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5.ひんやり抹茶ラテ
待ち合わせ
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駅の改札をくぐり、いつもとは違うホームで電車を待つ。
ここ数年、仕事終わりは寄り道することなく自宅に帰っていた。朝の時点では「買物でもしようかな」と思っていても、退勤するときにはとへとへとで気力が残っていないのだ。
ひとりで寄り道をすることすらしないのに、他人と待ち合わせをするなんて、まるで非日常のような感じがしてうきうきする。
初めて見る路線図を眺めていたら心が弾んだ。地下鉄を乗り継ぎ、郡司に指定された駅で降りる。
『北口』
メッセージを確認して、郡司のいう通り北口を目指した。
駅の通路を歩いていると、やたらおしゃれなフラワーショップが視界に入った。花というより、枝? のようなものや、観葉植物なのか、枯れ木なのか、よく分からない意識高い系の商品が並べられていた。値札を見ると桁を間違えているのでは? と思うくらい高かった。
フラワーショップの隣には、これまた値の張る洋菓子を扱う店があった。おいしそうな焼き菓子なのだけど、商品名は英語で羅列してあって、なんと読めばいいのかなんてもちろん分からない。一気に食べたい気持ちが失せた。
歩を進めると、落ち着いたカフェらしき店もあった。どうやらこだわりが強すぎるカフェらしい。カプチーノのうんちくのようなものがデカデカとおしゃれ文字で看板に書かれてある。お願いだからカフェではゆっくりさせて欲しいと思った。カプチーノくらい好きに飲ませて欲しい。
なんだか、すごく居心地が悪い。
「もしかしなくてもここ、高級住宅街だ……」
私はカフェのガラス張りになった部分で自分の姿を確認してみた。装いだけなら、ごく普通のOLに見える。
けれど髪型がマズい。仕事が終わったので、ついクセで例のぐるぐる巻きのお団子頭にしてしまったのだ。メイク直しもしていないので、なかなかにヤバい状態だった。
私は嫌な予感がして、スマートフォンを取り出した。ささっと郡司にメッセージを送る。
『今さらだけど、郡司くんって実家住み?』
家族にわんこを押し付けられた、と言っていたので、別々に住んでいるのだと思っていた。アパートでひとり暮らしをしている大学生だと決めてかかっていたのだけど、この駅周辺に学生向けのアパートはなさそうだ。
実家はちょっと、気を使う……。
そもそもアパートで犬は飼えないよね、と思いながらとぼとぼ歩き、北口を目指す。
郡司の返答次第では、あの高級菓子店で家族への手土産を調達することになる。筆記体のスペルが読めるだろうか。
げんなりしながら出口付近に到着すると、背後から郡司の声がした。
「ひとり暮らしだけど」
「え、ほんとに!?」
がばっと勢いよく振り返りながら郡司に問う。
「うん」
セーーーフ! 気遣いは必要ない。手土産もいらない。つまり筆記体のスペルなど知ったことではない。髪型だってこのままで良いし、メイク直しも不要だ。
「よかったーー!」
「何が?」
不思議そうにこちらを見る郡司を「こっちの話」と煙に巻く。
「いやぁ、それにしても嫌味な駅……じゃなくて、おしゃれなお店がたくさんある駅だね」
「そうか?」
特に思うところはない、と言う感じでいつものように気だるげな雰囲気を醸し出す。
郡司は、相変わらずのゆるっとTシャツと黒のパンツといういで立ちだった。きっちんすたっふのエプロンをしていないので、少しだけ雰囲気が違う。あのエプロンが激ダサだったことを改めて知った。
シンプルな格好なのに、おしゃれっぽさを感じるのは素材が良いからなのだろう。どこから見てもイケメンモデルだった。
駅構内の店だけではなく、周辺住人も似たような雰囲気のタイプが集まるのだろうか。横目で郡司をちらりと見ながら、そんなことを思った。
ここ数年、仕事終わりは寄り道することなく自宅に帰っていた。朝の時点では「買物でもしようかな」と思っていても、退勤するときにはとへとへとで気力が残っていないのだ。
ひとりで寄り道をすることすらしないのに、他人と待ち合わせをするなんて、まるで非日常のような感じがしてうきうきする。
初めて見る路線図を眺めていたら心が弾んだ。地下鉄を乗り継ぎ、郡司に指定された駅で降りる。
『北口』
メッセージを確認して、郡司のいう通り北口を目指した。
駅の通路を歩いていると、やたらおしゃれなフラワーショップが視界に入った。花というより、枝? のようなものや、観葉植物なのか、枯れ木なのか、よく分からない意識高い系の商品が並べられていた。値札を見ると桁を間違えているのでは? と思うくらい高かった。
フラワーショップの隣には、これまた値の張る洋菓子を扱う店があった。おいしそうな焼き菓子なのだけど、商品名は英語で羅列してあって、なんと読めばいいのかなんてもちろん分からない。一気に食べたい気持ちが失せた。
歩を進めると、落ち着いたカフェらしき店もあった。どうやらこだわりが強すぎるカフェらしい。カプチーノのうんちくのようなものがデカデカとおしゃれ文字で看板に書かれてある。お願いだからカフェではゆっくりさせて欲しいと思った。カプチーノくらい好きに飲ませて欲しい。
なんだか、すごく居心地が悪い。
「もしかしなくてもここ、高級住宅街だ……」
私はカフェのガラス張りになった部分で自分の姿を確認してみた。装いだけなら、ごく普通のOLに見える。
けれど髪型がマズい。仕事が終わったので、ついクセで例のぐるぐる巻きのお団子頭にしてしまったのだ。メイク直しもしていないので、なかなかにヤバい状態だった。
私は嫌な予感がして、スマートフォンを取り出した。ささっと郡司にメッセージを送る。
『今さらだけど、郡司くんって実家住み?』
家族にわんこを押し付けられた、と言っていたので、別々に住んでいるのだと思っていた。アパートでひとり暮らしをしている大学生だと決めてかかっていたのだけど、この駅周辺に学生向けのアパートはなさそうだ。
実家はちょっと、気を使う……。
そもそもアパートで犬は飼えないよね、と思いながらとぼとぼ歩き、北口を目指す。
郡司の返答次第では、あの高級菓子店で家族への手土産を調達することになる。筆記体のスペルが読めるだろうか。
げんなりしながら出口付近に到着すると、背後から郡司の声がした。
「ひとり暮らしだけど」
「え、ほんとに!?」
がばっと勢いよく振り返りながら郡司に問う。
「うん」
セーーーフ! 気遣いは必要ない。手土産もいらない。つまり筆記体のスペルなど知ったことではない。髪型だってこのままで良いし、メイク直しも不要だ。
「よかったーー!」
「何が?」
不思議そうにこちらを見る郡司を「こっちの話」と煙に巻く。
「いやぁ、それにしても嫌味な駅……じゃなくて、おしゃれなお店がたくさんある駅だね」
「そうか?」
特に思うところはない、と言う感じでいつものように気だるげな雰囲気を醸し出す。
郡司は、相変わらずのゆるっとTシャツと黒のパンツといういで立ちだった。きっちんすたっふのエプロンをしていないので、少しだけ雰囲気が違う。あのエプロンが激ダサだったことを改めて知った。
シンプルな格好なのに、おしゃれっぽさを感じるのは素材が良いからなのだろう。どこから見てもイケメンモデルだった。
駅構内の店だけではなく、周辺住人も似たような雰囲気のタイプが集まるのだろうか。横目で郡司をちらりと見ながら、そんなことを思った。
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