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第44話 ホームステイ双子ちゃん
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気付かぬ内にユメラとユメレという僕の子ができていたのには驚かされた。
女性経験も無しに親となったのは人類史的に見ても僕くらいなんじゃないだろうか。
――で、そんな事実を受け入れてからはや一週間が過ぎて。
「まさかお兄ちゃんに子どもができていたなんて驚きよね。しかもそれなのに純血エルフで地球人の特性も持ってるとかもう意味がわからないわ」
「お母さまは言いました」「それほどにお父さまを愛していたのだと」
「「異種間ラブロマンス」」
「やっぱりお兄ちゃんは異種娘好きだったのね!」
「それは誤解だからもう忘れるんだ」
今、その双子ちゃんは秋月家に遊びに来ている。
僕の実家にも興味があったらしいので、本当に地球環境への適応があるかどうかの調査も兼ねて連れてくる事になった。
土日休みに向けてのちょっとしたホームステイみたいなものだ。
ちなみに言語に関しては何の問題も無い。
なにせ二人は僕の子とは思えないくらいに賢く、初日に渡した子ども用教材だけで日本語もすぐ覚えてしまったから。
今では英語、ドイツ語、フランス語、さらには中国語にも挑戦しているというのだからもう驚きである。
もしかしたらこの子達、もう僕より地球での順応性が高いかもしれない。
「おまちどうさま。これが地球の――日本の料理よ」
「とても香りが」「独特です」
「「食のヴァージンロストやー」」
「そういう言葉回しどこで覚えたの」
……そんな訳でこれから夕食。
幻ちゃんが就職先の関係でしばらく家にいるという事なので、こうして料理を振舞ってくれた。
フェロちゃんに続いてまた異世界人が来たからテンションも上がったみたいだし。
「エルフって話なのでなんとなく全体的に薄味風味に仕立ててみたの。あと動物性油を使わないようにしてみたんだけど、どうかな?」
「さすが幻ちゃん、なんだかんだで気が利いてるわ!」
おまけにどうやら異世界についてもしっかりと勉強していたみたいで、今ではこんな気遣いまでしてくれている。
マッドサイエンティスト的な所さえ抜けばほんと出来た妹だと思う。
「やっぱりエルフと言ったら肉は無い方がいいでしょうしね」
「え"ッ!?」「ユメラ?」
「……あれ? も、もしかして、違った?」
ただ予想に反し、幻ちゃんの言葉になぜかユメラちゃんだけが妙な反応を見せる。
しかもひん剥いた目を震わせてて絶望感がすっごく伝わって来るんだけど?
どれだけ肉に思い入れがあるのユメラちゃん。
「あ、えっと……確か冷蔵庫に豚肉の切り落としあったよね?」
「ちょ、ちょっと炒めてくる……!」
あまりにも絶望感がすごすぎた所為か、幻ちゃんが慌ててキッチンに戻っていく。
それで手軽く焼肉を作って戻ってきたのだけど。
そうしたらさっそくユメラちゃんがフォークを使い迷いなく肉をほおばり始めた。
「ンンーーーっ! 地球のお肉おいし!」
ただ味付けして焼いただけなのだけど、それでもユメラちゃんはとても美味しそうに噛み締めている。
赤らめた頬に手を充ててきゅもきゅと味わっているのだ。
僕達の知るエルフとは違うけれど、その姿がなんだかとても可愛らしくて微笑ましい。
「ユメレも食べた方がいい。これは神レベル」
「私はいらない」
「肉を食べないとお父さまに愛されないと思うの」
「う……それはイヤ」
「別にそういう事はないからね!? あと強要は良くないよ?」
けど、一方のユメレちゃんはというと控えめ。
こちらはイメージ通りのエルフという感じで、出された焼肉を前になんか嫌そうな顔を浮かべている。
……なのだけどユメラちゃんの圧がすごいです。
僕が止めようとも関係無く、肉を突き刺したフォークをユメレちゃんの口元へ寄せて強要し続けている。
ユメレちゃんも顔を逸らして避けてはいるけど無駄な抵抗で、もう擦りつけられて口元がタレでネチャネチャだ。
綺麗な顔が台無しで、なんだかもう見ていられない。
「ユメラちゃん、ユメレちゃんが嫌がってるからそれ以上は――」
「お父さまは黙っていてください。これは試練。この星に適応するために必要な儀式なの。ユメレはこれを乗り越えて真の地球エルフになるのです」
「ただ焼肉食べるってだけなのに!? あと地球エルフってなに!?」
「そう、これはとても! 大切なっ! 事なのですっ!」
「ムゴォォォーーーッ!」
だが僕の制止の甲斐もなく、遂に焼肉がユメレちゃんの口へと突っ込まれる。
姉妹だからか遠慮さえなく、更にはおかわりまでねじ込まれる始末だ。
――いやいや姉妹だって普通ここまでしないでしょ!?
