転生したら最弱領地でしたが、戦争も外交も駆使して仲間と王国を作ります

羽蟲蛇 響太郎

文字の大きさ
6 / 11
第2章 境界の外側

エピソード6 王と呼ばれた日

しおりを挟む
 ゴブリンの村に、人間が三人加わった。

 それだけで、空気は変わる。

 だが――
 混乱は、思ったよりも小さかった。

 理由は単純だ。

 ここには、決まりがある。



 最初に動いたのは、剣士の少年――アルトだった。

「俺、力仕事やります」

 年若く、技量も低い。
 だが、逃げない。

 グルクは腕を組み、短く言った。

「なら、見張りと柵の補強だ」

「はい!」

 アルトは、ゴブリンの戦士と並び、
 槍の持ち方から叩き込まれた。

 傷だらけになりながらも、
 毎日、立ち続ける。

 その背中を、誰も笑わなかった。



 回復役の少女――ミリアは、
 最初は怯えていた。

 だが、怪我人の多さに気づいた瞬間、
 迷いが消えた。

「……治療、させてください」

 小さな光。
 弱いが、確かな癒し。

 ゴブリンたちは最初こそ警戒したが、
 痛みが引くと、すぐに態度が変わる。

「ヒトの魔法、悪くないな」

 その一言で、ミリアは泣いた。



 見習い魔術師のフェンは、
 自分が一番役に立たないと理解していた。

 だから、知ろうとした。

「……罠、教えてもらえますか」

 魔法理論と、ゴブリンの狩猟知識。
 組み合わせれば、使えるものは多い。

 小さな火球で合図を出し、
 影と罠を連動させる。

 フェンの目は、日ごとに変わっていった。



 俺は、それを見ているだけだった。

 指示はする。
 だが、強制はしない。

 決まりが、彼らを動かしていた。

 ある日の夕暮れ。

 村の中央で、グルクが声を上げた。

「ノクス」

 全員の視線が集まる。

「この村は、変わった」

 短い言葉。
 だが、重い。

「強いからじゃない。
 殺さないからでもない」

 グルクは、槍を地面に突く。

「続くからだ」

 沈黙の後、
 誰かが呟いた。

「……王だ」

 ゴブリンの若者だった。

 ざわ、と空気が揺れる。

「王……?」

「支配する王じゃない」

「決まりを守る王だ」

 視線が、俺に集まる。

 俺は、少しだけ息を吐いた。

「その呼び方は、まだ早い」

 だが――否定はしなかった。

 この場で、
 初めて俺は理解した。

 国とは、呼ばれた瞬間に始まる。




――勇者失踪について

 王都近郊の神殿。

 重苦しい空気の中、司祭が報告する。

「勇者候補三名――
 アルト、ミリア、フェン」

「消息、断絶」

 騎士団長が眉をひそめる。

「死体は?」

「見つかっていません」

 沈黙。

「……森だな」

 誰かが言った。

「最近、妙な噂が多い」

「ゴブリンが、集落を作っている」

「人型の影が、統率している」

 司祭は、低く呟く。

「勇者が消えた場所と、重なる……」

 騎士団長が、剣の柄に手を置く。

「確認が必要だな」

 それが――
 次の衝突の、始まりだった。



 影の村では、
 今日も火が灯る。

 ゴブリンと人間が、同じ鍋を囲む。

 誰も、王冠など見ていない。

 だが、確かにそこには――
 王がいた。



 数日が、穏やかに過ぎた。

 ゴブリンの村は、以前よりも静かで、
 以前よりも忙しい。

 柵は高くなり、
 畑は増え、
 見張りの交代も、きちんと決まった。

 ――だが、その朝だけは違った。

「……行くのか」

 俺の言葉に、アルトは頷いた。

「はい」

 剣はまだ頼りない。
 腕も、村の戦士には及ばない。

 それでも、彼の目は逃げていなかった。

「ここで守ってもらうだけじゃ、駄目なんです」

 ミリアが、小さく頭を下げる。

「私たち……勇者って呼ばれたまま、
