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第2章 受諾者と守護者
◆13 ラグナとエルドリック④
しおりを挟むラグナはエルドリックの方に向き直り、牽制するように相手を見詰めた。
「……お前が、イリヤの守護者――か」
「君はそれがお気に召さないようだね?だけど僕は今朝、教授から直々に頼まれたんだ。君とは違って……」
「おい――エルドリックっ」
「!?」
突然、ラグナはテーブルに身を乗り出し、向かいに座っていたエルドリックの制服の襟を掴んだ。
「ラグナ!?」
驚いたイリヤは大きな声を上げてしまう。
「……少し顔を貸せ。お前と2人だけで話がしたい」
「ああ、いいとも。僕もそうしたいと思っていた所だ――それにイリヤのランチタイムをどんどん奪っているのも気になっていたし」
「えっ?あっ!?」
全く動じていないエルドリックは、胸元を掴まれたままイリヤに目配せをする。
イリヤは慌てて食堂内の大時計を振り返る。
気付けば、11時50分。お昼休み終了まで残り10分だ。
「わっ、もうこんな時間……!」
「邪魔した俺が悪かった。じゃあな、イリヤ」
「ちょっと待って!?2人で何の話をするつもり?まさか、喧嘩とかする気じゃ――」
「大丈夫だ、僕たちのことは心配しないで。いきなり殴り合いとかはしないから……多分ね。また後で、ゆっくり話そう」
「え――」
2人は意味ありげに、互いに視線を合わせたまま席を立つ。
去り際に、ラグナはイリヤの頭をポンと撫でてそのまま行き過ぎ、エルドリックは肩に手を置いて「食事をゆっくりさせてあげられなくて済まなかった」と言い、去っていった。
石の床にカツカツと鳴る2人分のブーツの音が少しずつ遠ざかる。イリヤはその場にひとり取り残された。
それと同時に、この騒動に向けられていた周囲からの好奇の視線や、騒めきも少しずつ消えていく。
(いま、会長が言いかけたのは……)
何だったんだろう。ラグナがそれを遮った理由は?
2人だけで何を話そうとしているんだろう……?
すごく気になったが、とりあえず食事をしなくちゃとイリヤはテーブルに向き直る。
白銀と漆黒の髪を持つ2人。
髪色も肌の色も性格も――何から何まで2人は対照的だ。
けれど、色の違う肩のケープを揺らしながら並んで歩く2人は、どちらも同じように凛々しい。
まるで皇帝に仕える選りすぐりの近衛兵のようだった。
ここを卒業した生徒のうち、何人かは近衛師団に配属になる。そこに進むのは数少ない選ばれたエリートで、出世を約束された人間だ。2人なら、いずれ本当にそうなるかもしれない。
彼らが皇帝の両翼の騎士になれば、きっと見た目も戦力も他を圧倒する存在になるだろう。
そんな未来が、イリヤには見える気がした。
もう一度、離れていくその姿を目で追えば、生徒たちが遠巻きに彼らを羨望の眼差しで見詰めている。本当に、後ろ姿だけでも惚れ惚れしてしまうような2人だ。
(……でもどういう訳か、ずっとピリピリしてたな。特にラグナが)
少し甘めに煮られた人参を頬張りながら、つい2人のことばかり考えてしまう。
今日の食堂で起きたこと。
一番の事件は「精霊と出会った」ことだったけど。
でもその出来事の記憶が薄くなるくらい、2人との会話には驚いたりドキドキさせられて。
この3年間で、今日みたいに感情のままに気持ちを昂らせた事が、一体何度あっただろう?
波風を立てずただ静かに暮らすことだけに専念していた日々が煙の様に、跡形もなく消えてしまったみたいだった。
(……分かってる。2人が僕を構うのは守護者になったからだ。本当にそれだけで、何か特別な感情がある訳じゃないって事くらい)
『いつでも頼ってくれていい』
『お前を探す以外に用事があると思うのか?』
……分かっていても、つい。
好意のようなものを感じられれば、やっぱり嬉しいと思ってしまう。
でも――
(単純に喜んでばかりいたら、ダメな気がする)
ラグナとの関係が元に戻ることを望んでも、それ位は許されるかなと思った。ずっと消えなかった大切な想いだったから。
だけどもっと、それ以上の何かを求めてしまいそうな自分を感じていて……少し怖かった。
この気持ちの行きつく先は何処なんだろう?
(もっともっと、優しくされたいとか。ずっと傍にいて欲しいとか)
――際限がなくなるんじゃないだろうか。
お皿の上の料理だって、同じだ。
甘い人参を食べた後のインゲン豆は少し苦みを強く感じる。
そしてここのシェフの腕前に慣れてしまえば、別の場所でこれ以下の食事が出た時に、酷くがっかりするかもしれない。
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