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幸せの等分
結婚式 カグヤ前編
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『タタラッ!!
こちらに! ほら、早く早く!!』
『待ってよーカグヤー。エルフの里が冬だからって重装備にされたから動き難くてさー』
『では。僭越ながら私が運びましょう!』
真っ白な雪が、嫌いでした。
『わっ?! ちょ、カグヤってばこんな雪なのに身軽すぎ…! わーっ!! 走るなーっ!
は、走んないでよ怖ぁっ!!』
寒い冬は、嫌いでした。
『ははははははっ!』
『このエルフ楽しんでやがるー!!』
今も嫌いなこの景色は十年前、五十年前。百年以上前から変わらず面白みもない永遠の深い森と変わらぬ自然と、季節。
エルフの里は魔力が満ちると雪が降る。
特別、子どもとの関わりを持たない私の親はすぐに私を手放した。里を見付けて暫く居座っていたので里の者は私をよく知っている。
長よりも長命で若い姿を保った私はエルフの中でも更に特異な存在だった。
『長!! 我々が戯れている間に、とっとと書類を書いておいて下さい?』
『戯れてる?! これ明らかに付き合わされてるって表現の間違いだろ!!』
タタラとの結婚式を終えたのは、つい先程のこと。結婚式と言ってもエルフの里に案内することは出来ないので形だけのものを神殿で行いタタラの身内に承認させると次は本番。
エルフはその存在が悪用されないよう結婚の際には、こうしてエルフの里にいる長に許可を得た証拠として判を貰う。そうしてやっとエルフは他種族との結婚を許される。
タタラと雪の中に倒れ込むと一際高い彼の悲鳴が雪原に響く。それを聞いた腰を曲げた初老のエルフはやれやれと空を仰いでから宙に浮かべた書類に判子を捺す。
『…まさか里一番の問題エルフが貰われる日が来るとは。世の中はわからないものですなぁ』
【今すぐ返品してェけどな】
苦笑いをしながら尖った耳を触る長は、書類をリィブルーへと渡す。タタラの保護者枠としてロロクロウムとリィブルーが同意して契約は終了。
真っ青な、目が覚めるような衣装に身を包んで私の瞳と同じ色をした耳飾りをするタタラを抱き上げて出て来た私とタタラに保護者たちが手を振る。
真っ白なふかふかの羽織を落とさないよう肩に掛け直してから多少髪についた雪を落として差し上げてから里を見通す。
『…綺麗な里だ。こんな神秘的な世界から大事なエルフ様を攫っちゃうなんて、オレって悪者みたい?』
『迎えに来てくれた可愛い伴侶の間違いでは?』
私の家族。
ああ、なんて甘美で…素晴らしい響き。
『考えたんです。以前、子どもが何人ほしいかと聞いてくれたでしょう?』
いくら時を重ねたとは言え私も結婚の契りはこれが初。正解などわからず、タタラと共に寄り添ってゆっくりと歩む他ない。
『…先ずは一人目を大切にしたい。産まれる子は、恐らくアスターに順応すべくハーフエルフとして生を受けるはず。血が半分とはいえ、エルフはエルフ。私のように子どもも繋がりを求める性質を受け継ぐとは限らない。
安心して下さい…、一人目が巣立ってしまっても永遠の別れではないので』
でも、本当は少し怖いのも事実。
タタラを持ち上げたまま雪の中を踏み出せば、彼もまた私にしっかりと掴まってくれる。その確かな温もりが嬉しくて、手を回す。
子どもに一切関心がなかった親と、繋がりを求め続けた子。どちらの血が色濃く出るかも不明。
『…一人くらいは私たちと少しは長くいてくれるでしょうか…エルフの、人間でいう成人は十歳なんですよ』
『じゅ、十歳?! さ…さすが、早熟と名高いエルフだな…』
そうです。早く大人になるからこそ、別れもあっという間にやって来る…タタラがいるから寂しくはありませんが、産む側である一の親であるタタラには寂しい思いをさせてしまう。
