時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」

~Armure fer magique <魔導鎧装> 勇とデュラン③~

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 魔剣【アデ・リュプス】。
 全身が黒一色で覆われた中型片刃魔剣である。
 流線に棘部が断続的に浮かび、斬るよりも引っ掛けて裂く方に長けていそうな刀身となっていて。
 古代文字は複雑かつ細やかに、その合間に細かい命力珠が間隔を開けて埋め込まれている。
 鍔は短めだが先端が返っていて、攻撃を受けるにも適した形状だ。

 だが特筆すべきはやはり、巨大な球状命力珠であろう。

 そのサイズは数値で言えば、三九.九五モンズ。 (おおよそ直径六一.五ミリメートル)
 並みの生物が触れて致死量に至る寸前のサイズである。
 なお、そうでなくとも気絶を誘発するなど、普通では持てる代物ですらない。

 では何故その様な魔剣が生まれたのか。
 それは勇が持っていた【翠星剣】とは異なり、扱う為に造られたのではないからだ。

 生命が持てるであろう限界ギリギリの能力を追求し、力を最大限にまで増幅し、仕上げて。
 その力はもはや、命力珠を備えていただけの【翠星剣】など比較にならない程に凶悪。
 使用者の事など一切考えず、性能だけを追い求めた魔剣なのだから。

 そう、この魔剣は本来、誰にも使用出来ないはずの代物なのである。

 故にこの魔剣はこう呼ばれる事となる。
 【アデ死葬リュプス黒剣】と。

 本来より、魔剣とは使用者の命力を吸い取って力に換えるもので。
 その性質は備えられた主命力珠によって左右される。

 ただ、かつてより乱造され続けた魔剣の中には使用者にそぐわない物も多く。
 使えない魔剣は基本的に不要物として闇に葬られ続けて来て。
 きっとこの魔剣アデ・リュプスも同様の理由で伝説になる程に捨て置かれていたのだろう。

 でもそれを拾い上げた者がいた。
 デュゼローである。

 剣聖曰く、デュゼローは当時自身の力の無さに嘆いていて。
 でも剣聖やラクアンツェに後れを取りたくなくて、力を得る方法を模索していたのだという。

 だから模索した果てに、この剣を手に取る事を決意したのだ。
 彼等と共に行く事が当時のアイデンティティにもなっていたから。



 しかしその魔剣は今、時を越えてデュランの手元に。



「既視感があるだろう、この大きさは。 君が昔使っていた魔剣よりは小さいがね」

「……大きさは問題じゃない。 誰が使うか、それが問題なんだ……ッ!!」

 その魔剣の恐ろしさを理解したから、勇は動揺せずにいられなかったのだ。
 【翠星剣】を長らく使い続けてきた彼だからこそ。



 勇が使っていた【翠星剣】の命力珠サイズは五十モンズ。
 【アデ・リュプス】よりも大きい、極大サイズと呼ばれる大きさだ。

 その大きさだからこそ、常人ではあり得ない程の命力を溜め込めて。
 それを利用して強大な技を撃ち放てたり、身体能力の比類無い強化を可能とした。

 でもそれはあくまで当時の勇が常人以下の命力出力しか無かったからこそ。
 そのお陰で極大命力珠を手に取っても死に至る事が無かったのだ。



 だが目の前のデュランは違う。



 強大なまでの命力を誇りながら、巨大な命力珠を備えた魔剣を持てている。
 それはつまり、それだけの出力を誇る魔剣を常に最強状態で奮えるという事に他ならない。
 貯めた命力をバッテリー扱いしていた勇とでは訳が違う。

 しかしそれこそが真に魔剣を使いこなすという事。

 つまり、デュランは今【アデ・リュプス】を完全に自分のモノとしているのである。

 だからこそ自身も恐れているのだ。
 その強大な力ゆえに。

 魔剣を握る拳が「ギリリ」と唸る。
 まるで、その恐れと頼もしさを交えた相棒の手綱を引くかの如く。

「魔剣という物は本当に恐ろしい。 使い方次第で、人の力を限り無く増幅してくれるのだから―――そう、この様にッ!!」

 そしてその拳から命力が迸った時、突如として―――世界が揺れる。

 デュランがただ大地を蹴っただけで。

 これ程までの力。
 これ程までの迸り。
 今までの小手調べとは比べ物にならない程に、圧倒。

 たったそれだけで、既にデュランは勇の目前へと剣を突き立てていたのだ。
 それが叶う程の速力を、今の一足で体現出来たが故に。

「ちいいッ!?」

 しかし勇も負けてはいない。
 瞬時に生み出した創世剣で間一髪受け止め、殺意の刃を滑らせる。

 たちまち、強烈なまでに火花を放ち。
 勇の肩紙一重を刃が突き抜けていく。
 魔霊装の肩装甲に真っ直ぐの斬れ筋を刻みながら。

 この一撃―――既に魔霊装すら意味を成さない程に強烈。



 でもこれで終わりにするデュランではない。



 それは勇が突き出された魔剣を跳ね上げたその時だった。

 まるでその挙動をわかっていたかの如く、勇の目の前でデュランの体がぐるりと回る。
 跳ね上げの勢いすらも利用した振り子の原理で。

 その動き、まるで流水。
 しなやかに体を捻らせ、それでいて動いている事すら認識させない程に丁寧に。

 そうして繰り出されたのは、膝。
 勇の顔を貫かんとばかりに、回転膝蹴りが最短距離で突き抜けたのである。

「うッ!?」

 無駄無く、そつなく。
 それでいて最高にまで高められた一撃が勇の頬へと突き刺さる。



ガッッッ!!!!!



