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もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな

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「……タンを押しやがったのか!」

 この感覚はギリウスに渡した時計魔道具マジッククロックに仕込んでいた緊急用の転移魔法テレポーターが発動したのだと気がついた時にはもう遅かった。

 俺は突然目の前に現れ大口を開け、今にもブレスを吐きそうなブルードラゴンに向け思いっきり氷魔法ブレシングフリーズを放った。
 力加減を誤ったせいでブルードラゴンは完全に氷漬けになってしまったが、解凍すれば素材は取れるだろう。

 俺はそんなことを考えながら周囲の様子をうかがう。
 ギリウスが呼び出したのならここは町の中だろう。
 だけどこの目の前に居るブルードラゴンと瓦礫の山はなんなんだ。

「うっ」

 背後から聞こえたその声に振り返ると、瓦礫の下でギリウスが、俺の渡した時計魔道具マジッククロックのボタンを押した格好で倒れていた。
 やはり犯人はこいつだったか。
 だが、この惨状は一体……。

 俺は瓦礫の上から慎重に下りながらギリウスに声を掛けた。

「おいギリウス、なんだこれは。一体どうなってんだ」

 その声が聞こえたのだろう、ギリウスはゆっくりと身を起すと俺の方に体を捻るように向けた。
 振り向いたギリウスは、顔も体も傷だらけで、左手は人体の神秘といえるくらいあり得ない方向に曲がっているではないか。

「なんだよお前、怪我してるじゃ無いか。痛そうだな」

 急いで瓦礫の山を駆け下り、ギリウスの側に駆け寄る。
 かなりの痛みのはずだが、その顔は間抜けな表情を浮かべていて。

「どうした? 頭でも打ったのか? 俺の回復魔法ヒーリングで治るかな」

 とりあえず俺は瞬きもせず俺を見つめ続けているギリウスに回復魔法ヒーリングを掛けてやった。

「ユーリス……お前なのか?」
「別人に見えるか?」
「いや、日焼けしてるからさ」
「手紙で言っておいただろ。今、港町でシーハンターやってるってさ」

 俺は全身の怪我が完治しているはずのギリウスの手を引いて立たせると彼から話を聞くことにした。
 が、突然ギリウスの後ろから誰かが飛びついてきたのだ。

「ああっ、ギリウスっ。良かったっ」

 それはギリウスの恋人で、俺も世話になったフェリスだった。
 手紙で熱々ラブラブのバカップルぶりを読まされていたが、やはりあれは嘘では無かったらしい。

 俺はてっきりヘタレたギリウスが今でも告白できずに嘘をついていたのだと疑ってたのだが。
 正直、すまんかった。
 そう心の中でわびていると、フェリスが今度は俺の手を握ってくるではないか。

 おいおい浮気はいけないよ。
 な訳はない。

「ユーリス! ギリウスを、みんなを助けてくれてありがとう!! 本当にアンタ強かったんだね」
「いや、それなんだが。今この町が一体どうなってるのか教えて欲しいんだけど」

 俺は手のひらから伝わってくる柔らかい感触にドギマギしつつ二人から話を聞いた。
 そして今この町が陥っている事態を聞いて眉をひそめる。

「スタンピードか。もしかしたら今年になってザコ狩りの時に邪魔が入ることが多かったのもその前兆だったのか」

 多分シショウの群れを襲ったグリフォンもそうだったのだろう。

「あれ?」

 俺はそこでハッと気がついて周りを見回す。

「どうした?」
「いや、俺と一緒にコボル……犬が転移してこなかったか?」
「お前一人だけだと思うが。お前、犬とか飼うようになったのか」
「一人暮らしの人ってペットを飼うって良く聞くもんね」

 どうやら俺と一緒に転送されたはずのシショウは何処か別の所に転移してしまったようだ。
 そう遠くに離れるとは思えないが、早く探してやらないととこかで泣いてるかも知れない。

