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(早く終われ~!)

 私が目を瞑っていても関係ないのだけれど、心情的に目を瞑ってしまう。
 ゆっくりお湯をかけ、撫でるような手つきで洗う王太子殿下は、私……というか猫に対する優しさが見える。
 洗われて、タオルドライをされた後、しっかり毛を乾かしてブラッシングしてくれて……うん、極楽。
 普通の貴族……というか、義妹ならばお風呂で洗ってもらった後にマッサージ等をしてもらっている。そんな感じなのだろうかと、自分の身分を考えれば若干惨めな気持ちがうかぶけれど、お風呂に入れただけで充分幸せだ。

「よし、しっかり乾いたな!」

 ブラシを片手に、満足そうに王太子殿下は言い、そのまましっかりと私の身体を撫でた。

(あ~もう好きにして……)

 ここまでされれば、もう抵抗する気力もない。というか護衛の筈なのに、何でこんな至れり尽くせりなんだろう。
 もうワケが分からないと言った感じで、考える事を放棄していれば、私をゆっくり抱き上げた王太子殿下は、何故か私のお腹に顔をうずめた。

(!?)

 人は焦ると固まるというか、声も出せなくなるというのは、この事か。
 思考回路が止まり、何も考えられない。というか、今この状態は現実ですか!?実際起こっている事なのですか!?と、現実逃避をしているかのような思考から始まった。
 そして、抵抗しない私を良い事に王太子殿下は、まさかのまさか!私を吸ったのだ。

「あぁ~イルは良い匂いだなぁ~」
「にゃぁああああ!!!???」

 挙句、言葉にまで表されるとか、どんな羞恥よ!
 思わず手足をバタつかせて、その手から逃れようとするけれど、腕の下をしっかり抱きかかえられているので、なかなか抜け出せない。
 けれど、そこは猫の身体。特有の滑らかな動きで逃れると、見事に床へ着地した。……といっても、ふかふか絨毯。肉球で衝撃を吸収するより、絨毯で衝撃が吸収されている。……高級なものって凄い……。

「照れてるのか? イルはメスだからな~」

 どこを見て言ったんだ!むしろどこを見たんだ!!ナニを見たんだー!!
 思わず怒鳴ってしまいたくなる衝撃を、なけなしに残っている理性で何とか押しとどめる。というか、羞恥心で言葉すら発せられない。
 こんな事があるんだと、頭のどこか冷静な部分で思うのは、ただの現実逃避でしかないのだろうけれど。人間、驚きすぎるとこんな事になるんだと初めて知った。

「よし! じゃあ一緒に寝るか!」

 続いた言葉に毛を逆立て、逃げ回った。しかし、そんな私を気にする事もなく、自分の欲を優先する王太子殿下にしっかり捕まれば、そのままベッドに連行された。……がっちりと抱きしめられたまま。
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