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第五章 光風の国ブリサルト
53.最初の違和感
しおりを挟む「うーん?……痛っ」
あれから疲れていたのかラシエルは眠りについてしまい、俺達は暫く洞窟内に留まった
浄化された洞窟内部はかなり冷え込むので、風邪を引かないように野営で使う火起こしセットを取り出して火を焚こうと試みるが、なかなか上手く火が回らずかれこれ三十分以上も奮闘している
いつもラシエルに任せっぱなしでやり方とか見てなかったなぁ…
こんなに難しいのか、手も痛くなってきた
悪戦苦闘しながら、ふとラシエルに目を向ける
先程まで良くなっていた顔色が、また少し青褪めている気がした
唇も少し紫がかって、なんだか寒そうに見える
「ラシエル……?うわ、冷た!」
頬に触れると、身体が冷え切っていた
火を焚くのに夢中になって気が付かなかったが、ラシエルは先の戦闘の毒の影響で大量の汗をかいていたようで、それが冷えて全身が冷たくなっていた
「ご、ごめっ気づかなくて……どうしよう…服、脱がせた方がいい…のか?」
これだけやっても火が付く気配もないし、それなら……
よく漫画で見かけるような、お互いの体温で暖め合う、的な……。
冷たい場所の筈なのに、自身の身体はみるみる上気していく
「………。」
いや、これは、ラシエルの為だし。別に、やましいことなんて
俺は、着ている上着をぎこちなく脱ぎ捨て、ラシエルの服の裾を掴んだ
ごくりと喉を鳴らして、ゆっくりと捲り上げる
「………ん、」
「あっ、ラシエル!?き、気がついたか……?」
焦ってその手を引っ込める
ドッと心臓が跳ね上がり、きっと今の自分の顔は間違いなく茹でダコみたいになっている
「……ううん……ここは……え?」
ラシエルはぼんやりと薄目を開けて、俺の事を見る
そして俺の姿を捉えると、目を見開き驚いた顔をした
「あっ」
ま、まずい…
ラシエルの寝ている横で上半身真っ裸にして、こんな至近距離で前屈みに覗き込んでいたりしたら、絶対変な勘違いを生んでしまう!
「こ、これは…ラシエルが…寒そうだったから……上着!上着掛けようとして!」
その上着は乱雑に地面に落ちている
どう見ても苦しい言い訳に聞こえるがラシエルはぽかんとして、それでもすぐに目を細めて微笑んだ
「そうですか、お気遣いありがとうございます」
ラシエルは地面に投げ捨てられた衣服を拾い上げる
「俺は平気ですから、服を着て下さい。迷惑を掛けました、早くここを出ましょう」
なんだか貼り付けたような笑顔に、余所余所しく他人行儀な態度
それが最初の違和感だった。
「……え?あ、うんっそうだな」
何か、思ってた反応と違う
目が覚めて俺が半裸になってたりしたら、絶対歓喜しそうなのに。
「~ッッ」
カッと頬が熱くなる
何考えてんだ俺!?自意識過剰にも程があるだろ!
頭をブンブン振って、ラシエルに手渡された衣服を再び纏い、洞窟内にある貴重な鉱石を掘った後に帰還ポータルでこの場を離れた
「景色が違う……」
「瘴気が取り払われたんだ。ここは緑も豊かだなあ」
光風の国の周辺は、精霊であるミジャルーサの風の力によって普段は様々な美しい花々が咲き乱れている
「ラシエル、女王に貰ったやつがあるだろ。出してみて」
「?これですか?」
ブリサルトの女王の神器である弓矢に、今では光風の力が宿されている
魔王の第二形態では、ヤツが翼を生やし空中戦になる為この光風の弓矢で撃ち落とさなければならない
エイムについては、ラシエルなら何の問題はないだろう
「構えて、弦を引っ張ってみて、それでタメ攻撃…じゃなくてそのままキープで!」
「?」
ラシエルは弓を構えて、矢を持たずに弦を引く
矢を持たないことには何の意味も無い動作に見えるが、暫く引き続けると、本来そこにあるべき筈の矢が、光を纏い具現する
「え?」
「ちょっと溜めが長いけど、この矢で魔王を撃ち落とすんだ。あとこれで無駄に矢を買わなくて済む。まあ連射が必要になる場面もあるかもだからストックはあって損は無いけど……」
ラシエルは黙ってこちらを見る
べらべらと喋り過ぎて伝わんなかったかな、と一瞬思ったが違う
なんでそんな事を知ってんだって顔だよな、これ。やらかした
「………って、ラシエルが寝てる時に女王サマが来て教えてくれた……」
「…そうなんですね、この矢はどうしたら良いですか?」
弓矢を構えたまま手持ち無沙汰にしているラシエル
光風の弓矢の使い方を教える為だけにやって貰ったけど、無駄打ちするのもアレだし特別なスキルも教えておこう
「その矢は風に乗って光の道しるべを作りながら欲しいアイテム……モノの位置を教えてくれるんだ。基本は宝箱だけど、回復薬や素材なんかも設定すれば……」
「………。」
「って女王様が……」
「やってみても良いですか?」
「え?うん!」
ラシエルは光の矢を放つ
それは本来描く筈の軌道とはまるで別の方向に角度を変え、見る見る内に遠くに飛んでいってしまう
そして矢が通過した軌道に沿って、キラキラと鱗粉のような光が留まっている
「はぁ、すごい」
「この先に宝箱がある!」
「宝箱、ほんとに好きですね」
「うん!好き!」
「では次からはこれを使うので、もう勝手に何処かに行くのはやめてくれますか?」
「うん…ごめん……」
ぐうの音も出ない……
ろくに戦闘力も無いのに、フィールドを移動していると、すぐに怪しいところを見つけては勝手に一人でそそくさと探索してしまうから何度も魔物に襲われかけている
ラシエルはその度に駆けつけて俺を助けてくれていたけど、特に文句は言わなかった。だから俺も正直それに甘えていた
……でも、ほんとは嫌気がさしてたのかな
何だか、ラシエルが冷たい気がする
気のせいか?なんなんだろう。この胸のざわつきは
妙に気まずい空気のまま、俺達は次の目的地を目指した
氷よりも冷たく凍てついた国ーー
雪原の国、マリスノウだ。
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