「ユメラちゃんダメだってぇ!」
これはさすがにやり過ぎだと思ったので、ユメラちゃんを羽交い絞めにして強引に止める。
どうやらユメラちゃんは思う以上に強情な性格だったらしい。
顔も動きもそっくりだから性格も同じかなとか思っていたけど、予想に反してずっと個性的だったようだ。
羽交い絞めする事でやっと諦めてくれたのが幸いか。
「ああっ! ユメレちゃんが白目剥いて痙攣してるぅーーー!?」
「まさかこれはアレルギーによる拒否反応!? ううん、もしかしたら生態が異なる事による拒絶反応的な!?」
「いや、ただの窒息だと思うけど!?」
ただユメレちゃんの方はちょっと尋常ならざる状態だ。
もしかしたらこれ、とてつもなくヤバイ状況なんじゃ……!?
「ユメレなら大丈夫。この程度は問題無い」
「こんな状態なのに!?」
「この子は少し強引に教えた方がずっと速く覚えるの。日本語の時もそう」
「オ、オゴゴ……ンゴクッ!」
「ほら見て、遂に適応したわ」
「「「な、なんだってーっ!?」」」
だがそれは所詮、僕達の思い過ごしに過ぎなかった。
この二人は僕達の想像以上に深く理解しあった真の双子姉妹なのだから。
満を持して息を吹き返すユメレを前に、僕達はそう実感せざるを得なかったのだ。
「はふぅ~~~……故郷の世界の肉とは違う、臭みの無い純粋な肉の味わい」
「それでいて食する事に特化した調味料とのハーモニー」
「甘く濃厚な脂が」「体の隅々に染み渡る」
「まるで脂の川のせせらぎに」「身を委ねたかのような感覚」
「「こってりギトギトの天国やー」」
「それ褒めてるのかけなしてるのかわからないんだけど?」
そしてやっぱり双子ちゃんはいつも通りだった。
どうやらユメレちゃんも肉の旨味を理解したらしく、論評を語ってすぐユメラちゃんと共に焼肉をほおばり始めた。
色々誤解はあったものの、好き嫌いせず食べてくれるようになってくれてホッと一安心だ。
ちょっとエルフの神秘性が台無しな気もするけど。
「ユメレは故郷の肉が苦手」
「だって……臭いし堅いしで食べれたものじゃないもん」
「でもこの世界の肉は?」
「美味!」
「は、はは……それにしても良かった。僕ちょっと焦っちゃったよ」
ユメラちゃんの粗暴さには驚かされたけど、それもすべてはユメレちゃんの事を想ってなのだろう。
そうも考えると、僕達には彼女達に対する理解がまだまだ足りていないって痛感させられる。
異世界エルフに対しても、この姉妹の在り方に対しても。
なら下手に干渉するより、自由にさせてあげた方がいいのかもしれないな。
思う通りに、考えるままにね。
その姿を見て、僕達も二人の事を学ぶ必要があると思うから。
「この世界には」「こんなに美味しい物が存在するのですね」
「とても強く」「興味が湧きました」
「だったら明日、せっかくだからお出かけでもしてみたらどうかしら?」
「いいんじゃない? それなら幻花も付き合ってあげる」
「ちょ……姉さん幻ちゃん何言ってるの!?」
どうやらその考えは姉さんも幻ちゃんも同じだったらしい。
ただしこの提案以外は、だけど。
姉さんも幻ちゃんもすでにその気満々だ。
おまけに双子ちゃんも嬉しそうだし、これはもう止められそうにないんだけど!?
