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第52話 公式に外へと出られるには理由がある
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「レネンでぇーす!」
「ウィヤでっす!」
「「二人揃って、きつたぬ娘でーっす!」」
「うーん、色々とギリギリだなぁこの二人」
面識の少ない二人の自己紹介を皮切りに、一週間の休業間生活が始まった。
一〇人の女性が僕の家へホームステイするという状況下で。
おかげで姉さんの表情の乱れと指の動きが半端ない。
よりどりみどりだとか心の中で思っていそうな顔でとても怖いです。
なお手を出したらフェロちゃんの電撃が待っているので、実際には手が出せない模様。姉さんに関してはひとまず問題ない。
「以前にも伺いましたが、こちらのお家はとても手入れが行き届いていて住みやすそうですね。外界も素敵な街並みでしたし、これから一週間、とても楽しみですっ」
「「「ねーっ! 楽しみーっ!」」」
「う、うん、そうだね……でも外出となるとちょっと心配ではあるかな」
「あら、それはどうしてでしょう?」
「ほら、このメンツがどうしても特殊過ぎるからさ……」
だけど肝心のホームステイメンバーにこそ問題が大いにある。
まだエルプリヤさんやユメラちゃんとユメレちゃんはいい。
ピーニャさんもまだネコミミと尻尾があるだけだから誤魔化しは効くだろう。
だが他のメンバーは総じてアウトだ。
メーリェさんは角や尻尾よりも体付き的に不自然過ぎる。
レミフィさんも当然の事ながら大きい耳が隠しようもない。
フェロちゃんに至っては翼がまずどうにもならないし。
レネンさんもウィヤさんも獣人というかもう動物顔そのもの。
ロドンゲさんに至っては論外だ。
家にいるならまだ何とでもなるけれど、外に出るのは無理がある。
少なくともこの外見をどうにかしなければ、まず間違いなく家から一歩出ただけで通報レベルだろう。
「ふふっ、まさか夢路さん、外見が問題だから外に出れないんなんて思っていませんか?」
「えっ……?」
「ふっふっふー、実はですね、そうでもないのですよ。そう、皆さんが総じてこの場に平然といられる理由を考えてみてください!」
「――あっ!」
「その秘密は、なんと皆さんの胸に付けたピンバッジにこそあるのですっ!」
だがそんな事など、どうやらエルプリヤさんにはお見通しだったらしい。
そんな彼女が得意げにこう語ると、全員が揃ってバッジをキラリと輝かせる。
一目見ればネクタイピンにも見えるクリップ式のバッジ。
しかし旅館えるぷりやのメタルロゴが金色に飾られ、妙に豪華だ。
なんだか僕も欲しくなるようなデザインじゃあないか!
「これこそ外出用の必須アイテム! 実はこのバッジには転移先の環境に適応させる能力が備わっているのです。その適応手段によっては姿さえ変身させる事が可能なのですよ……!」
「な、なんだって!?」
「さぁ見てください、その変身っぷりを!」
「あっ!? なんだ、ロドンゲさんが輝いて――」
すると図ったかのようにロドンゲさんが宙に浮く。
しかも突然周囲の景色が虹色の無限空間に包まれてしまったー!?
ロドンゲさんが触手を伸ばすごとに光が弾け、姿が変わっていく!
触手が腕に、脚に、煌びやかな衣装にかわって宙を舞っているのだ!
そしてくるりと一回りし、遂に体が、頭が変化した。
長い桃色のツインテールと跳ねた髪がまるで触手のように揺らめき舞う。
その手に携えた虹色のロッドを振りかざし、幾つもの星をばら撒きながら。
最後には可愛くウィンクし、笑顔を振り撒き虹色の背景でポーズを決めるのだ。
「触手魔法少女プリティーロドンゲ! ただいまぬるぬりっと降☆臨ッ!」
なんなんだこの変身バンクーーーッ!!!!!
あとロドンゲさんも女の子だったのーーーッ!!!??