『最初の別れが永遠という可能性すらあります。なのですぐに子どもが巣立つという経験をさせてしまうかもしれません。
…ごめんなさい』
『馬鹿。今日は幸せな日なんだから、笑っておけ。例え子どもが巣立つのが早くても強くて逞しい子にして送り出そう? オレたちの子なんだから…きっと強くて、無敵な子になるって!』
互いの耳飾りが揺れる。
…そう、です。きっと魔法に愛された素晴らしい子に育つはず。
『…産まれたら少し小さい耳飾りを贈って、みんなでお揃いにしましょう…』
『それは良い! 離れていても家族だっていう大切な証だ。それを見たら思わず里帰りしたくなるかもしれないし!』
折角の結婚式なのに暗いことを言ってしまったのに、タタラは前向きな言葉で私を励ましてくれた。その優しさが何より嬉しくて小さな胸に顔を埋めると彼も仕方ないといったようにギュッと抱きしめてくれる。
『ほらほら。元気出して? そ、それにほら…万が一、子どもがすぐに旅立ってもさ…
オレっ、オレのこと! また独占できるし、げんきだせっ!?』
言った直後に顔に落ちた雪が一瞬で溶けるような熱い顔を晒す…世界一の伴侶に思わず歯を食いしばる。そのまま首元に口を移動して無防備な首を甘噛みすると可愛らしい悲鳴が出た。
困った。
困りました。
この歳で、まだ成長できる気がする。まだまだ…この可愛らしい伴侶を護るために私は強くなれる。何者にも害されず、生涯大切に…大切にするのだと心が、痛いくらい早鐘を打つ。
『そうでしたね…、未来のことはまだわかりません。だから私は今のタタラを力の限り独占して離さないことにしましょう!!』
『ん゛?! ま、待てっちょっとは手加減しろ…! すぐに引っ付くなバカやろ、ぁっ…!? そっ外だぞ発情期ぃ!!』
『えー? 寂しがり屋さんなので、たくさんキスをしたいんですがねぇ』
『かっ可愛い顔で言ってもダメだ!
あ、ちょ…そんなイケメンのまま近付いたらダメだって、ちょっ待っ…!!』
では。
積極的な伴侶には、この世界の子作りについて教えて差し上げなくては!!
.
こちらに! ほら、早く早く!!』
『待ってよーカグヤー。エルフの里が冬だからって重装備にされたから動き難くてさー』
『では。僭越ながら私が運びましょう!』
真っ白な雪が、嫌いでした。
『わっ?! ちょ、カグヤってばこんな雪なのに身軽すぎ…! わーっ!! 走るなーっ!
は、走んないでよ怖ぁっ!!』
寒い冬は、嫌いでした。
『ははははははっ!』
『このエルフ楽しんでやがるー!!』
今も嫌いなこの景色は十年前、五十年前。百年以上前から変わらず面白みもない永遠の深い森と変わらぬ自然と、季節。
エルフの里は魔力が満ちると雪が降る。
特別、子どもとの関わりを持たない私の親はすぐに私を手放した。里を見付けて暫く居座っていたので里の者は私をよく知っている。
長よりも長命で若い姿を保った私はエルフの中でも更に特異な存在だった。
『長!! 我々が戯れている間に、とっとと書類を書いておいて下さい?』
『戯れてる?! これ明らかに付き合わされてるって表現の間違いだろ!!』
タタラとの結婚式を終えたのは、つい先程のこと。結婚式と言ってもエルフの里に案内することは出来ないので形だけのものを神殿で行いタタラの身内に承認させると次は本番。
エルフはその存在が悪用されないよう結婚の際には、こうしてエルフの里にいる長に許可を得た証拠として判を貰う。そうしてやっとエルフは他種族との結婚を許される。
タタラと雪の中に倒れ込むと一際高い彼の悲鳴が雪原に響く。それを聞いた腰を曲げた初老のエルフはやれやれと空を仰いでから宙に浮かべた書類に判子を捺す。
『…まさか里一番の問題エルフが貰われる日が来るとは。世の中はわからないものですなぁ』
【今すぐ返品してェけどな】
苦笑いをしながら尖った耳を触る長は、書類をリィブルーへと渡す。タタラの保護者枠としてロロクロウムとリィブルーが同意して契約は終了。
