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10.皇帝陛下に甘やかされています
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森の中に小さな男の子が倒れている。
幼い私は駆け寄り、お父様と何か話しているのが見えるが、その声は私の耳にまで届かない。
場面が変わり、ブラッドリー公爵家の庭園で仲良くお茶をし話す二人。
とても楽しそうに笑っているのが見える。
あれは、私。
なら相手は——?
◇
薄ら明るくなる部屋で目を覚ました。ちょうど陽が登ってきたような時間なのだろう。
優しい暖かな光がカーテンの隙間から漏れている。
——…夢?
幼い自分と誰かが居たような気がする。ハッキリと思い出せない。
隣国へ来て、早一週間が経とうとしている。
足の状態を見るに、まだ歩いてはいけないと言われ、椅子に車輪がついたような車椅子という物に乗せて移動させてもらっているが、いつも押してもらうのも悪いと思ってしまい、結局部屋に篭もりがちになってしまっている。
しかしここはアルロス帝国。ディスタ国とはまた違った蔵書があり、しかもここはお城なのだ。
城の中にある図書室は広く、蔵書の数は計り知れず、読書に勤しみ楽しんでいる。
「今日は帝国の歴史書か」
「えぇ、帝国独自の作物に関しての本は読み終わりましたの」
「帝国に興味を持ってくれて嬉しいな、リア。」
今日は侍女の方々に帝国の歴史が書かれている本を持ってきてくれるよう頼んで読んでいたら、ティン様が仕事の合間にお茶をしに来た。ティン様は休憩時間には毎回私のお部屋にお茶をしに来てくれる。そして隣に座るので、とても距離が近く、いつもドキドキしてしまう。
そして今日は私が帝国の本を読んでいる事に気がついて、嬉しそうに笑みを浮かべているティン様に対して、ますます顔が赤くなっていくのが分かる。
ただこれだけの事で、こんなに喜んでもらえるなんて…。
「…ディスタ国の本はほとんど読み終わってしまっているので…新しい知識をつけられたらと…」
恥ずかしくて、思わず言い訳めいた事を言ってしまう。
「そうなのか?凄いなリアは。昔から努力家だったのは知っているが」
そう言ってティン様は私の腰に手を回して引き寄せる。
ますます早くなる鼓動がバレないかと思いながら、赤みを増す顔を隠すように俯く。
「可愛いなリアは。そろそろ足も回復に向かっているそうだ。歩けるようになったら街に行こう。案内するよ」
「本当ですか!?」
嬉しくて顔を上げたら、目の前にティン様の顔があり、また慌てて俯く。
動悸が激しくてこのまま死んでしまうんじゃないかという位に息苦しい。
そんな私の様子に声を押し殺し笑っているのか、ティン様の身体が少し震えているのが分かる。
最近、貴族令嬢らしからぬようになってきている気がする。ティン様に甘やかされて、表情も出やすくなっているのではないか。そう思って自分の手で顔を触っていると、大きな手が頭を撫でた。
「素のリアが良いんだよ。悲しんでなさそうで良かった。毎日幸せそうに笑っていて欲しい」
優しい笑顔で、慈しむ声で囁かれる。
そうだ、私毎日楽しんでいる。卒業パーティからまだ一ヶ月程しか経っていないのに。
とても悲しくて悔しくて…でもその時の事を思い出しても、胸が痛む事はない。そもそもアーサー様、もとい王太子殿下に対しては思うところもなく、臣下として、貴族として、婚約者として、未来の王太子妃として。そんな私ではなく私に付随するようなものの為だけに動いていた。
今思えば、大事にされなくて当然かもしれないとさえ思える。
私を私として見てくれる、目の前にあるティン様の笑顔につられるように、私も笑顔になるのだった。
幼い私は駆け寄り、お父様と何か話しているのが見えるが、その声は私の耳にまで届かない。
場面が変わり、ブラッドリー公爵家の庭園で仲良くお茶をし話す二人。
とても楽しそうに笑っているのが見える。
あれは、私。
なら相手は——?
◇
薄ら明るくなる部屋で目を覚ました。ちょうど陽が登ってきたような時間なのだろう。
優しい暖かな光がカーテンの隙間から漏れている。
——…夢?
幼い自分と誰かが居たような気がする。ハッキリと思い出せない。
隣国へ来て、早一週間が経とうとしている。
足の状態を見るに、まだ歩いてはいけないと言われ、椅子に車輪がついたような車椅子という物に乗せて移動させてもらっているが、いつも押してもらうのも悪いと思ってしまい、結局部屋に篭もりがちになってしまっている。
しかしここはアルロス帝国。ディスタ国とはまた違った蔵書があり、しかもここはお城なのだ。
城の中にある図書室は広く、蔵書の数は計り知れず、読書に勤しみ楽しんでいる。
「今日は帝国の歴史書か」
「えぇ、帝国独自の作物に関しての本は読み終わりましたの」
「帝国に興味を持ってくれて嬉しいな、リア。」
今日は侍女の方々に帝国の歴史が書かれている本を持ってきてくれるよう頼んで読んでいたら、ティン様が仕事の合間にお茶をしに来た。ティン様は休憩時間には毎回私のお部屋にお茶をしに来てくれる。そして隣に座るので、とても距離が近く、いつもドキドキしてしまう。
そして今日は私が帝国の本を読んでいる事に気がついて、嬉しそうに笑みを浮かべているティン様に対して、ますます顔が赤くなっていくのが分かる。
ただこれだけの事で、こんなに喜んでもらえるなんて…。
「…ディスタ国の本はほとんど読み終わってしまっているので…新しい知識をつけられたらと…」
恥ずかしくて、思わず言い訳めいた事を言ってしまう。
「そうなのか?凄いなリアは。昔から努力家だったのは知っているが」
そう言ってティン様は私の腰に手を回して引き寄せる。
ますます早くなる鼓動がバレないかと思いながら、赤みを増す顔を隠すように俯く。
「可愛いなリアは。そろそろ足も回復に向かっているそうだ。歩けるようになったら街に行こう。案内するよ」
「本当ですか!?」
嬉しくて顔を上げたら、目の前にティン様の顔があり、また慌てて俯く。
動悸が激しくてこのまま死んでしまうんじゃないかという位に息苦しい。
そんな私の様子に声を押し殺し笑っているのか、ティン様の身体が少し震えているのが分かる。
最近、貴族令嬢らしからぬようになってきている気がする。ティン様に甘やかされて、表情も出やすくなっているのではないか。そう思って自分の手で顔を触っていると、大きな手が頭を撫でた。
「素のリアが良いんだよ。悲しんでなさそうで良かった。毎日幸せそうに笑っていて欲しい」
優しい笑顔で、慈しむ声で囁かれる。
そうだ、私毎日楽しんでいる。卒業パーティからまだ一ヶ月程しか経っていないのに。
とても悲しくて悔しくて…でもその時の事を思い出しても、胸が痛む事はない。そもそもアーサー様、もとい王太子殿下に対しては思うところもなく、臣下として、貴族として、婚約者として、未来の王太子妃として。そんな私ではなく私に付随するようなものの為だけに動いていた。
今思えば、大事にされなくて当然かもしれないとさえ思える。
私を私として見てくれる、目の前にあるティン様の笑顔につられるように、私も笑顔になるのだった。
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