「――っていうか触手魔法少女って何!?」
「実はロドンゲさんはですね、触手界の魔法少女なんですよ。悪の帝王を倒して触手界を平和にした後、憩いを求めて旅館にやって来たのです」
「触手界の魔法少女……! 情報量がそれだけで過多過ぎる……!」
それでもって変身バンクはロドンゲさんだけに留まらなかった。
変身が必要無いピーニャさんも含め、アウトな皆様が順々に変わり始めたのだ。
それもなぜか順々に、しっかりとしたキラッキラの演出を見せつけながら。
僕は途中で死んだ魚の目となりながらもその光景を眺め続けた。
だって長いわりに、変身しても一部部位が無くなる程度の変化だったんだもの。
そして最後にエルプリヤさんが着物から普通の白ワンピースに変わる変身を見せつけられてようやく茶番は終了。
まぁ一応レネンさんとウィヤさんがちゃんと人の顔になってくれたので、その成果だけはとりあえず拍手で讃えてみた。
「これで全員がなんて事なく表に出られると思います。どうでしょう!?」
「ダメです」
「「「ええーーーっ!?」」」
だけどこれで外に出られるかと言えば多分、変身者はほぼアウトだ。
ただ姿を人に近づければいいってものじゃないんだから。
ちなみに何がダメかというと――
「まだエルプリヤさんはいいですよ? 美人さんってだけだから」
「まぁ美人だなんてそんなぁんっ!」
「でもみんな髪の色が変わらないし、そもそもロドンゲさんに至っては桃色の髪に魔法少女の衣装ってそれ完全にアウトです! 着替え必須です!」
「うにゃー!?」
「あとメーリェさん、その肉体は人前では凶器です」
「がーん! そ、そんなぁ~あんまりですぅ~!」
「レミフィさんは人の背に乗るのはやめましょう! 姿以前の問題です!」
「なん、だ……と……!?」
「変身して完全セーフなのは地毛が茶色いウィヤさんくらいかな。レネンさんもその鮮やかな白金髪はちょっと怪しいけどまぁギリギリいけるかって感じ」
「地味子の勝利ぃ~! フゥ~!」
「やるわねーウィヤ」
ほとんどの変身要素が薄いので根本的な特徴がどうしても残ってしまっている。
この変身姿のままではきっと「怪しいコスプレ集団」と誤解されてしまうだろう。
これならまだ着ぐるみを着て闊歩した方がマシだ。
一週間を平和に過ごすためにもこのままではいけない。
少なくとも日本文化を楽しむならちゃんと普通の人に姿を近づけないと!
なのでそれからというものの、夢路プロデュースによる変身最適化の特訓が始まった。
変身姿がより一般人に近くなるよう調整を入れつつ、何度も何度も変身を繰り返して理想の姿へと近づけようとしたのだ。
その作業は深夜になろうとも続いた。
光が漏れて近隣住民から苦情が来ようとも、カーテンを仕切って繰り返して。
たとえピーニャさんやメーリェさんが過労で干からびようとも叩き起こし、トライアンドエラーでただひたすら挑戦し続けたのである。
机の上に置かれた栄養ドリンクの空瓶はもはや本数知れず。
補給物資を調達する姉でさえ倒れ、続行はもはや不可能かとさえ思われた。
だがそれでも僕達は諦めずただひたすらAI生成のごとく変身を繰り返し、理想の姿を追い求め続ける。
そして翌日の早朝、ついに全員の姿を安定させる事に成功したのだった。
「ロドンゲさんはとりあえずもう服を変えるだけでいいかな」
「なんかーわたしだけー適当な気がするぅー!」
「人の姿になっただけでも奇跡だってわかったからね……」
まだ一部不安要素はある。
しかしもうかなり現代人風に近づけられたから問題はないはず。
あとは彼女達が奇行に走りさえしなければ、ただそれだけ。
そんな一抹の不安を抱きつつも、僕達は息を合わせて完遂成就の雄叫びを上げ、そのまま倒れるように寝落ちした。
