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55: 俺には解読できない暗号で書かれていたのかと思う程。
しおりを挟む「ちょっと見せて。」
と恋心に言われるままに手紙を渡し、次いでにアパルトマンに置きっぱの文机の引出しから、他のオキナから貰った手紙も渡す。
この文机や箪笥など、実家から持ってきた家具はデカイから殆どアパルトマンに置きっぱなしなのだ。
皆引出しの中は見ないし、インクとか、共有して良いモノは机上に置いて皆で使ってる。その方が古くなってインクがネトネトに…みたいな事が無いし。とか思ったんだけど、この五年間殆ど踊り子専用文机と化していたな…。
武骨な机上の隅にブックエンドで仕切られた色取り取りの封筒と文香にちょっと癒される。
「……わぁぁ、アンタ…。ネオン、オキナとやらはアンタに話したい事があるみたい。ゆっくり話せる時間が欲しいって書いてあるよ。後、アパルトマンと違う所で一人暮らししてるのが心配なんだって。」
そんなこと手紙に一言も書いて無かったよ!?
「見て…毎回断られるから、可哀想に…前々回からは3店舗も提案してるわ。場所の提案を複数するのはマナー違反なのに…。」
「あーあ、此方も見て。前回はもう、飲食店が嫌なのか?図書館みたいな所なら会えるのか?何処なら会える?言って欲しい!って直接聞いちゃってる。マナーをかなぐり捨てたわね…。」
もう、ワケわかんなくて全部手紙を見せたんだけど、本当に恋心や乙女心の言ってる事が書いてあるなんて信じられない……。どの文面からそう読み解くんだ?
貴族としての教養は全て家庭教師から習った筈なのに、まるで外国の文化みたいに違う事を言われて俺は何だか頭痛すら覚えた。
「手紙で、誘う人が相手に行き先を決めさせるって、かなりダメなヤツでしょ?二人で喋ってる時は良いけど、手紙では絶対やっちゃダメって習ったよ?品がないと幻滅されて太客失うって…。」
何それ?
「いやまぁ、これは貴族と踊り子じゃなくて貴族間だから太客失うとかは無いけれど、それでも普通は幻滅される書き方よ。玉綴りはやっちゃダメだし、こんな手紙送ってくるヤツに御愛想しちゃダメよ?」
本当に?? 本当に、そんな様式やマナーがサキュレントにあるの?
「まぁ、この手紙の主は、話が通じてない気がして此処まで書いたんだろーけど。
普通は、此処まで書かれる前に誘い直すか、二度と手紙送ってくんなカス!みたいにハッキリしたお返事するからね……。」
いや、ぶっちゃけ、そこまで書いてくれたらしいけど、それでも俺は意味判んなかったけどな……。
取り敢えず、ちょっと頭を冷やしたくて、俺は文机で父上の手紙に対する返信を書いた。と、そこで思い直す。
「……そうだ、俺が習った貴族の手紙の書き方はこれだよ!これ!」
ほら!と恋心に鼻息も荒く父上の手紙を渡す。
まぁ、だからって、俺がオキナからの手紙を理解できなかった事は変わらないんだけどさ。
まるで俺が貴族の常識やら教養を全く知らないヤツみたいな目で見てた恋心が訝しげに俺から手紙を受け取り、片眉を跳ね上げた。
「ホントに~?…どれどれ…王歴三九年初冬の月の六日にブレーカー家当主ソード・ブレーカーが此れをしたため、ブレーカー家五男ネオン・ブレーカーに告ぐ。今年度、其方はデビュタントで在るにも関わらず…?未だデビュタントの予定報告が為されぬ故に……?ちょっとネオン、アンタ何やらかしたらこんな手紙来るワケ?」
「え、いや、普通に普通の手紙だけど…?」
首を傾げる俺に、"いや全然普通じゃないわよ!"とばかりに踊り子達の視線が突き刺さった。
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