってしまうのう」
「えっ?」

 急にどうしたのだろうか――ディアドラがそう思った瞬間、突如として近くに一人分の気配が生まれた。
 驚きながら振り向いてみると、そこには――

「やぁ……ディアドラ」
「ア、アレンっ? な、ど、どうして……」

 完全に不意を突かれたディアドラは、目を見開いて驚く。
 なんとアレンは、島の魔物たちの特殊な力を借りて、気配を消した上でずっと今の話を聞いていたのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...