彼女達が初めて体験するであろう日本文化を思う存分楽しんでもらう為にも、今はゆっくりと英気を養ってもらうとしよう。
さすがに僕ももう目が痛くてしょうがないし。
「ウィヤでっす!」
「「二人揃って、きつたぬ娘でーっす!」」
「うーん、色々とギリギリだなぁこの二人」
面識の少ない二人の自己紹介を皮切りに、一週間の休業間生活が始まった。
一〇人の女性が僕の家へホームステイするという状況下で。
おかげで姉さんの表情の乱れと指の動きが半端ない。
よりどりみどりだとか心の中で思っていそうな顔でとても怖いです。
なお手を出したらフェロちゃんの電撃が待っているので、実際には手が出せない模様。姉さんに関してはひとまず問題ない。
「以前にも伺いましたが、こちらのお家はとても手入れが行き届いていて住みやすそうですね。外界も素敵な街並みでしたし、これから一週間、とても楽しみですっ」
「「「ねーっ! 楽しみーっ!」」」
「う、うん、そうだね……でも外出となるとちょっと心配ではあるかな」
「あら、それはどうしてでしょう?」
「ほら、このメンツがどうしても特殊過ぎるからさ……」
だけど肝心のホームステイメンバーにこそ問題が大いにある。
まだエルプリヤさんやユメラちゃんとユメレちゃんはいい。
ピーニャさんもまだネコミミと尻尾があるだけだから誤魔化しは効くだろう。
だが他のメンバーは総じてアウトだ。
メーリェさんは角や尻尾よりも体付き的に不自然過ぎる。
レミフィさんも当然の事ながら大きい耳が隠しようもない。
フェロちゃんに至っては翼がまずどうにもならないし。
レネンさんもウィヤさんも獣人というかもう動物顔そのもの。
ロドンゲさんに至っては論外だ。
家にいるならまだ何とでもなるけれど、外に出るのは無理がある。
少なくともこの外見をどうにかしなければ、まず間違いなく家から一歩出ただけで通報レベルだろう。
「ふふっ、まさか夢路さん、外見が問題だから外に出れないんなんて思っていませんか?」
「えっ……?」
「ふっふっふー、実はですね、そうでもないのですよ。そう、皆さんが総じてこの場に平然といられる理由を考えてみてください!」
「――あっ!」
「その秘密は、なんと皆さんの胸に付けたピンバッジにこそあるのですっ!」
だがそんな事など、どうやらエルプリヤさんにはお見通しだったらしい。
そんな彼女が得意げにこう語ると、全員が揃ってバッジをキラリと輝かせる。
一目見ればネクタイピンにも見えるクリップ式のバッジ。
しかし旅館えるぷりやのメタルロゴが金色に飾られ、妙に豪華だ。
なんだか僕も欲しくなるようなデザインじゃあないか!
「これこそ外出用の必須アイテム! 実はこのバッジには転移先の環境に適応させる能力が備わっているのです。その適応手段によっては姿さえ変身させる事が可能なのですよ……!」
「な、なんだって!?」
「さぁ見てください、その変身っぷりを!」
「あっ!? なんだ、ロドンゲさんが輝いて――」
すると図ったかのようにロドンゲさんが宙に浮く。
しかも突然周囲の景色が虹色の無限空間に包まれてしまったー!?
ロドンゲさんが触手を伸ばすごとに光が弾け、姿が変わっていく!
触手が腕に、脚に、煌びやかな衣装にかわって宙を舞っているのだ!
そしてくるりと一回りし、遂に体が、頭が変化した。
長い桃色のツインテールと跳ねた髪がまるで触手のように揺らめき舞う。
その手に携えた虹色のロッドを振りかざし、幾つもの星をばら撒きながら。
最後には可愛くウィンクし、笑顔を振り撒き虹色の背景でポーズを決めるのだ。
「触手魔法少女プリティーロドンゲ! ただいまぬるぬりっと降☆臨ッ!」
なんなんだこの変身バンクーーーッ!!!!!
あとロドンゲさんも女の子だったのーーーッ!!!??
