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第40話 龍人ちゃんは割と人に近い存在でした

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「キャアアア!! イーア! ユメジィ! イーアァァァ!!!」
「ダメよ逃がさない! あっはは! あなたはもう幻花が調べ尽くすまで逃がさないんだからアハーッハッハァァァ!!!」

 僕達の妹は手の届かない所へ行ってしまった。
 もう誰も止める事の叶わない人となってしまったのだ。

 だから僕達はもう、フェロちゃんを差し出す事しかできなかった。

 僕も姉さんも今や諦め、ただ頭を抱えるのみ。
 フェロちゃんの悲鳴の木霊する中、ただ声を殺して。
 そしてしばらくすれば、もう彼女の声は聞こえなくなっていた。
 きっともう、あの子は――

「もっと僕が気を付けていればこんな事にはならなかったッ!」
「それはあたしも同じです。ちゃんと異世界の事を理解しておけば……クッ!」

 でも、後悔してももう遅い。
 涙を流しても、フェロちゃんはもう帰ってこないから。
 異世界を科学的に証明するための犠牲となったんだって……!

「ごめんよフェロちゃん……君の事は忘れない」
「いつか必ず、どこかの部位だけでもいいから故郷へ帰してあげるね……」
「何物騒な事言ってるの二人とも……」
「ユメージ! ウィウッタ、ア、イアキョウカー!」

 けどフェロちゃんは犠牲になっていませんでした。
 今普通に幻ちゃんと並んで立ってます。いい香りと共に。
 幻ちゃんから借りたであろうブラウスだけを羽織っていて、とても可愛らしい。

「幻ちゃん、フェロちゃんをバラしてたんじゃ……!?」
「そうでも言わないと手放しそうになかったじゃない。大体、異生物がいるにしろ堂々とここに連れてきている時点で不味いって思わない?」
「あ、はい、それはもう重々承知で」
「だったらすぐに身体調査と適応チェック。できる事はやっとかないと、なぁなぁで済ませたら後が怖いよ?」
「そうね、あたしはそう思っていました」
「お姉ちゃん、逃げようとしたって無駄なんですからね?」
「幻ちゃんなんか勘が鋭くてお姉ちゃん怖い」

 どうやら幻ちゃんは僕達の代わりにフェロちゃんを調べてくれたらしい。
 ついでにお風呂にも入れてくれたようで、とても助かった。

 なにせ検査方法なんて僕らにはわからないからね。
 幻ちゃんいなかったら明日まで結局何もしなかったと思う。

「とりあえず簡単に調べてみたけど、かなり人間に近い生態を持っている事がわかったわ。思考能力、反応、意思疎通への適応性、いずれも現代人に近いってね。ただし、ちょっと肺が強めかしら。肺活量が尋常じゃないみたい」
「なんで一緒にお風呂入っただけでそうわかるのかが理解できない」
「あと人体的構造部がとても人と酷似しているから、地球人と塩基配列が同等な可能性があるわ」
「となるとなんなんです?」
「地球人との性交で子孫が作れるかもしれません」
「ぜひ試しましょう、夢君」
「どうしてそうなる。幻ちゃん、姉さんを止めて欲しい」
「えっ?」
「そこでどうして不思議そうな顔をするのかな? あとそのカメラは何かな?」
「いい、お兄ちゃん? これは異なる世界同士を繋ぐ奇跡かもしれないの。その奇跡の一瞬にナマで挿し合えるのはとても悦ばしい事なのよ?」
「今、幻ちゃんの中にも僕達と同じ血が流れているって直感を得たよ」

 しかし如何な理屈であっても公開プレイに至るのだけは絶対にお断りする。
 それにフェロちゃんはどちらかというと妹か子どもみたいな存在だし、そもそも幼いから色々とまずい。
 そんないたいけな少女を同意せず襲うなんて、僕には絶対できる訳が無い。

「でも安心してお兄ちゃん。同意は求めていないから」
「えっ?」
「フェロ号ドッキング準備完了、これより夢君へと向けてリフト移動開始します」
「え、ちょ、いつの間に腕が椅子に固定されてるゥ!?」

 だが姉と妹はすでにやる気だった。僕は嵌められたのだ。
 二人はもう目的が一致した時から息を合わせていたのだろう。

 ゆえに、M字開脚状態のフェロちゃんを抱えた姉さんがゆっくり近づいて来る!
 気付いたら幻ちゃんに拘束されていた僕へと向けて容赦なく!