真っ青な、目が覚めるような衣装に身を包んで私の瞳と同じ色をした耳飾りをするタタラを抱き上げて出て来た私とタタラに保護者たちが手を振る。
真っ白なふかふかの羽織を落とさないよう肩に掛け直してから多少髪についた雪を落として差し上げてから里を見通す。
『…綺麗な里だ。こんな神秘的な世界から大事なエルフ様を攫っちゃうなんて、オレって悪者みたい?』
『迎えに来てくれた可愛い伴侶の間違いでは?』
私の家族。
ああ、なんて甘美で…素晴らしい響き。
『考えたんです。以前、子どもが何人ほしいかと聞いてくれたでしょう?』
いくら時を重ねたとは言え私も結婚の契りはこれが初。正解などわからず、タタラと共に寄り添ってゆっくりと歩む他ない。
『…先ずは一人目を大切にしたい。産まれる子は、恐らくアスターに順応すべくハーフエルフとして生を受けるはず。血が半分とはいえ、エルフはエルフ。私のように子どもも繋がりを求める性質を受け継ぐとは限らない。
安心して下さい…、一人目が巣立ってしまっても永遠の別れではないので』
でも、本当は少し怖いのも事実。
タタラを持ち上げたまま雪の中を踏み出せば、彼もまた私にしっかりと掴まってくれる。その確かな温もりが嬉しくて、手を回す。
子どもに一切関心がなかった親と、繋がりを求め続けた子。どちらの血が色濃く出るかも不明。
『…一人くらいは私たちと少しは長くいてくれるでしょうか…エルフの、人間でいう成人は十歳なんですよ』
『じゅ、十歳?! さ…さすが、早熟と名高いエルフだな…』
そうです。早く大人になるからこそ、別れもあっという間にやって来る…タタラがいるから寂しくはありませんが、産む側である一の親であるタタラには寂しい思いをさせてしまう。
『最初の別れが永遠という可能性すらあります。なのですぐに子どもが巣立つという経験をさせてしまうかもしれません。
…ごめんなさい』
『馬鹿。今日は幸せな日なんだから、笑っておけ。例え子どもが巣立つのが早くても強くて逞しい子にして送り出そう? オレたちの子なんだから…きっと強くて、無敵な子になるって!』
互いの耳飾りが揺れる。
…そう、です。きっと魔法に愛された素晴らしい子に育つはず。
『…産まれたら少し小さい耳飾りを贈って、みんなでお揃いにしましょう…』
『それは良い! 離れていても家族だっていう大切な証だ。それを見たら思わず里帰りしたくなるかもしれないし!』
折角の結婚式なのに暗いことを言ってしまったのに、タタラは前向きな言葉で私を励ましてくれた。その優しさが何より嬉しくて小さな胸に顔を埋めると彼も仕方ないといったようにギュッと抱きしめてくれる。
『ほらほら。元気出して? そ、それにほら…万が一、子どもがすぐに旅立ってもさ…
オレっ、オレのこと! また独占できるし、げんきだせっ!?』
言った直後に顔に落ちた雪が一瞬で溶けるような熱い顔を晒す…世界一の伴侶に思わず歯を食いしばる。そのまま首元に口を移動して無防備な首を甘噛みすると可愛らしい悲鳴が出た。
困った。
困りました。
この歳で、まだ成長できる気がする。まだまだ…この可愛らしい伴侶を護るために私は強くなれる。何者にも害されず、生涯大切に…大切にするのだと心が、痛いくらい早鐘を打つ。
『そうでしたね…、未来のことはまだわかりません。だから私は今のタタラを力の限り独占して離さないことにしましょう!!』
『ん゛?! ま、待てっちょっとは手加減しろ…! すぐに引っ付くなバカやろ、ぁっ…!? そっ外だぞ発情期ぃ!!』
『えー? 寂しがり屋さんなので、たくさんキスをしたいんですがねぇ』
『かっ可愛い顔で言ってもダメだ!
あ、ちょ…そんなイケメンのまま近付いたらダメだって、ちょっ待っ…!!』
では。
積極的な伴侶には、この世界の子作りについて教えて差し上げなくては!!
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