妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.

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~第一章~

話し合い

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 目を擦りながら鼻をすすった。
  
  どれだけ泣き続けていたのかはわからないが、窓の外が赤く染まっている所を見るともう夕暮れなのだろう。

  私が落ち着きを取り戻したのを確認したのか、暖かな優しい香りと共にやって来たトロイは芳しい紅茶を私の前に置いた。

「此方をどうぞ……」

  白いハンカチを手渡してくる。
  だがそのには『ロドリー』と知り合いの名前が刺繍で施されていた。

  それを見た瞬間涙がグッと引っ込んだ。

「ねぇ……何でここにロドリーのハンカチがあるの?」

「あ、申し訳ありません。まだ必要最低限の物しかなく、ハンカチのご用意がありませんでした。」

  あんた!  普段からハンカチなんて持たないでしょ!
  何を今更っ!

「いや、そうじゃなくてロドリーのハンカチがどうしてこの場にあるのかを聞いているの!」

「ああ!  そうでしたか!  」

  いや、わかってた癖に白々しい!
  
「役に立っていたかは知りませんが、私が戻るまで護衛の代わりを勤めていたのですよ。奴等は……」

  トロイは草木や可愛らしい野花しかない庭が見える窓に視線を送った。

  ーーガサガサガサッ。
  ーードシャッ。
  ーーガシャーンッ。

  勢いよく木が揺れ、塀の向こう側から物音が聞こえ、更には部屋の奥から大きな物音が聞こえてきた。

「チッ……簡単に動揺しやがってーー。」

  苛立ったように溢すトロイを見ると、瞬時に満面の笑顔で「アクア様はあんな奴等、気にしなくていいですよ。せっかく護衛として城に残してやったのに、夜会であの女やクソガキをボコれなかった意気地無しなんて無視しましょうね。」と言ってきた。

  ええーー。それは酷でしょ!
  王女と認められた子と隣国の王子様だよ!?

  それに夜会で殺傷騒ぎなんて起きたら、私ビビって気絶しちゃうわ。何考えてるのよ!

  理不尽すぎる元上司の怒りに晒されているかつての護衛達が哀れだった。
  そしてとんでもなく恐ろしい事が頭の中に浮かんできた。

  あの日トロイアスが側にいてくれたら心強かったのにと思ってたが、あの現場に私至上主義の護衛が居たら被害拡大の上、連帯責任で皆揃って処刑台の上だったかもーー。

  恐ろしい事実に辿り着き背筋が凍った。
  
  そんな私を見越してか、「私が側にいたらその場でまとめて皆殺しです。その上で私がアクア様を安全な所へ連れ出しましたのに……ちょっと残念です。」本気で残念そうに溜め息をつく姿にちょっとした猟奇的な危険を感じた。
  だからこの荒くれ野獣の手綱は私が握り、決して緩めないと心に決めた。

  こいつを野に放つのは危険だ。

「それで?  騎士団は本当に良かったの?  私ならもう子供じゃないし、彼処からも離れたから危険の心配はもうしなくていいんだよ?」

  平民があそこまでのし上がるなんて本来凄い快挙だ。
  それを手放して冒険者になるなんてどうかしてる。
  しかも平民になった私の為に第三師団長の座を捨ててくるなんて常軌を逸している。

  だがそんなの関係ないと言わんばかりに平然とした顔で告げてきた。

「私は貴女の側を決して離れません。それは誰の命令でもありません、自分で決めました。それに子供じゃなくなったのは見ればわかります。……だから昔よりももっと心配なのです。」

「……え?」

「私の事を気遣って下さるのなら、護衛の邪魔はせずに私が貴女の側にいる事を許してくだされば良いのです。……何処にでもウジ虫とは沸いて出てくる物なのですから。」

「は?  ウ、ウジ虫……?」

「心配入りません。排除は得意なんで……」

「そう……」

  …………ワタシハナニモキイテマセン。

  どこの誰かはわからない方の御冥福を祈った。
  まぁトロイが動くなら良い奴ではないんだろうけど……
  


  夕飯は屋台で済ませるってオリヴァーさん達は言ってたけど、そろそろ帰らないと心配すると思って席を立った。

  そしてトロイに帰ることを告げて家を出ようとした。

「あ、そう言えばさ、私もう王女じゃないし。トロイと同じ平民なんだからその話し方やめない?  昔みたいに楽に話してよ。」

  私は扉の前で振り返ってそう言った。

  私としては昔みたいな気安い関係に戻りたいって意味だった。トロイもずっと7歳も歳下の小娘に気をつかうなんて嫌かと思って親切で言ったつもりだった。

  だがそれは大きな間違いだった。

  優しげな笑顔が歪み、ちょっとだけギラついた野獣の笑顔にシフトしていった。

「本当に?  アクア様は私が素の状態に戻る事をお望みですか?」

  だ、だって……私達は同じ平民で対等な訳だし。
  む、むしろ護衛されるのなら私が下な気が……いやいやいや、それはまずいか。

  野獣の手綱を離さないって決めたばかりだし、この上下関係がなくなったらもうこの男は誰にも止められない。

  でもトロイにだって自由になる権利がーー

  ぐちゃぐちゃと悩んでいると……

「アクアが望むのならすぐにでも素に戻るが、それで本当に後悔はしないんだな?」

  ニヤリと悪どくそして何だが厭らしい笑みで私に笑いかけてきた。

「俺はどっちでも良いぞ?  することは変わんねぇからな。……どうする?  アクア。」

  ギラついたトロイの瞳と厭らしい笑顔に体が何だがよくわからない感覚が走った。
  ゾクゾクするような、ゾワゾワするような、逃げ出したくなる感覚だった。

「もう捕まっちまうか?  俺に……」

  私の頬にゆっくりと手を伸ばしてくる。

  がっしりとした厚みのある大きな手がゆっくりと私に向かってくる。騎士としての努力を感じられるあの手にいつもなら安心するのだが、今日は何故かわからない恐怖が襲ってきた。

  きっとあの手に捕まった所で本当に私が酷いめにあうことはないだろう。
  あの手は私を傷つけはしない。

  それをわかっていたのに今までの安心と未知の恐怖を天秤にかけ本能的に未知の恐怖を選び、とっさに後ろへ下がってトロイの手を交わした。

  傷つけはしないと思うけど、あの手に一度捕まったらもう逃げ出せないような気がする……。 

  気がついた時には引きつった表情で前言撤回をして逃げ出そうと後ろ手でドアノブを握りしめた。

「うん、今のはやっぱ無しで!  私はトロイの主!  それでよろしく!」

  私の言葉を聞き、瞬時に護衛として猫を被ったトロイに戻った。

「承知致しました。……今日の所は見逃します。障害婚約者や身分はもう何もありませんし、これから時間は山ほどありますからね。」

  にこやかな笑顔でトロイが何か言ってたが、私は頭に響く危険信号に従ってその場から立ち去った。

  ……眠れる野獣を起こすべからず。
  あれはまだまだ私には早い領域だ。手を出してはダメだ。


  そう言い聞かせてオリヴァーさんの家に帰った。


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