これは明日、一体どうなっちゃうんだ……!?
女性経験も無しに親となったのは人類史的に見ても僕くらいなんじゃないだろうか。
――で、そんな事実を受け入れてからはや一週間が過ぎて。
「まさかお兄ちゃんに子どもができていたなんて驚きよね。しかもそれなのに純血エルフで地球人の特性も持ってるとかもう意味がわからないわ」
「お母さまは言いました」「それほどにお父さまを愛していたのだと」
「「異種間ラブロマンス」」
「やっぱりお兄ちゃんは異種娘好きだったのね!」
「それは誤解だからもう忘れるんだ」
今、その双子ちゃんは秋月家に遊びに来ている。
僕の実家にも興味があったらしいので、本当に地球環境への適応があるかどうかの調査も兼ねて連れてくる事になった。
土日休みに向けてのちょっとしたホームステイみたいなものだ。
ちなみに言語に関しては何の問題も無い。
なにせ二人は僕の子とは思えないくらいに賢く、初日に渡した子ども用教材だけで日本語もすぐ覚えてしまったから。
今では英語、ドイツ語、フランス語、さらには中国語にも挑戦しているというのだからもう驚きである。
もしかしたらこの子達、もう僕より地球での順応性が高いかもしれない。
「おまちどうさま。これが地球の――日本の料理よ」
「とても香りが」「独特です」
「「食のヴァージンロストやー」」
「そういう言葉回しどこで覚えたの」
……そんな訳でこれから夕食。
幻ちゃんが就職先の関係でしばらく家にいるという事なので、こうして料理を振舞ってくれた。
フェロちゃんに続いてまた異世界人が来たからテンションも上がったみたいだし。
「エルフって話なのでなんとなく全体的に薄味風味に仕立ててみたの。あと動物性油を使わないようにしてみたんだけど、どうかな?」
「さすが幻ちゃん、なんだかんだで気が利いてるわ!」
おまけにどうやら異世界についてもしっかりと勉強していたみたいで、今ではこんな気遣いまでしてくれている。
マッドサイエンティスト的な所さえ抜けばほんと出来た妹だと思う。
「やっぱりエルフと言ったら肉は無い方がいいでしょうしね」
「え"ッ!?」「ユメラ?」
「……あれ? も、もしかして、違った?」
ただ予想に反し、幻ちゃんの言葉になぜかユメラちゃんだけが妙な反応を見せる。
しかもひん剥いた目を震わせてて絶望感がすっごく伝わって来るんだけど?
どれだけ肉に思い入れがあるのユメラちゃん。
「あ、えっと……確か冷蔵庫に豚肉の切り落としあったよね?」
「ちょ、ちょっと炒めてくる……!」
あまりにも絶望感がすごすぎた所為か、幻ちゃんが慌ててキッチンに戻っていく。
それで手軽く焼肉を作って戻ってきたのだけど。
そうしたらさっそくユメラちゃんがフォークを使い迷いなく肉をほおばり始めた。
「ンンーーーっ! 地球のお肉おいし!」
ただ味付けして焼いただけなのだけど、それでもユメラちゃんはとても美味しそうに噛み締めている。
赤らめた頬に手を充ててきゅもきゅと味わっているのだ。
僕達の知るエルフとは違うけれど、その姿がなんだかとても可愛らしくて微笑ましい。
「ユメレも食べた方がいい。これは神レベル」
「私はいらない」
「肉を食べないとお父さまに愛されないと思うの」
「う……それはイヤ」
「別にそういう事はないからね!? あと強要は良くないよ?」
けど、一方のユメレちゃんはというと控えめ。
こちらはイメージ通りのエルフという感じで、出された焼肉を前になんか嫌そうな顔を浮かべている。
……なのだけどユメラちゃんの圧がすごいです。
僕が止めようとも関係無く、肉を突き刺したフォークをユメレちゃんの口元へ寄せて強要し続けている。
ユメレちゃんも顔を逸らして避けてはいるけど無駄な抵抗で、もう擦りつけられて口元がタレでネチャネチャだ。
綺麗な顔が台無しで、なんだかもう見ていられない。
「ユメラちゃん、ユメレちゃんが嫌がってるからそれ以上は――」
「お父さまは黙っていてください。これは試練。この星に適応するために必要な儀式なの。ユメレはこれを乗り越えて真の地球エルフになるのです」
「ただ焼肉食べるってだけなのに!? あと地球エルフってなに!?」
「そう、これはとても! 大切なっ! 事なのですっ!」
「ムゴォォォーーーッ!」
だが僕の制止の甲斐もなく、遂に焼肉がユメレちゃんの口へと突っ込まれる。
姉妹だからか遠慮さえなく、更にはおかわりまでねじ込まれる始末だ。
――いやいや姉妹だって普通ここまでしないでしょ!?