「状況はわかった。だが俺は今から犬を探さないといけないんだ」
「そうなのか?」
「ああ、だから手っ取り早く済ませるぞ」
「?」
「ユーリス、手っ取り早くって何をなの?」
「もちろん、このスタンピードを終わらせるってことだよ」

 そう告げると俺は収納魔道具マジックバッグから魔石の付いた魔法の杖マジックワンドを取り出した。
 この魔法の杖マジックワンドは魔法の力を増幅させることが出来るが、普段は使うことは無い。
 だが、今からやろうとすることには必要だろうと久々に取り出したのである。

「ユーリスが魔法の杖マジックワンドを使う所なんて初めて見るな。というかそんなの持ってたのかよ」
「俺は一応魔法使いだからな。それに町中とかで一々持って歩くわけないだろ」
「そりゃそうだけど」

 俺は魔法の杖マジックワンドを眼前に掲げると意識を集中させる。
 範囲はこの町全体。
 対象は全ての人々。

「いくぞ! 広範囲回復魔法エリアヒーリング!!」

 俺の放った魔法が魔法の杖マジックワンドの魔石に流れ込み、そして放たれた。
 淡い緑の光が町全体を包み込んでいくのを見て、俺は次に収納魔道具マジックバッグから大量の回復ポーションを取り出す。
 この回復ポーションは俺の特製で、体力だけで無く魔力もある程度は回復できる。

「二人とも、この回復ポーションをみんなに配ってくれ」
「こんなに大量に……いいのか?」
「どうせ俺は滅多に使わないし、暇つぶしに作ってたらこんなに溜まってどうしようかと思ってたくらいだ」
「暇つぶしって……」

 次に収納魔道具マジックバッグから取り出したのは五十セットくらいはあるだろう武器防具だ。
 これも練習を兼ねて俺が鍛冶で作ったものだ。
 だが、魔法使いである俺は着ることもなく死蔵されていた。
 多分そこらの鍛冶師が造るものよりはよいものだと自負しているが、実際に使って貰ったことは無いのでわからない。

「せっかくだからこれも兵士やハンターに配ってやってくれ」
「お、おぅ……」
「あ、あとでちゃんと着け心地とか切れ味とか聞いといてくれよ」
「え? なんで?」
「使った人の感想聞かなきゃ改良できないだろ? 俺は人から話聞くとか苦手だからさ」

 何故だか微妙な表情で頷くギリウス。
 俺、何かおかしなこと言っただろうか。

「なんつーかさ。お前、俺が思ってたより滅茶苦茶だな」
「どういう意味だよ」
「いや、ブルードラゴンを一瞬で倒したかと思ったら、町中のけが人も治して、しかも武器や薬までこんなに作っててさ」

 ギリウスは何故か呆れたような顔をして。

「もう俺たちなんて必要なくて、全部お前一人でいいんじゃないかなって思っちまうくらい凄ぇよ」

 と笑った。

「何を言ってるんだ。俺が今ここに居るのはお前があのボタンを押して俺を呼んだからだろ?」
「は?」
「いや、俺だって遠く離れたこの町で何が起こってるかとかはわからないからさ。お前が呼んでくれなきゃ今頃は釣り上げたばかりの魚でパーティしてたはずなんだぜ」
「魚パーティって……」
「だから、俺一人じゃなくてお前だって必要だってことだ。もちろん俺が来るまでこの町を守った人たちもだ」

 まぁいい。
 これで俺がスタンピードの元凶を潰しに行く間、町の守りはなんとかなるだろう。
 それに【青竜の鱗】のこともシショウのこともある。
 あまりゆっくりはしていられない。

 ガラッ。

 その時、背後から何かが崩れる音がした。
 多分あの山積みのガラクタが崩れてきたのだろう。

『ゴ、ゴシュ……ジン』

 だがその瓦礫の音に紛れてに、聞き慣れた声が続いて聞こえたような気がして、俺は振り返った。
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