「いやいやいや! まずいでしょこれ!? フェロちゃん抵抗していいんだからねぇ!?」
「ユメージ! エストヴォ、プラボペーテ?」
「アアアアア言葉が通じないんだったァァァ!!!!!」

 幸い、ブラウスの裾が長いから肝心な所は見えない!
 けど姉さんの狙いが確実過ぎてもう僕の真上に配置されてしまった!

「二人とも恥じらいは無いのか!? 僕が! こんなに! 嫌がってるのに!」
「いいですか夢君。あたしに恥じらいを問う事自体が無意味なんですよ?」
「恥はぬぐえるわ。むしろ後悔よりも軽い、人類の進化に必要な感情なのよ」

 ダメだ、この二人にはもう説得が通じない!
 フェロちゃんも何が起きようとしているのかわかっていない!
 もう、万事休すか……!

 なんかもう泣けてきた。
 今まさに妹にパンツ脱がされそうになってるし。
 フェロちゃんは無邪気に笑っているだけだし。
 その上で姉さんはもう言い得ないほどの卑猥な顔付きになってるし。

 かつてこんな姉と妹が存在しただろうか。
 <弟/兄>に禁断の行為を強要するなんて。
 今まで二人を支えてきたつもりだったのに、まるで裏切られたような気分だ。

 これならいっそ、もっと自分に正直に生きればよかった。
 ごめんよフェロちゃん、僕は君を救ったけど、また救えそうには――ない。

「……ユメジ、プラボペーテミショ? ……ウントラーヴパァ、ミンショデテウィ、クン、パーラッ!」
「え、何、フェロちゃんが――」
「光って――」

 だけどこの時、僕の目の前でフェロちゃん自身が輝いた。
 部屋中が真白に包まれるくらいに激しく強く。

 そして雷光が、稲妻が、その短い角からバリバリとほとばしったのだ。

 その威力はすさまじく、姉さんや幻ちゃんを弾き飛ばすほど。
 でも不思議と、僕には一切の影響がない。
 一体何が起きて……?

「んぎゃっ!?」
「いったぁ~~~……!」

 ただ、威力自体は大したほどではなかったらしい。
 弾き飛ばされただけで、むしろ打ち身の方が痛そうなくらいか。

「ピャッ!?」
「んごほっ!?」

 それでフェロちゃんはダイレクトに僕の腰へと落ちてきた。
 幸い、僕の体がクッションとなったようで大事には至っていない。

 ただ僕がとてもドギツい状況に陥っているけども。とても泣き叫びたい。

「な、なるほど、わかったわ。黒い鱗は炭素か同等の元素を含んでいて、電流を流すのに最適な体なのね。それで――」
「もういい加減にしなさぁい!」
「ひゃんっ!?」
「僕もフェロちゃんも実験動物じゃないし、人権があります! ちゃんとその倫理観を理解しない人に科学を追求する資格はありませぇん! 兄妹という関係は免罪符じゃありませぇん!」
「がーん! お兄ちゃんに、論破された……!」
「ウィウィ、ユメジ。シシシ」

 けど今は地獄の苦しみさえ耐え凌ぎ、妹達を制止する。
 これ以上の暴挙はいくらなんでも許せるものではないのだから。



 ――という訳で、僕の説得が決め手となって姉と妹の暴走は止まった。
 フェロちゃんも僕の意思を理解してくれて、味方になってくれたしね。

 それにしても、この二人が協力するとこんなに大変な事になるのか。
 もし幻ちゃんが帰って来るとなると、これからますます荒れる事になりそうだ。
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