「ユメラちゃんダメだってぇ!」
これはさすがにやり過ぎだと思ったので、ユメラちゃんを羽交い絞めにして強引に止める。
どうやらユメラちゃんは思う以上に強情な性格だったらしい。
顔も動きもそっくりだから性格も同じかなとか思っていたけど、予想に反してずっと個性的だったようだ。
羽交い絞めする事でやっと諦めてくれたのが幸いか。
「ああっ! ユメレちゃんが白目剥いて痙攣してるぅーーー!?」
「まさかこれはアレルギーによる拒否反応!? ううん、もしかしたら生態が異なる事による拒絶反応的な!?」
「いや、ただの窒息だと思うけど!?」
ただユメレちゃんの方はちょっと尋常ならざる状態だ。
もしかしたらこれ、とてつもなくヤバイ状況なんじゃ……!?
「ユメレなら大丈夫。この程度は問題無い」
「こんな状態なのに!?」
「この子は少し強引に教えた方がずっと速く覚えるの。日本語の時もそう」
「オ、オゴゴ……ンゴクッ!」
「ほら見て、遂に適応したわ」
「「「な、なんだってーっ!?」」」
だがそれは所詮、僕達の思い過ごしに過ぎなかった。
この二人は僕達の想像以上に深く理解しあった真の双子姉妹なのだから。
満を持して息を吹き返すユメレを前に、僕達はそう実感せざるを得なかったのだ。
「はふぅ~~~……故郷の世界の肉とは違う、臭みの無い純粋な肉の味わい」
「それでいて食する事に特化した調味料とのハーモニー」
「甘く濃厚な脂が」「体の隅々に染み渡る」
「まるで脂の川のせせらぎに」「身を委ねたかのような感覚」
「「こってりギトギトの天国やー」」
「それ褒めてるのかけなしてるのかわからないんだけど?」
そしてやっぱり双子ちゃんはいつも通りだった。
どうやらユメレちゃんも肉の旨味を理解したらしく、論評を語ってすぐユメラちゃんと共に焼肉をほおばり始めた。
色々誤解はあったものの、好き嫌いせず食べてくれるようになってくれてホッと一安心だ。
ちょっとエルフの神秘性が台無しな気もするけど。
「ユメレは故郷の肉が苦手」
「だって……臭いし堅いしで食べれたものじゃないもん」
「でもこの世界の肉は?」
「美味!」
「は、はは……それにしても良かった。僕ちょっと焦っちゃったよ」
ユメラちゃんの粗暴さには驚かされたけど、それもすべてはユメレちゃんの事を想ってなのだろう。
そうも考えると、僕達には彼女達に対する理解がまだまだ足りていないって痛感させられる。
異世界エルフに対しても、この姉妹の在り方に対しても。
なら下手に干渉するより、自由にさせてあげた方がいいのかもしれないな。
思う通りに、考えるままにね。
その姿を見て、僕達も二人の事を学ぶ必要があると思うから。
「この世界には」「こんなに美味しい物が存在するのですね」
「とても強く」「興味が湧きました」
「だったら明日、せっかくだからお出かけでもしてみたらどうかしら?」
「いいんじゃない? それなら幻花も付き合ってあげる」
「ちょ……姉さん幻ちゃん何言ってるの!?」
どうやらその考えは姉さんも幻ちゃんも同じだったらしい。
ただしこの提案以外は、だけど。
姉さんも幻ちゃんもすでにその気満々だ。
おまけに双子ちゃんも嬉しそうだし、これはもう止められそうにないんだけど!?
これは明日、一体どうなっちゃうんだ……!?
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