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第2章 境界の外側
エピソード7 夜を喰らう王
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夜は、完全に村を包み込んでいた。
焚き火の光が揺れ、
柵の外では、草を踏み潰す音が増えていく。
ヴァルガ=ルゥの群れは、もう隠そうともしていなかった。
「配置につけ」
俺の一言で、ゴブリンたちが動く。
戦士は柵の内側へ。
若い者と子供は中央へ。
恐怖はある。
だが、逃げ出す者はいない。
――決まりが、彼らを繋ぎ止めていた。
闇の中から、ヴァルガが一歩踏み出す。
月明かりを受け、
巨大な体躯と黒い毛並みが浮かび上がった。
「最後に聞く」
低く、だがはっきりとした声。
「貴様は、何を目指す?」
俺は、影を人型に保ったまま答える。
「選べる場所だ」
「弱者の幻想だ」
「違う」
一歩、前へ。
「続くかどうかの話だ」
ヴァルガは、短く笑った。
「なら――試してやろう」
その瞬間、
魔獣たちが一斉に動いた。
⸻
柵に衝突する影。
「《影結界》!」
俺の影が広がり、
即席の防壁を形成する。
ゴブリンたちが、罠を起動。
落とし穴。
横薙ぎの丸太。
連携は、まだ粗い。
だが――機能している。
魔獣の一体が柵を飛び越えた。
牙が閃く。
俺は、その前に立った。
「《影態変化》」
影が膨張し、
獣の輪郭を持つ。
爪と爪がぶつかり、
衝撃が地面を揺らす。
「……強くなったな」
ヴァルガの声が、背後から聞こえた。
次の瞬間、
背中に衝撃。
吹き飛ばされ、地面を滑る。
(……直撃なら、危なかったな)
俺は立ち上がり、
影を深く、深く沈める。
「《耐熱影装》――展開」
影が装甲のように纏わりつく。
ヴァルガが、正面から突進してきた。
速い。
重い。
そして――迷いがない。
俺は、真正面から迎え撃った。
影と牙が噛み合い、
互いに弾き合う。
「なぜ、守る?」
殴り合いの中、ヴァルガが問いかける。
「喰えばいい。
支配すればいい」
「それは――」
俺は、影を腕へ集中させる。
「終わるやり方だ」
「戯言!」
ヴァルガの爪が、俺の肩を裂く。
だが――止まらない。
「《影縛・多重》!」
地面から影が噴き上がり、
ヴァルガの四肢を絡め取る。
それでも、引き千切ろうとする。
強い。
だからこそ――
「……悪くない」
俺は、静かに告げた。
「お前は、俺に足りないものを持っている」
影が、ヴァルガの身体を包み込む。
「――《捕食》」
抗う意思。
怒り。
誇り。
全てが、影の中へ沈んでいく。
ヴァルガは、最後まで視線を逸らさなかった。
「……続くなら」
声が、溶ける。
「それも……悪くない……」
闇が、収束した。
【意思ある魔獣を取り込みました】
【個体名:ヴァルガ=ルゥ】
【レベルが大幅に上昇しました】
【新特性《群統率》《威圧》《夜戦適応》を獲得】
残った魔獣たちは、
主を失った瞬間、動きを止めた。
やがて、森の奥へと消えていく。
夜は、静かに終わった。
⸻
朝。
村に、大きな被害はなかった。
ゴブリンたちは、疲れ切りながらも立っている。
グルクが、俺の前に立ち、深く頭を下げた。
「……王」
その一言で、誰も異を唱えなかった。
俺は、影を静める。
「守れたのは、俺だけじゃない」
そう言って、村を見渡す。
「続いたのは、皆が選んだからだ」
王冠はない。
だが――王は、そこにいた。
⸻
一方、森の外。
アルトたちは、無事だった。
「……遠くで、光が見えたな」
「村の方角……」
ミリアが、胸に手を当てる。
「でも……戻らない」
フェンが、はっきりと言った。
「今は、まだ」
アルトは、頷く。
「村のことは、誰にも言わない」
それが、彼らなりの選択だった。
「俺たちが強くなってから、だ」
三人は、歩き出す。
影の王が守る村を、
