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第五章 光風の国ブリサルト

49.ミジャルーサ戦に向けて

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次の日、突如として消えたサラに国中は騒然となった

部屋の外の忙しなく駆ける従者の足音に起こされリュドリカはすぐにその状況を聞き出した
どこを探してもサラは見つからず、俺達は愕然とする

「な、何で急に居なくなってんだ!?ラシエル、お前昨日何かしでかしたんじゃ…」

「え?別に、特に何も。お節介を焼かれたので、丁重に断っただけです」

「絶対それが原因だろ!!」

俺は頭を抱えた
ミジャルーサ戦にはサラが仲間として絶対不可欠だ
洞窟に入ったすぐから毒の状態異常を起こすのを、サラの治癒魔法で防ぐことが出来るのに

でもTASプレイをする時なんかはサラと仲間にならずに回復飯のクイック装備で、毒で削られていく体力ゲージをギリギリで回復するのを繰り返し無理やりクリアさせ敵を倒したことによる毒の浄化で状態異常をリセットすることなんかも出来るが、そんな無謀な事をラシエルに頼める訳もない

「ど…どうしよう…このままだとミジャルーサを倒すのなんて…」

「リュドリカさん、とりあえずこの国を出ましょう。俺達が城の中に残っていては、矛先がこちらに向きます」

耳を澄ますと部屋の外から聞こえるのは、サラと共にいた俺達を疑う声だった。怒声がこちらに近付いてくるのが分かる

「あ…あぁそうだな…!あっ俺……ッ」

「?どうしました?」

「いや……何でもない」

城の抜け道を知っている。なんてついうっかり口を滑らせるところだった。とりあえずこんな状況じゃ探索もままならない。唯一城内に入れるこの時しか手に入らない貴重なお宝は泣く泣く諦めて、早くこの国から出た方が得策のようだ

「結構レアアイテムもあったのに…」

そうして、ラシエルの泊まった部屋から偶然抜け道を見つけた事を装い、比較的人通りの少ない道を選んで、俺達は慌てふためく国民を尻目にブリサルトを後にした。



「はぁ…最後衛兵に見つかるかと思って焦った…俺、やっぱ足遅いなぁ…」

「ドキドキしましたね。俺は楽しかったです」

国を抜けてすぐも、まだ門番が近くにいるので俺達は暫く女郎蜘蛛ミジャルーサが潜んでいる洞窟のある西へと向かった
すると、道端に何やら目を引くものが落ちている

「……?なんだあれ」

リュドリカは近付きそれに目を凝らす
見覚えのある形のソレは、ライダンの額にある筈の角だった

「!?な、なんでここにライダンの角が!?…いや、もう呼び角カムホーンになってる!?」

「それは…ヤツの亡骸ですか?」

「違うわ!おい!ライダン!聞こえるか!?」

俺は角の根本の空洞になっている部分に向けてそう叫ぶ
暫くするとすぐに聞き慣れた声が返ってきた

《おぉ、リュドリカよ。やはりお主ならば使い方も分かったか》

角からライダンの声が返ってくる
それにギョッとして驚いたのはラシエルだった。しかし説明している暇はないのでそのまま会話を続ける

「何で角が取れて…!ていうか今どこにいるんだよ!?無事なのか!?」

《我は無事だ。サラと共におる。悪いが我らは一度カンナルへ向かうぞ》

「えっ!サラが!?何で一緒に……サラも聞こえているのか!?」

『…………。ええ』

「サラ!?何で急に居なくなるんだよ!?お前がいないとミジャルーサに立ち向かえないだろ!?」

『…はぁ、そうやって私を陥れようとしているのでしょう。無駄です、貴方の陰謀は分かっているのですから』

「な、何の話だ?……ッッ!」

リュドリカは、今更ながらに漸く気付く
自身がこのゲームの悪役になっていることを。
王都カタルアローズを占拠する際に、魔王の横にいた筈のリュドリカの姿を、王族であるサラが見ていない訳がない
どうしてそんなことに気付かなかったんだろう。完全に迂闊だった

「……あ……それは……」

言葉がどもる
隣で聞くラシエルに勘付かれないか気が気でない
慌てふためきながらも弁解した

「ご……誤解だ…俺は本当にミジャルーサを救おうと……」

『どうだか。もし本当にそうだと言うのならば、昨夜渡したトリケシのアメを使いなさい』

「…アメ?あ、昨日の…」

リュドリカは自身の懐に仕舞ってある麻布に包まれた小包を取り出す

『はい。数は全部で十個あります。私の治癒の力が宿っているので、矢の先に装填して打ち込めば同等の効果は期待できます』

「そ……そうなのか……」

《ワッハッハ!健闘を祈るぞ!それと、次回から我を呼ぶ時はしっかり20ルータを頂くからな!もうお前らの為に馬車馬になるのは懲り懲りだ!ではさらば!》

「ちょ!?別にそんなつもりは…!」

リュドリカが叫んでも、その後に返事が返ってくることはなかった
俺は呆然と立ち尽くす

「一体何がどうなって……いや。まあ、いい。解決策は出たんだ」

ラシエルは至極どうでも良さそうに、ミジャルーサの瘴気によって枯れた木々花々をぼうっと見ていた

「終わりましたか?早く女郎蜘蛛を倒しに行きましょう」

「そう、だな。うん、そうしよう」


サラはライダンと共にいるのが分かった事は良かった。
二人とも無事だというのは良いことだが、何だか無性に腑に落ちない
俺達はとりあえず女郎蜘蛛ミジャルーサのいる所へ向かうことにした
そしてその後にある重大な事に気づき、また一苦労することになる




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