【完結】独占欲の花束

空条かの

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3章『邪恋編』

55「今度デートしてください」

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浅見が市の図書館に到着したのは、16時20頃。
約束の時間を20分ほど過ぎており、浅見は必死に辺りを見回すが、水月の姿はどこにもなかった。

「チッ……」

遅かったか、と、舌打ちをした浅見の耳にか細い声が聞こえた。

「止めてください」

それは図書館脇の狭い路地から聞こえ、浅見は急ぎそこへ向かう。
薄暗い路地裏には、柄の悪い3人に囲まれた水月がいた。

「ちょっと顔貸してくれるだけで、構わねえんだよ」
「そうそう、お兄さんたちとしばらく遊んでくれたら、なぁ~にもしないからさ」

猫なで声で水月に迫る男たちは、水月の腕を掴み強く引く。

「は、離してくださいっ」

水月は必死に抵抗し、そこを動こうとしなかった。

「離せ!」

誰もいないと思っていた路地で突然声がし、男たちが振り返れば細身の男が立っていた、浅見だ。

「……浅見さん」

見知った顔が現れ、水月は安堵から涙を滲ませる。

「ちぇッ……、邪魔が入ったか」

僅かに顔を歪ませて、男たちは不快な顔を見せた。

「誰の指図だ」
「さぁな、俺たちは金で雇われただけだ」
「雇われただと……」

水月を誘い出した黒幕を吐いてもらおうと思ったのだが、男たちは雇い主は誰だか知らないと話した。

「俺たちはただ、このお兄ちゃんを適当に連れまわして欲しいって頼まれただけだぜ」

男1人を適当に連れ回すだけで、大金が貰える。こんな美味しい話しはないだろうと、嫌みに笑う。

「時間稼ぎはしたよな」
「めんどうな邪魔も入ったし、後は好きにしな」

男たちは、言われた通りのことはしたし、大金も前払いでもらっている。浅見と言い争っても得はないと、そそくさとその場から立ち去った。
男たちが去り、浅見は水月をそっと抱き寄せて安心させる。と、同時に浅見は現状を整理し、とある結論を導きだした。

「狙いは尚人か……」

浅見を誘い出すことに意味があるとすれば、天王寺から引き離したかったのかもしれないと、浅見は急いで携帯を取り出す。

「……駄目だ、電源が切られている」

何度かけても繋がらない電話に苛立ちを覚えながら、浅見はふと水月を見て、もう1つの罠を思いつく。

「水月、姫木に連絡をとってくれ」
「陸くんですか?」
「ああ、急いでくれ」
「は、はい」

浅見に言われ、水月も慌てて携帯を出すと姫木に連絡をしたが、

「繋がりません。電源切られてるみたいです」

結果は同じであった。

「まずいな、……」

苦虫を噛み砕くように、苦い顔をした浅見は、狙いは天王寺と姫木だと確信した。そしてとある人物が頭を過る『西園寺雅臣』
軽く舌打ちをした浅見は、携帯のアドレスの検索を始める。

「……まだここにいるといいんだが」

事は一刻を争う、浅見はしばらく連絡などとっていなかった人物の電話番号を探し出すと、水月に視線を向けた。姫木の行方も探さなくてはならないと。

「水月、俺の番号を教える」
「あっ……はい」

唐突に携帯番号を告げ、水月は慌てて浅見の番号を登録する。

「悪いが、姫木の家まで行って帰宅しているか、もしくはどこかへ出かけたか確認してきてほしい」

天王寺だけに罠が張られているなら、こちらでなんとかするが、姫木にまで被害が及んでいるとすれば、同時進行で解決しなければならないと、浅見は協力者を増やすかどうかを検討するために、水月にそう告げた。

「陸君に何かあったんですか?!」
「今はまだわからない。姫木が巻き込まれてなければいいんだが」
「……巻き込まれるって」
「大丈夫だ。姫木に何かあれば、俺か尚人が必ず助ける」

真剣な表情を水月に向け、浅見はとにかく姫木の無事を確認したいと話す。おそらく姫木は天王寺のことで何かに巻き込まれたのだと察した水月は、浅見の指示に従うことを決める。

「わかりました。すぐに陸君家に行きます」
「すまない水月。何かわかったら連絡をくれ」
「はい。……ぇ?」

元気よく返事を返した水月は急いで姫木の家に向かおうとしたのだが、ふいに浅見に抱き寄せられた。ふわりと抱きしめられた身体が緊張で硬直する。

「怖い思いをさせたな、すまない」

先ほどの光景を思い出し、浅見は優しく声を出すと水月をしっかりと抱きしめる。
浅見の香りに包まれた水月は、安心すると同時になんだか恥ずかしくて頬を赤く染める。大好きな浅見に包まれる感触がとても心地よく、水月はやっぱりこの人が好きなんだと再実感しながら、そっと離れた。
言われたことを早く確認しないと、そう思いながら水月は浅見から離れると「確認したらすぐに連絡します」と言うと足早に姫木の家に向かうが、走り出してすぐに水月は浅見を振り返る。

「浅見さんっ」
「どうした?」
「今度デートしてください」

勢いに任せて言ってしまった。
ストレートに言われた言葉に、浅見は少し照れたように顔を赤らめ、はにかんだ。

「ああ、俺でよければ構わない」

デートのOKをもらい、水月は軽く会釈をするととびきりの笑顔で走っていった。
なんとなく恥ずかしさがこみあげてきた浅見だったが、今は別にやらなければならないことがあったと、急ぎ携帯を握り締めて、とある人物への連絡を試みた。

「お久しぶりです、浅見冬至也です。……至急お伝えしたいことがあります」

電話がつながり、浅見は丁寧な口調で急ぎ事情と要件を述べた。
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