誰にも知られないままにするために。
そして、森の奥では――
新たな国が、静かに息づいていた。
焚き火の光が揺れ、
柵の外では、草を踏み潰す音が増えていく。
ヴァルガ=ルゥの群れは、もう隠そうともしていなかった。
「配置につけ」
俺の一言で、ゴブリンたちが動く。
戦士は柵の内側へ。
若い者と子供は中央へ。
恐怖はある。
だが、逃げ出す者はいない。
――決まりが、彼らを繋ぎ止めていた。
闇の中から、ヴァルガが一歩踏み出す。
月明かりを受け、
巨大な体躯と黒い毛並みが浮かび上がった。
「最後に聞く」
低く、だがはっきりとした声。
「貴様は、何を目指す?」
俺は、影を人型に保ったまま答える。
「選べる場所だ」
「弱者の幻想だ」
「違う」
一歩、前へ。
「続くかどうかの話だ」
ヴァルガは、短く笑った。
「なら――試してやろう」
その瞬間、
魔獣たちが一斉に動いた。
⸻
柵に衝突する影。
「《影結界》!」
俺の影が広がり、
即席の防壁を形成する。
ゴブリンたちが、罠を起動。
落とし穴。
横薙ぎの丸太。
連携は、まだ粗い。
だが――機能している。
魔獣の一体が柵を飛び越えた。
牙が閃く。
俺は、その前に立った。
「《影態変化》」
影が膨張し、
獣の輪郭を持つ。
爪と爪がぶつかり、
衝撃が地面を揺らす。
「……強くなったな」
ヴァルガの声が、背後から聞こえた。
次の瞬間、
背中に衝撃。
吹き飛ばされ、地面を滑る。
(……直撃なら、危なかったな)
俺は立ち上がり、
影を深く、深く沈める。
「《耐熱影装》――展開」
影が装甲のように纏わりつく。
ヴァルガが、正面から突進してきた。
速い。
重い。
そして――迷いがない。
俺は、真正面から迎え撃った。
影と牙が噛み合い、
互いに弾き合う。
「なぜ、守る?」
殴り合いの中、ヴァルガが問いかける。
「喰えばいい。
支配すればいい」
「それは――」
俺は、影を腕へ集中させる。
「終わるやり方だ」
「戯言!」
ヴァルガの爪が、俺の肩を裂く。
だが――止まらない。
「《影縛・多重》!」
地面から影が噴き上がり、
ヴァルガの四肢を絡め取る。
それでも、引き千切ろうとする。
強い。
だからこそ――
「……悪くない」
俺は、静かに告げた。
「お前は、俺に足りないものを持っている」
影が、ヴァルガの身体を包み込む。
「――《捕食》」
抗う意思。
怒り。
誇り。
全てが、影の中へ沈んでいく。
ヴァルガは、最後まで視線を逸らさなかった。
「……続くなら」
声が、溶ける。
「それも……悪くない……」
闇が、収束した。
【意思ある魔獣を取り込みました】
【個体名:ヴァルガ=ルゥ】
【レベルが大幅に上昇しました】
【新特性《群統率》《威圧》《夜戦適応》を獲得】
残った魔獣たちは、
主を失った瞬間、動きを止めた。
やがて、森の奥へと消えていく。
夜は、静かに終わった。
⸻
朝。
村に、大きな被害はなかった。
ゴブリンたちは、疲れ切りながらも立っている。
グルクが、俺の前に立ち、深く頭を下げた。
「……王」
その一言で、誰も異を唱えなかった。
俺は、影を静める。
「守れたのは、俺だけじゃない」
そう言って、村を見渡す。
「続いたのは、皆が選んだからだ」
王冠はない。
だが――王は、そこにいた。
⸻
一方、森の外。
アルトたちは、無事だった。
「……遠くで、光が見えたな」
「村の方角……」
ミリアが、胸に手を当てる。
「でも……戻らない」
フェンが、はっきりと言った。
「今は、まだ」
アルトは、頷く。
「村のことは、誰にも言わない」
それが、彼らなりの選択だった。
「俺たちが強くなってから、だ」
三人は、歩き出す。
影の王が守る村を、
誰にも知られないままにするために。
そして、森の奥では――
新たな国が、静かに息づいていた。
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