 何も知らないままじゃ、嫌で」

 フェンは、少し照れたように笑った。

「外を見て、
 この村の“異常さ”がどれだけ危険か、
 知っておきたいんです」

 正しい判断だ。

 この村は、まだ小さい。
 そして――狙われやすい。

「無理はするな」

 それだけ言った。

 命令はしない。
 引き止めもしない。

 彼らは、もう“村の客”じゃない。

 選ぶ者だ。

「必ず、戻ります」

 アルトはそう言って、
 三人で森の奥へ消えていった。

 ゴブリンたちは、何も言わなかった。

 ただ、見送った。



 夜。

 焚き火が落ち、
 村が眠りに入る頃。

 俺は、違和感を覚えた。

(……来る)

 影が、自然と外へ伸びる。

 数ではない。
 質でもない。

 意思だ。

 森の奥から、
 はっきりと“考えている気配”が近づいてくる。

 やがて、闇の中から声がした。

「――噂は、本当らしいな」

 低く、濁った声。

 だが、確実に“言葉”だった。

 木々の間から現れたのは、
 異形の魔獣たち。

 狼に似たもの。
 昆虫の外殻を持つもの。
 骨が露出した獣。

 共通しているのは――
 目に理性があること。

「ゴブリンが秩序を持ったと聞いた」

 先頭に立つ魔獣が、一歩踏み出す。

 巨大な体躯。
 角と牙。
 だが、無駄な殺気はない。

「人間の真似事をしている、ともな」

 ゴブリンの見張りが、息を呑む。

 俺は、影を人型へと整え、前に出た。

「名を聞こう」

 魔獣は、口角を歪めた。

「ヴァルガ=ルゥ」

 群れ長の名だ。

「我らは、意思を持つ魔獣。
 人間にも、下等魔物にも属さぬ者たち」

 その言葉に、寒気が走る。

 俺と、同じ立場。

「目的は?」

 短く問う。

 ヴァルガ=ルゥは、
 村を見渡した。

「この場所だ」

 静かな声。

「弱い魔物が集まり、
 守られ、
 増えている」

 一瞬の沈黙。

「……許せん」

 はっきりとした敵意。

「弱者が守られる世界など、
 いずれ人間に喰われるだけだ」

 ゴブリンたちが、ざわつく。

「だから――」

 魔獣の目が、俺を射抜いた。

「我らが喰う。
 その前に」

 交渉は、まだ終わっていない。
 だが――

 始まってしまった。

 意思ある魔獣たちは、
 ゆっくりと包囲を広げる。

 数は、十を超える。

 夜風が止み、
 焚き火が、揺れた。

(……なるほど)

 人間だけじゃない。
 魔物の世界にも、
 この村を許さない存在がいる。

 俺は、影を深く広げた。

「ここは、喰わせない」

 静かな宣言。

 王冠も、玉座もない。

 だが――
 守ると決めた場所が、そこにある。

 その夜、
 ゴブリンの村は初めて、
 “選ばれて狙われた”。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

Fランク少年のSランク成長記 ~ノヴァリアの試練~

塩塚 和人
ファンタジー
現代から異世界アストラリオに召喚された15歳の少年、川谷ゆうじ。 攻撃や防御には向かない「転移」と「変換」という特殊スキルを持つが、 その力は戦略と仲間との連携で真価を発揮する。 国外追放から始まった冒険者としての生活―― FランクからSランクを目指し、仲間とともに強敵と戦い、ライバルとの因縁も深まる。 そして新章では、魔導転送門を通じて未知の異世界『ノヴァリア』へと旅立つ。 光と影が交錯する大地、空を舞う未知の生物、そして新たな魔獣たち。 少年は再び仲間たちと力を合わせ、未知の冒険に挑む―― 成長、友情、戦術、そして因縁。 すべてを賭けて彼は新世界の試練に立ち向かう、 異世界転生×戦術バトルの王道ファンタジー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...