 だがその一撃を―――勇はその顔そのもので受け流した。
 寸前で首を捻り、直撃を避けたのだ。

 更にはデュランに負けじとその身を捻らせ
 その場へと瞬時にして一閃の円環が刻まれる事となる。

キュウウウンッ!!

 相手の力を利用した駒の一撃。
 心輝戦でも見せた渾身の反撃技術である。

 ただそれも大振りの一撃であるからこそ。
 咄嗟にデュランが背後へ飛び退き、無為へと消える。



 戦況は再び膠着か――― 



 ―――と思っていた矢先、勇は驚くべき光景を目の当たりにする事となる。



 なんとデュランは既に勇へと向けて飛び込んでいたのだ。
 今の今まで飛び退いていたのにも拘らず。

「なにッ!?」

 そう思える程に大きい後退だったのに。
 空へと舞い上がる程の。

 なのに今、それが何故か目の前に戻ってきている。
 また再び剣を突き付けている。

 微かに響く奇音を打ち鳴らしながら。

キンッ、ガコンッ、キュンッ―――

 まるでそれは音。
 そうともとれる程の無機質な音が断続的に続いていたのだ。

 その意外過ぎる挙動を前にして、勇への一撃を許す事となる。
 デュゼローの斬撃が勇の腿を僅かに斬ったのである。

「クソッ!!」

 それは決して、大きな一撃ではないだろう。
 でもこの一撃は戦いの優位性イニシアチブを決める攻防に終止符を打った。

 デュランに優位を譲るという形で。

 咄嗟に魔剣の腹を叩き、勇が堪らず飛び退く。
 相手の圧倒的な突撃力を前に、退かざるを得なかったのだ。



 だが、それで逃れられる程―――デュランは甘くは無い。



 その時、勇は再び目を疑う事となるだろう。
 デュランがまたしても真っ直ぐ向かってきたのだから。



 例え超人であろうとも、慣性の壁を壊すには相応の力が必要となる。
 砕く程に強く大地を蹴ったり、爆音を放つ程に炎を吐き出したり。
 その勢いを殺す為に、必ず何かしらの行動が必須となるはずなのだ。

 でもデュランの行動はまるでその物理原理すら無視している。

 その様な音すら出す事無く。
 大地も砕かず。
 それどころか足すら突かず。

 まるでかの様に、無挙動で向かって来ている。

 これに驚かない訳が無い。

「はあああーーーーーーッ!!!」

「うおおおおッ!!?」

 そしてその勇の驚きは遂に驚愕へと昇華される事となる。



 デュランが振り被りし―――光の片翼を前にして。



 その一撃はまさに光翼の斬撃。
 かつて勇が撃ち放った【翠星剣】の一撃と同等の―――破壊の極地。

 それが今、勇の目前に迫っていたのである。

「これがこのデューク=デュランの信念の力だぁあーーーッ!!」

 叫びが、猛りが、光の翼に更なる力をもたらして。
 勇を両断せんと今、振り下ろされる。

 その輝き、もはや光で全てを呑み込むが如し。



 だがこの時、渾身の一撃を撃ち放ったデュラン当人が驚愕する事となる。
 勇の起こした行動が余りにも常軌を逸していたから。

 

ギャリリリリリリッッッ!!!!

 

 けたたましく鳴り響く炸裂摩擦音。
 周囲を覆い尽くさんばかりに散る虹の火花。

 それを生み出せしは―――勇の両拳。



 なんと、勇が光翼の斬撃を受け止めていたのだ。

 その両拳を突き合わせての白羽取りによって。



「なッ!?」
「ぐぅぅぅおおおあああああッッッ!!!!」

 相応の力が両拳に、腕に篭められているのだろう。
 絶え間無い腕の震えが、歯を食い縛った強張り顔が、その必死さを克明に体現する。

 勇も必死なのだ。
 目の前に迫る強大な力を前にして。

 直撃を貰えば間違いなく死に至る程の一撃なのだから。

 でもその対処法は勇が一番良く知っていると言えるだろう。
 己が一番使ってきた技であり、加えて防がれた所も見た事があるから。

 いつだかラクアンツェに防がれた事が今となって思い起こされ。
 こうして今、起死回生の行動に繋ぐ事が出来たのである。

 天力で迫る命力を限界まで受け流し。
 破壊力を最大限に抑え込んだ状態で剣そのものを両拳で塞き止める。
 まさに命力の塊とも言える光翼剣を抑え込むに相応しい手段だと言えるだろう。

 また、この攻防をいつまでも続かせれば不利になるのは当然デュランで。

キィンッ!!

 たちまち迸っていた命力が消え、魔剣が勇の拳から引き離される。
 デュランの身と共に。



 ただ、その時の姿を前に、勇はもはや唖然とする他無かった。



「さすがだ、ユウ=フジサキ。 君の実力は私が本気を出すに値すると言えるだろう」

 そんな余裕の声を返し、自身を覆うローブを両腕で払う。
 そうして見せたのは―――全身が黒で覆われた彼の身体ボディ

「そ、そんな……まさかッ!?」

 右手に持ちしは魔剣【アデ・リュプス】。
 その対を成すのは金の装飾で彩られた、漆黒の小盾。

「だからこそ今、見せよう。 私が強者である証を」

 そして何よりも―――彼は今、空に居る。



 空に、浮いているのだ。





「これが私の切り札さ。 その名を……【魔導アルミューレ鎧装ファーマギィ】!!」







 全身を覆い尽くす漆黒の鎧。
 これこそがデュランに秘められし力の正体。

 魔剣、魔甲、そして【魔導鎧装】。
 その三つが織り成した時の力は未だ未知数。



 その重厚な輝きに秘めたる能力とは果たして―――


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