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人族と冒険とキングオーク

お手柄ラック

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 ただの子どもの言葉に、心が折れてしまった彼らをどうにかできるかはわからなかったけど上手くいったらしい。次々と立ち上がった彼らは出口までやって来て恐る恐るだが部屋を出た。

『こっちだよ! 一緒に来て!』

 タタタ、と駆け出したオレを追ってみんなが走り出す。怪我人はおぶったり、肩を貸したりして前だけを見て脱出を目指した。

『お花置いたの。ほら、こっち~』

 地面に無造作に置かれた小さな花。それを目印だと言って拾い上げていく。

 勿論これは別れたゴブリンたちが仕掛けたもの。こうすればオレが疑われる心配もないだろうという保険だ。

『あった。これで、最後』

 洞窟の先にある光。次々と歓声が上がるが、まだ油断するなとベテラン冒険者たちが注意する。なんだか久しぶりに感じる陽の光を浴び、そのまま森の中に身を潜めようと飛び込む。

『あの魔族ね、これ嫌いみたい。だからギルドまで、これ貸してあげるね』

 籠の中から取り出したのは白い花。中心が緑色のその花はミントのような匂いをさせる花で、事実鼻の良いゴブリンにとってこれは地味に嫌なのだ。

 次々に人間たちを屈ませ、頭に花を飾ってあげたり服の隙間に差し込んだりする。自分の頭にも一輪挿すと、すぐにこの場を離れようと隊列を組んで逃げ出した。

 女子ども、怪我人を真ん中に。まだ戦える冒険者は前後に。だけど誰よりも前を進むのはオレともう一人の無口な男。

『真ん中…、行く?』

 長い黒髪を一つに結んだ男は、怪我をしていた。黒髪に黒い服の黒尽くし。左目に古傷があるその人は左腕と背中を怪我しているようでかなり酷い血の匂いがする。

『問題ない』

 クールだ。スッと耳に入る低音に最小限の言葉…最高にクールなんだが…?

 暫く走り抜けると川辺に到着してそこで一休みすることに。追手もなく、やっと逃げ出せた実感を持てたのか次々に歓喜の声が上がった。

『ありがとう…! 隣街に行こうとしたら、急に襲われてもうダメかと!』

『クエスト中にヘマして捕まっちまって…。天の助けだよ、坊主ぅ~! ありがとよぉ! これでまた家族に逢えるってもんだ!』

『あうあう』

 これも小さき者の宿命か…。街娘から巨漢まで、あらゆる者によって揉みくちゃにされる。抱き付かれたり抱っこされたり、高い高いされたり…。

『まだ安心、ダメ! ギルドに帰るまでが、クエストだよっ?』

 ふんすっ、と言い切ってから…あ、これ別にクエストじゃないな…と気付くが誰もそこにはツッコまず何やらニヤニヤしながらこちらを眺めている。

 …変態さん御一行?

『もうっ!』

 一人静かに岩の上に腰掛けていた黒い人にしがみ付くと、彼には取っ付き難いのか誰も深追いはして来ない。今後のことを話したり、傷の具合を確かめ始める彼らに胸を撫で下ろしていると避難先になってくれた人をそっと見上げる。

『…?』

 寝ているのか、彼は目を閉じたまま動かない。座ったまま…しかも腕まで組んだ状態なのに。

 スゲェ寝方。疲れてたのかな?

 休ませてあげようとそっとしておくと、籠から取り出した果物や薬になる薬草を取り出す。果物は女性陣に渡してみんなに配ってくれと頼み、その辺の石を水で洗ってからゴリゴリと草を擦り潰す。

 擦り潰した草から出た汁が必要なのだ。汁が滴る草を清潔な布に置き、籠から取り出した水筒の水をかける。今日はまだ飲んでないから綺麗な水で助かる。

『かんせーい』

 効果が微妙な傷薬の出来上がり。これで切り傷なんかは対処できるが、効果は微々たるもの。悲しいかな最低限の道具で出来るのはこれくらいだ。なんたって回復薬は誰も持っていないし、勿論オレだってそんな高いモン持ってない!

