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第2章 境界の外側
エピソード8 鉄と影が出会う時
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朝の村に、いつもとは違う音が響いた。
――金属が、地面を叩く音。
ゴブリンたちがざわつく中、
柵の外に現れたのは、背の低い集団だった。
頑丈そうな体躯。
分厚い革鎧。
背負った荷袋からは、鉄と油の匂いが漂ってくる。
「……人間じゃないな」
グルクが、低く呟く。
先頭に立つ一人が、ずかずかと前に出た。
赤褐色の髭を三つ編みにし、
片眼にゴーグルをかけた男。
「ここが噂の村か?」
その声は、低く、太い。
「ゴブリンと人間と、
それから――影の王がいるって話の」
俺は、影を人型に整え、前に出た。
「用件を聞こう」
男は、俺を見上げ、にやりと笑った。
「ドワーフだ」
短く名乗る。
「名はバルドゥン。
訳あって、地上を追い出されてな」
背後の仲間たちも、無言で頷く。
「俺たちは、武器を作る。
壊すより、作る方が性に合う種族だ」
ドワーフ。
鉱石と鍛冶の民。
人間の国では重宝される一方で、
同時に疎まれる存在。
「ここには、変な決まりがあると聞いた」
バルドゥンは、村を見渡す。
「殺しすぎない。
働いた分は、食える。
話を聞く」
……情報が、外に漏れ始めている。
「本当か?」
「ああ」
俺は、即答した。
「なら――」
バルドゥンは、地面に大きな木箱を下ろした。
中から現れたのは、
刃の形も持たない、奇妙な金属の塊。
「武器を作らせろ」
村が、静まり返る。
「鉄は、戦いを呼ぶ」
グルクが言う。
「知ってる」
バルドゥンは、即答した。
「だが、鉄がなけりゃ、
戦いはもっと酷くなる」
俺は、少し考えた後、頷いた。
「条件がある」
「ほう?」
「武器は、“守るため”に作る。
誰かを誇示するためじゃない」
バルドゥンは、一瞬黙り、
やがて豪快に笑った。
「上等だ!」
⸻
鍛冶場は、すぐに作られた。
ドワーフの手際は、見事だった。
ゴブリンの粗末な槍は、
折れにくく、刺さりやすく変わる。
刃は短く、
扱いやすい。
「力が弱いなら、
形で補えばいい」
バルドゥンは、そう言って火を叩く。
俺は、影を使って金属を冷やし、
歪みを修正する。
「……影で鍛冶を補助する王、か」
ドワーフたちが、目を丸くした。
「悪くない」
数日後。
村の武器は、明らかに変わっていた。
見た目は質素。
だが、続く武器だ。
(……これで、村は一段階上に行った)
力ではなく、仕組みで。
⸻
王国側
――国境監視塔にて
「報告します」
伝令が、膝をついた。
「森の奥――
未登録集落を確認」
地図の上に、印が打たれる。
「ゴブリン主体。
人間の反応、なし」
「……だが」
伝令は、言葉を続ける。
「武器の質が、異常に高い」
会議室が、ざわめく。
「ドワーフの痕跡も、確認」
沈黙。
やがて、王国の宰相が口を開いた。
「村、ではないな」
誰かが、唾を飲み込む。
「……勢力だ」
王が、短く告げる。
「記録に残せ。
名は――」
一瞬の間。
「影の村」
地図に、新たな名が刻まれた。
それは、
敵でも、味方でもない。
だが確実に、
無視できない存在として。
――金属が、地面を叩く音。
ゴブリンたちがざわつく中、
柵の外に現れたのは、背の低い集団だった。
頑丈そうな体躯。
分厚い革鎧。
背負った荷袋からは、鉄と油の匂いが漂ってくる。
「……人間じゃないな」
グルクが、低く呟く。
先頭に立つ一人が、ずかずかと前に出た。
赤褐色の髭を三つ編みにし、
片眼にゴーグルをかけた男。
「ここが噂の村か?」
その声は、低く、太い。
「ゴブリンと人間と、
それから――影の王がいるって話の」
俺は、影を人型に整え、前に出た。
「用件を聞こう」
男は、俺を見上げ、にやりと笑った。
「ドワーフだ」
短く名乗る。
「名はバルドゥン。
訳あって、地上を追い出されてな」
背後の仲間たちも、無言で頷く。
「俺たちは、武器を作る。
壊すより、作る方が性に合う種族だ」
ドワーフ。
鉱石と鍛冶の民。
人間の国では重宝される一方で、
同時に疎まれる存在。
「ここには、変な決まりがあると聞いた」
バルドゥンは、村を見渡す。
「殺しすぎない。
働いた分は、食える。
話を聞く」
……情報が、外に漏れ始めている。
「本当か?」
「ああ」
俺は、即答した。
「なら――」
バルドゥンは、地面に大きな木箱を下ろした。
中から現れたのは、
刃の形も持たない、奇妙な金属の塊。
「武器を作らせろ」
村が、静まり返る。
「鉄は、戦いを呼ぶ」
グルクが言う。
「知ってる」
バルドゥンは、即答した。
「だが、鉄がなけりゃ、
戦いはもっと酷くなる」
俺は、少し考えた後、頷いた。
「条件がある」
「ほう?」
「武器は、“守るため”に作る。
誰かを誇示するためじゃない」
バルドゥンは、一瞬黙り、
やがて豪快に笑った。
「上等だ!」
⸻
鍛冶場は、すぐに作られた。
ドワーフの手際は、見事だった。
ゴブリンの粗末な槍は、
折れにくく、刺さりやすく変わる。
刃は短く、
扱いやすい。
「力が弱いなら、
形で補えばいい」
バルドゥンは、そう言って火を叩く。
俺は、影を使って金属を冷やし、
歪みを修正する。
「……影で鍛冶を補助する王、か」
ドワーフたちが、目を丸くした。
「悪くない」
数日後。
村の武器は、明らかに変わっていた。
見た目は質素。
だが、続く武器だ。
(……これで、村は一段階上に行った)
力ではなく、仕組みで。
⸻
王国側
――国境監視塔にて
「報告します」
伝令が、膝をついた。
「森の奥――
未登録集落を確認」
地図の上に、印が打たれる。
「ゴブリン主体。
人間の反応、なし」
「……だが」
伝令は、言葉を続ける。
「武器の質が、異常に高い」
会議室が、ざわめく。
「ドワーフの痕跡も、確認」
沈黙。
やがて、王国の宰相が口を開いた。
「村、ではないな」
誰かが、唾を飲み込む。
「……勢力だ」
王が、短く告げる。
「記録に残せ。
名は――」
一瞬の間。
「影の村」
地図に、新たな名が刻まれた。
それは、
敵でも、味方でもない。
だが確実に、
無視できない存在として。
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