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03.生贄への立候補

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子爵と言えども一応は貴族であるため、最小限と言えど執事やメイド等も居る。
逃げようと決意したところで、侍女や執事だけでなく門番の目をかいくぐる事は難しかった。
大きい荷物を用意する事も出来ないし、一人で外に出たところで誰かの目には留まってしまい、すぐに声をかけられた。
常に見張られているのではないかと錯覚する程で、一人になれていると実感できるのは部屋に篭っている時だけだと思えた。

(それなのに……誰も私の心に気がつかないのね……)

更に蝕む絶望感に、心は凍り、感情が消える。
そんな時、神様への貢物の話を耳にした。





貢物と言葉は良いが、結局は生贄の事を指している。
それは昔からの伝承。
神様が土地を守り潤して人の生活を成り立たせているといい、百年単位で神様へ感謝の貢物という生贄を差し出すのだという。
そして神殿の神官が、毎回生贄となる人物を選んでいるという。

(立候補はできないのかな?)

そんな考えがよぎり、すぐ神殿へ行く事を侍女に伝えた。
祈りを捧げたいなどと、それといった理由を執事に告げ、すぐさま準備をしてもらい、姉にまとわりつかれる前に私は堂々と一人で屋敷を後にする事が出来た。
きっと知ってしまえば、私に言えないの?とか、私が悩みを聞くわ?とか言い出して、私が話している最中にそんな事より~と言い出して話をすぐに変えてくる人だ。
姉が知る前に出てこれたのは幸いだったと思う。
これこそ、私が動くタイミングなんだと、チャンスなんだと、これから捧げられるであろう神に感謝する。



「何を……」

神殿に着いたら懺悔室のようなものではなく、奥にある応接室に通された。
多分、貴族という肩書きがあるため、平民の方達が恐縮しない為の処置であるだろうと想像は出来る。
護衛も部屋の外に待機していて、現在対応してくれている神官様と二人なため小声で生贄になりたいと伝えたら、驚愕の表情で言葉を失った。

「ご自分が、何を言っているかご理解していらっしゃるのですか?」
「もちろんです。それとも生贄となるには、何か条件でもあるのでしょうか」

神官の目を見据えて言う。
神官が選んでいると言うならば、選ぶ基準を知っているのではないだろうかと思い問いかけたが、神官は目を泳がせるだけだ。
百年に一度と言うのであれば、前回の選定に関わっているだろう人間は生きていない。せいぜい書物が残されているだけだろう。
立候補するものが居たという前例がないのだろうか。狼狽える神官に更に強い言葉でお願いする。

「是非とも私を神の元へ送っていただけますか」

そう言葉を紡いだ時、応接室の扉が開き、大神官様が入ってきた。
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