『どーぞ。ちょっとみるよ?』

『いや、助かる。坊主は物知りだなぁ』

 いつも傷だらけなダイダラのため、少しでも早く傷を治したくて勉強した。本当は高品質な薬があれば早いんだけど…日々、微々たる稼ぎにしかならない小さなクエストばかりに挑むから仕方ない。

 それもこれも、オレを一人にさせられないからだ。ジゼとダイダラだけならもう少し難易度の高いクエストにも行ける。

 …だからこそ早く帰って安心させたい。きっと心配してるよなぁ。

『夜も歩き通せば街まで行けそうだ。もう少し頑張ろう』

 追手が来ることを恐れて早く出発しようということになり、また歩き出す。ゴブリンたちは追って来ないから安心してとも言えないから、我慢だ。

 そして再び、先頭を真っ黒な人と一緒に歩いてる。

『オレ、ラックっていうの。お兄ちゃんのお名前は聞いても良い?』

『…マキヤだ』

 マキヤ!

 名前を聞いてからマキヤは無口ながら走っているオレの体調を心配してくれたり、周囲の警戒を怠らないようにしてくれた。みんな疲れはあるがそれ以上に早く安心したい気持ちが強かったから頑張って走った。

 そうしていると無我夢中で走っていたせいか、暗かった辺りは少しずつ明るくなってきた。何度か休憩を挟みやっとの思いで街の近くへと辿り着く。

『帰って来たっ…! 私たち、帰れたんだ!』

『奇跡だ!! おーいっ、誰かー!!』

 騒ぎを聞き付けた門番たちによって保護されていく人々。銀色のタグをした身分証を見せていくようなので自分も用意しなければとペンダントと一緒につけた身分証を取り出していた。

 ずっと心配していたのか、数分後には囚われていた人の家族がすっ飛んできたり仲間たちが宿屋から大慌てで出て来る光景も見られる。誰もがお迎えが来たり、顔見知りに無事を喜ばれている中でオレは一人で辺りをキョロキョロ見渡していた。

 …いない。

 まだ、朝早いし…流石に気付かないよね。お家、ずっと離れてるし。

『家族が来ていないのか』

 マキヤだ。街に入らずオレと同じように一人で静観していた彼は、スッと隣に立った。

『…うん。でも、まだ朝だから。起こしたら可哀想だから一人で帰れるよ』

『そうか。…送ってやりたいが、ここまでだ。

 ラック。感謝する、勇気ある子よ』

 差し出された手を迷いなく握る。初めて少しだけ表情を崩して柔らかい雰囲気になった。きっと街に着いて安心したのだと嬉しくなれば、街からオレを呼ぶ声がする。

『ラック!! ラック、あなた無事なのー?!』

『フェーズぅ!』

 最初に会った受け付けさんと、フェーズさんが一緒になって走って来た。いつもピシッと固めた髪型が崩れるのも構わずフェーズさんは迷いなくオレの元まで来て膝が汚れるのも構わず地面につけてギュッと抱きしめてくれた。

『良かったわぁ!! あなたがゴブリンとデビルに攫われたって聞いた時は心臓が止まるかと思ったわよ! ちょっと大丈夫なの?! 怪我は?』

『ないよ。心配かけてごめんなさい』

 フェーズさんにそのまま抱っこされると、攫われていたみんなが花を持って集まっていた。

『坊や。これ、ありがとう! 折角だから買い取るわ。後でギルドからお金を受け取ってね』

『君が助けに来てくれて本当に助かったよ! 救いの神現る、とはこのことだ!』

『立派な冒険者じゃねーか! こりゃ将来有望だ、今からこれなら将来は魔王だって倒しちまうな! がはは!!』

 なんと特別手当が発生してしまった。お花を買い取ってもらえるとのことで目が¥マークになっていたがフェーズさんたちが唖然とした表情でオレを見る。

『ラ、ラックがみんなを助けてくれたの?』

『あい!』

 まぁ…、あの…魔族間での取引があったのですがそこは割愛させていただこうか。

『凄いじゃない! 魔族の集団から人質を解放して無事に連れ帰るなんて、中級レベルの中でも難易度の高いクエストよ?!

 最近攫われる人が続出して、緊急でクエストを発注するところだったのに…。お手柄よ!』

 …わお。

 日々、薬草やらアイテム拾いをする初心者クエストをするオレたちには想像を絶するレベルだ。

『ラックお手柄? 偉いー?』

『もお、超お手柄! 偉過ぎる! あ~にしても無事に帰って来てくれて良かったわよぉ!!』

『ふふふ。ただいま~』

 誰かが帰りを望んでくれていたなんて、こんなに嬉しいことはない。フェーズさんにしっかり抱き着くと辺りから拍手が鳴り響き、満たされた心を表すようにみんなで笑い合い生還を喜んだ。


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