紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第2章 受諾者と守護者

◆10 ラグナとエルドリック①

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「守護、っ……者!?」
「しー。声が大きいよ」

人差し指を唇に当てて、注意される。
イリヤも慌てて自分の口を手のひらで覆い、そっと腰を下ろした。

「会長は、僕の秘密を……知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、カラドリウス教授から直々に頼まれたから。イリヤの守護者になってくれないか、って」
「ええっ!?」

ラグナと同じ事を――エルドリック先輩にも頼んだということ?2人両方に……?
よりによって、生徒の中の実力者ツートップに頼むなんて……っ。

いつも同じ環境にいられる人で、何があっても対処できる魔力と能力がある人。
そう思ったら確かに最高の人選だし、ありがたくて涙が出るくらいだ。

――だけど!

(守ってくれる2人に緊張しすぎて、僕のメンタルがもたない気がするんですが……!?)

イリヤは心の中でそう叫び、ばたりとテーブルに倒れた。動悸と息切れが激しい。心なしか眩暈めまいもする。

「イリヤ!?どうしたんだ?大丈夫かい」
「いえっ、何でもありません……」

引きつった笑みを浮かべながら、ゆっくりと上体を起こす。
一日のうちに非日常的な出来事が押し寄せ過ぎだと思う。精神的にもうパンク寸前だ。

「何と言うかその――とても申し訳なくて……断ってくれていいんですよ?会長」
「……君は、断って欲しいの?守護者は僕じゃない方が良いと?」

ついそんな風に言ったイリヤに対し、ふっと真剣な表情になって――エルドリックは真っすぐに見詰めてきた。
紫水晶アメジストの瞳が自分を、自分だけを映している。
淡く透き通る、本物の水晶のような美しい瞳。
その中に込められた想いはどんなものなのか。覗き込んで確かめたくなる色彩が揺れている。
ドキンと心臓が高鳴った。

「いえっ!そんなこと……ある訳ない、です。先輩が守ってくれるなら、こんなに嬉しいことはなくて」

気付けば、見詰める瞳に誘われるように、そんな言葉を漏らしてしまっていた。思わずハッとなる。

(先輩が僕を気に掛けてくれている……それだけで嬉しいのに)

自分の中にあった隠された望み。ラグナが守護者を引き受けてくれただけでも充分贅沢だ。なのに、この上さらに大それたことを願ってしまうなんて。

教授陣から推薦され、生徒会の書記を務めるようになってから3カ月。エルドリックの誰にでも公平で、優しい姿をイリヤは見てきた。
その穏やかな笑みに密かに癒され、尊敬し、憧れていたということに、こうしてゆっくりと向き合ってみて気付かされた。


『イリヤ――言動には気を付けて。私たちは今でもずっと見張られているのよ……


ずっと聞かされ続けた母の言葉が、不意に頭の中に響いた。
父を奪われ心を追い詰められた母のその考えが、真実なのかどうか半信半疑だったけれど……その言葉通りに、イリヤたち親子は息を殺すようにして生き伸びてきた。

他人に、何も望んだりしない。
期待してはいけない。
迷惑をかけずに目立たぬよう、大人しくしていようと。

それなのに……

(こんなに欲張りだったのか?僕は――)

胸の紋章が、ズキン、と痛んだ気がした。


「……僕も同じ気持ちだよ。守る相手が君だから、引き受けたいと思ったんだ」
「先輩……」
「元々、君に興味があったし」
「え?」
「いやその、君に憑いた『朱雀』にね。古い精霊に興味があったんだよ」
「――確かに、朱雀は此の世の始まりの神、とも言われていますし。成程、そういうことなら先輩にもメリットがありますね」
「………」

エルドリックの言葉に秘められた本当の想いには気付かず、納得してイリヤは頷いた。

(朱雀に興味があって引き受けてくれるなら、ムリに断らない方がいいのかもしれない)

「……そういえば今朝、ラグナ先輩も教授に頼まれた守護者だと僕に言いに来たんですが……でも会長も選ばれているとは知らなかったみたいです。教授は守護者候補を2人選んだこと、本人に伝えていなかったんでしょうか?」

と素朴な疑問を伝えれば、エルドリックは目を見開いて驚いた表情になる。

「ラグナが?自分が守護者だって……そう言ったの?」
「はい」
「へえ………それは僕も知らなかったな。そうなのかい?ラグナ」
「――え?」

その問いかけが何処に向けられているのか、一瞬分からなくて。
固まるイリヤの背後から――よく通る低音の美声が答えを返す。


「……だったら何だ?俺はコイツの保護者なんだ。お前と違って、昔からのな」
「!!」


頭の上に大きな手が置かれて、イリヤの身体はびくりと跳ねた。
「そうだろ?」と言いたげにクシャクシャと髪をかき混ぜてくる。
尊大で、それでいて親しげな態度で見下ろしているのは、言うまでもなく――ラグナだ。



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