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第523話 始まりの鐘の音

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 翌日、アリスは扉がノックされる音で目を覚ます。
 扉の向こうからはタツミの声が聞こえて来て、時間に目を向けると朝食の時間であると分かりすぐに起き上がる。
 ぼさぼさになった髪を手で整えつつ、タツミに返事をする。

「その声にバタバタした感じ、今起きたのか? はぁ~少し時間やるから終わったら声かけろ」

 暫く経った後アリスから声がかかりタツミが扉の鍵を解除し、部屋に入る。

「おはようございます、タツミ先生」
「ああ、おはようお寝坊さん」

 アリスは申し訳なさそうな顔をしていると、タツミは机に持って来た朝食を置く。

「寝坊するなんて、昨日は夜更かしでもしたか? それとも場所が変わって眠れなかったか?」
「あははは、そんなところです」

 苦笑いするアリスにタツミはそれ以上追求する事はなかった。

「今日は昼に診察を一度する。経過状態を見るだけだが、魔力量などのチェックをするか動きやすい服に着替えておいてくれ」
「ここから出るんですか?」
「他には誰もいないし、ここで魔力量検査は出来ないからな。ちょうど競技場地下だし、外に検査するくらい大丈夫だろ」
「いいんですか、そんな勝手に決めて」
「いいんだよ。俺に一任されてるんだ、もし逃げたかったら逃げてもいいぞ。逃げられると思うならな」
「そんな事しませんよ。変な事いわないでください」

 その後タツミは「何か用があれば机に置いている通信用魔道具で」と言い残し、部屋から立ち去って行くのだった。
 アリスはそのまま朝食を食べ始めるが、途中で手が止まってしまう。
 小さくため息をつくと、ボーっと少し遠くの方を見つめる。

「あの答え方は正解だったのかな……いや、正解なんてないよね」

 アリスは昨日の出来事を思い出し始める。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「レオン、いるよね?」

 アリスの言葉にレオンは「うん」と扉越しに返事をする。

「答えが決まったって事だよね?」
「えぇ……私は、レオンの手は取れない」
「っ……理由を訊いてもいいかな?」

 その時レオンの声は少しだけ震えていた。

「私はレオンを異性の対象として考えられない。隣に立つ姿が異性じゃなく、友人としてしか私には考えられないの。ごめんなさい」

 アリスの答えにレオンは黙ったまま聞き続ける。

「それに私はここを出る訳にいかないの。まだやるべき事、やり残した事もあるからそっちには行けないわ」
「そうか。それは出来そうなのかい?」
「分からない。でも伝えはした、後は待つだけよ」
「……叶うといいね」
「うん、そうね。ありがとう」

 暫く沈黙が続いた後、レオンは「じゃ行くよ」と声を掛ける。
 それに対しアリスは「うん」とだけ口にする。

「アリス。答えを出してくれて、僕と向き合ってくれてありがとう」

 レオンはそう言い残しその場から立ち去って行くのだった。
 アリスはその後、ベッドへ向かいうつ伏せに倒れ込む。

「あの答えが私の気持ち、嘘はない。でも、もっと別の答え方があったんじゃないかと思ってしまう」

 暫くその状態のままだったが、体勢を変え仰向けになり天井を見つめ続ける。

「こんな気持ちになるのね相手の好意に答えるのは。想像してたより、胸が締め付けられるものなのね」

 アリスは腕で目を覆い、もう一方の手で軽く胸を抑える。
 そうして眠るに眠れない夜をアリスを過ごした後、浅い眠りに落ちるのだった。
 そんな昨日の出来事を思い出し、アリスは軽く胸が締め付けられるも一度深呼吸をし再び朝食を食べ始める。
 朝食を食べ終えた後、本を読みながら直近の授業復習をしていると学院中に長い鐘が鳴り響いた。
 その音を聞き、アリスは今日が最終期末試験一日目だったと思い出す。

「そっか、今日が一日目だったのね。もうちょっとだけ先だと思ってたけど、日付感覚がちょっと狂っているわね」

 悲しい様な驚いた表な表情で鐘を音を聞き終えるとアリスは、視線を本へと戻し黙々と復習を続けるのだった。
 その後科目ごとに試験開始と終了の鐘が鳴り響き、お昼の鐘の音が鳴り響く。

「うーーん、お昼か。そういえば診察予定があったんだ、着替えとかないと」

 アリスは椅子から立ち上がり、タツミが来る前に動きやすい服に着替え終わるとタイミングをよく扉がノックされタツミの声が聞こえてくる。
 鍵が開けられ扉が開くとそこにはタツミとマイナそしてミカロスにエメルが後ろに控えていたのだった。
 思わぬ人物にアリスは困惑し軽く首を傾げる。
 どうしてマイナ学院長が? それにミカロス先輩に、エメル寮長まで何で?

「昼食持って来たぞ」

 そんな中タツミは何事もなく部屋に昼食を置いた。

「あ、ありがとうございますタツミ先生」
「しっかり着替えているな。昼食後に医務室の方で診察した後、魔力量検査をする。詳しい項目は後で説明する」
「はい」

 タツミの言葉にアリスは頷くも、どうしても後方に控えている人物たちが気になってしまいチラチラと後ろへと視線を向けるのだった。
 何の説明もしないタツミに対しアリスはたまらず部屋の外に控えている人物たちの事を問いかける。

「ん、あー学院長たちの事か。話があるらしいがどうする、昼食の時間だしこっちを優先したんだが」
「いや気になって昼食どころじゃないですよ」
「そうか。じゃあ先に話してもらうか?」
「そうしてくれると嬉しいです」

 するとタツミは部屋の外で待機していたマイナに声を掛け、アリスの主張を伝えると部屋の中にマイナが入って来た。

「ごめんなさいね急に来てしまって」
「いいえ。それで話って何ですか?」
「それは以前貴方が私たちに対して口にした、希望の事についてよ」

 アリスはすぐに呼び出されたあの日、勢いで口にした最終期末試験参加についての事だと理解するのだった。
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