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第二話

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 つまり、ただ流されるだけじゃ人生上手く行かないって事ですね。

「そういう事です。アニメやゲームとかで主人公がうっかりやっちゃって成功するじゃないですか。そういうイメージを持っていると『俺も俺も!』ってなっちゃって。んで特殊な力ももらってるって思うと怠け癖がでちゃうんです。前世の記憶があるから尚の事。ならいっそ特別な力を持って生まれた子供ってだけで良かったんじゃないかなって」

 元の記憶・性格・経験に引っ張られてしまったんですね。
 転生後の人格もそれで同じ様に形成されて、結局前世と同じ道を歩む事になるという。

 ただ、これはよくある事案として確認されています。
 前世で努力しなかった方が陥りやすいパターンとして。
 異世界物語を知った方はきっと楽勝だと思うでしょうから。

 なにせ現代に提供された神々の物語は異世界への抵抗を失くす効果がありますので。

「ですねぇ、私も完全に舐め切ってました。人生チートだから平気だろ~って。女神様も推してくれたし、不安も何も抱かなかった。それがダメなんだって気付かないままに。オマケに私のいる世界が実は前世以上にやり直しの利かない世界で、少しでも頑張らないとまず成功しないっていう。幼児期に舐めプしてたから陥っちゃった罠でした」

 えぇ、本来ならその頃に現世での経験値を積みますから。
 女神様が油断していた事もあったかもしれませんが。

 その結果が噛み合わず、失敗してしまったんですね。
 世界の造りと転行者の知識が引き起こした不幸と言えるでしょう。

 では実際に成功している主人公達はどうして余裕なのでしょうか。

 それというのも、彼等は裏でかなりの努力をしているのです。
 異世界転生・転移に拘らず。

 たとえば、大抵の転生者。
 彼等は一部の記憶だけを意識して残して成長しています。
 その記憶だけがあればいい、という明確なビジョンがあるからですね。
 なので物語では他のどうでもいい思い出は一切語られない、という訳です。
 
 他に挙げるとすれば、腕立て伏せだけで成長した勇者もそうですね。
 実はあれ、腕立て伏せで全身を使える様に筋肉を超意識して行っているんです。
 腕立て伏せ風の全身強化運動なんです。しかもバリエーションも凄まじく多いという。
 こんなの並の人間の為せる業じゃありません。

 特別だからこそ成し得る事なんですね。
 その事に気付けなければチートなんて結局、宝の持ち腐れでしか無いんです。

 知識を持っているから、では無く大事にしているから無双出来る。
 この意味を理解したから成功出来たのだと。

 「あ、俺また何かやっちゃいました?」はコロンブスの卵的発想に至れる方の特権という訳なのです。

「その知恵が前世でもあればもっと上手く行ってたかもしれないなぁなんて。記憶を思い出した今だからこそそう思います。少なくとも雑用じゃなく、もっと良い立場で働けたかもしれませんねぇ。技術はそれなりにあったつもりなんで」

 そうですね。要は自身の持つ力の使い方。
 でも人生にゲームの様なチュートリアルは無いですから。
 力の使い道に気付くのも、罠に気付くのも全ては貴方次第、という訳です。

 これではとても油断なんて出来るはずもありません。

 なお、ファルマさんの世界は今なお平和のままです。
 それは創世神である女神が今回の失敗に心を痛め、世界を動かすのを諦めたから。
 なので来たる邪悪も来ないまま世界は平凡を貫いているという訳ですね。

 ファルマさんの生き方はどうやら世界の未来まで変えちゃったみたいです。

「ほんと女神様には悪い事しちゃったなぁって後悔し続けてます。いやね、ほんと屈託の無い方なんですよ。影で何か企んでるとかそんな雰囲気一切無いんです。まるで夢に向かって突っ走ってる少女みたいな。だけどこう、その頑張りと熱意を私が受け取れなかったのが残念でならなくて」

 必要であれば女神様をこの場にお呼びする事も出来ますが?

「いや、合わせる顔がないんでそれは止めてください(笑)」

 そうでしたか。ファルマさんもそれなりに真面目なのですね。

 この様な感じでチートさえ無駄にする【チートキリング】。
 その原因は人間が本来持つ怠け心だったのです。

 チートそのものが怠情から起因するだけに、この不毛な戦いは永遠とループし続けるのかもしれません。
 無限ループって怖いですよね。

 しかしここまで不幸だと、それはそれで物語に成りそうな気がしてなりませんが。
 やはりファルマさんの怠情はそこまで酷かったという事なのでしょうか。

「えーっとまぁ、それなりに?多くは忘れて語れないですけど、子供の頃は基本的にパロンオ○○○の事しか考えて無かったですね」

 胸部フェチだったんですね。
 にしても異世界言語とはいえ、女性の前でその単語をダイレクトに出すのは如何なものかと。

「え、あ、すいません……面白く語れてたものでつい」

 冗談です。(笑)

 ですが、そのデリカシーもまた大事なのかもしれません。
 欲望を前にしても平常を保てるくらいの強い理性も主人公のたしなみですから。
 もっとも、その話をすると一話目のアマタさんがアウトになりますけど。

 基本的には下のお話も問題ありませんので、全部ぶっちゃけて頂いて結構です。
 ある程度は我々の方でモザイク処理をさせて頂きますので。

「はは、さすがにそこまではっちゃけてはおりませんので構えないでください。それにもう語りたい事は語れましたから。これでもう心残りはありません。後はゆっくり余生を過ごしたいと思います」

 そうですか。女神様にもこの想いが届くと良いですね。
 それではファルマさん、今日は語って頂きましてありがとうございました。

 良ければ最後に一言を。

「願うなら、女神様のあの大きなパロンを生で一目見たかった」

 懲りませんね。(笑)



 異世界転生。

 それは多くが夢見る人生やり直しの起点。
 しかし前世の記憶があるからと全てが上手く行くとは限りません。
 たとえ神が全知全能であろうとも、これだけは転行者次第。
 他者ではどうにもならないのです。

 ならば、まずはそのイニシアチブを生かす為に世界を動かしませんか?
 【フクセェン】――正しき道を示すヒントを張り巡らせる事によって。

 転行者を正しく誘導する事もまた神の役目。
 勝手に動くからと捨て置いてはいけないのです。

 しかし例え【フクセェン】を張り巡らしても、転行者が気付けなければ意味がありません。

 その事がわからないと、いずれ世界の根幹をも揺るがしてしまうかもしれない。
 ですので、【フクセェン】の扱いと物語の破綻にはくれぐれも注意しましょう。
 世界も人も、その選択の上で生きているのですから。

 以上、司会天使のパプリエルからお送り致しました。

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