「――っていうか触手魔法少女って何!?」
「実はロドンゲさんはですね、触手界の魔法少女なんですよ。悪の帝王を倒して触手界を平和にした後、憩いを求めて旅館にやって来たのです」
「触手界の魔法少女……! 情報量がそれだけで過多過ぎる……!」
それでもって変身バンクはロドンゲさんだけに留まらなかった。
変身が必要無いピーニャさんも含め、アウトな皆様が順々に変わり始めたのだ。
それもなぜか順々に、しっかりとしたキラッキラの演出を見せつけながら。
僕は途中で死んだ魚の目となりながらもその光景を眺め続けた。
だって長いわりに、変身しても一部部位が無くなる程度の変化だったんだもの。
そして最後にエルプリヤさんが着物から普通の白ワンピースに変わる変身を見せつけられてようやく茶番は終了。
まぁ一応レネンさんとウィヤさんがちゃんと人の顔になってくれたので、その成果だけはとりあえず拍手で讃えてみた。
「これで全員がなんて事なく表に出られると思います。どうでしょう!?」
「ダメです」
「「「ええーーーっ!?」」」
だけどこれで外に出られるかと言えば多分、変身者はほぼアウトだ。
ただ姿を人に近づければいいってものじゃないんだから。
ちなみに何がダメかというと――
「まだエルプリヤさんはいいですよ? 美人さんってだけだから」
「まぁ美人だなんてそんなぁんっ!」
「でもみんな髪の色が変わらないし、そもそもロドンゲさんに至っては桃色の髪に魔法少女の衣装ってそれ完全にアウトです! 着替え必須です!」
「うにゃー!?」
「あとメーリェさん、その肉体は人前では凶器です」
「がーん! そ、そんなぁ~あんまりですぅ~!」
「レミフィさんは人の背に乗るのはやめましょう! 姿以前の問題です!」
「なん、だ……と……!?」
「変身して完全セーフなのは地毛が茶色いウィヤさんくらいかな。レネンさんもその鮮やかな白金髪はちょっと怪しいけどまぁギリギリいけるかって感じ」
「地味子の勝利ぃ~! フゥ~!」
「やるわねーウィヤ」
ほとんどの変身要素が薄いので根本的な特徴がどうしても残ってしまっている。
この変身姿のままではきっと「怪しいコスプレ集団」と誤解されてしまうだろう。
これならまだ着ぐるみを着て闊歩した方がマシだ。
一週間を平和に過ごすためにもこのままではいけない。
少なくとも日本文化を楽しむならちゃんと普通の人に姿を近づけないと!
なのでそれからというものの、夢路プロデュースによる変身最適化の特訓が始まった。
変身姿がより一般人に近くなるよう調整を入れつつ、何度も何度も変身を繰り返して理想の姿へと近づけようとしたのだ。
その作業は深夜になろうとも続いた。
光が漏れて近隣住民から苦情が来ようとも、カーテンを仕切って繰り返して。
たとえピーニャさんやメーリェさんが過労で干からびようとも叩き起こし、トライアンドエラーでただひたすら挑戦し続けたのである。
机の上に置かれた栄養ドリンクの空瓶はもはや本数知れず。
補給物資を調達する姉でさえ倒れ、続行はもはや不可能かとさえ思われた。
だがそれでも僕達は諦めずただひたすらAI生成のごとく変身を繰り返し、理想の姿を追い求め続ける。
そして翌日の早朝、ついに全員の姿を安定させる事に成功したのだった。
「ロドンゲさんはとりあえずもう服を変えるだけでいいかな」
「なんかーわたしだけー適当な気がするぅー!」
「人の姿になっただけでも奇跡だってわかったからね……」
まだ一部不安要素はある。
しかしもうかなり現代人風に近づけられたから問題はないはず。
あとは彼女達が奇行に走りさえしなければ、ただそれだけ。
そんな一抹の不安を抱きつつも、僕達は息を合わせて完遂成就の雄叫びを上げ、そのまま倒れるように寝落ちした。
彼女達が初めて体験するであろう日本文化を思う存分楽しんでもらう為にも、今はゆっくりと英気を養ってもらうとしよう。
さすがに僕ももう目が痛くてしょうがないし。
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