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第70話 落着と旅立
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城の謁見の間に戻ったロッドがざっと見回すと、倒れているローモンドや泣いているジョアンナが目に入った。
リーンステアが赤いオーラを纏っており、周囲には犬型の魔獣の死骸が散乱している。
国王や宰相、警備兵達も全員ではないが健在の様であった。
但し、姿似の悪魔の姿は何処にも無かった。
自身が戦闘するタイプでは無かった為か、形勢不利と見るやいつの間にか逃亡していたのである。
「待たせて済まない。外の魔物は全て倒してきた。状況はどうなっている?」
ロッドが仲間に向けて訪ねた。
「ロッドさん! ローモンド子爵が……」
「姿似の悪魔の魔法から私達を庇ってくれたんです……」
ジュリアンとジョアンナが悲痛な顔でロッドに説明した。
「そうか……」
それを聞いたロッドに驚きは無かった。
恐らくローモンドは、ずっと自分の罪を贖うつもりでいたのだろう。
自分を犠牲にして二人を助けられたのであれば、むしろ本望だったはずだ。
「ロッド様、申し訳ありません。私が付いていながら犠牲者を出してしまいました。それに姿似の悪魔の逃亡も許してしまいました」
アイリスがロッドに頭を下げる。
「いや、アイリス。恐らくこれはローモンド子爵の贖罪だ。彼の覚悟にこそ敬意を払おう。姿似の悪魔は次に見つけ次第始末するさ」
ロッドはアイリスに答え、目を瞑ってローモンドの冥福を祈るのであった。
ーー
国王の眼前での一連の騒動により、ロードスター辺境伯家への謀反の疑いは完全に晴れた。
何しろ疑惑を持ち込んだ当事者が悪魔だったのである。
ブランドル伯爵家にも取り潰しの話が出たが、主たる被害者であるアルフレッドが強硬に主張して、伯爵家は存続できる事になった。
国王には貴族連合軍の事も共有し、参加貴族達は王国の恥を晒したとして処罰される事になった。
ロッドは国王や辺境伯に請われて、王家の子供たちや王都の重症者達の治療を行ない、褒美としてある程度まとまった金貨を受領した。
例によって王家や冒険者、傭兵団などからの誘いも全て断わるのであった。
そしてロッド達は数日後、ローモンドの遺体を連れて辺境伯領に帰った。
ロッドの〔瞬間移動〕で一瞬にして辺境伯領に戻った一行は、ローモンド子爵家に連絡を取り葬儀を執り行なった。
その後、ロッドは新たに旅立つ日を定め、各人がその日に向けて修行や研究、復興の手伝いなど忙しい日々を過ごすのであった。
ーーーーー
そしてとうとうロッド達が旅立つ日がやってきた。
朝食を済ませた皆は、辺境伯城の中庭に集合した。
まずロッドは膝をついてマリーと向き合う。
「マリー。今まで嘘を吐いていてごめん。もう気付いているかも知れないが、マリーの父と兄は死んでしまったんだ。騙すような事をしてしまった。許してくれ……」
マリーはロッドに抱き着いて言った
「うん。何となく分かってた。もうお兄ちゃん達には会えないんじゃないかって……」
ロッドもマリーを軽く抱き締めながら言った。
「俺はマリーの死んだ兄に約束したんだ。マリーの事は任せてくれって。だが、俺の旅は危険過ぎてマリーを連れて行く事は出来ない。だからジュリアンやジョアンナと、この城で待っていてほしい」
「うん。マリー待ってる。だから絶対帰ってきてね!」
マリーは泣きながら言った。
「この〈サイコストーン〉を持っていてくれ。これは俺の念力を凝縮させた石だ。これを持って強く念じれば、俺と通じる事が出来る」
ロッドは貴族連合軍に滅ぼされた村の件で、再発防止策をアイリスと考え、最終的に編み出したのがこの〈サイコストーン〉であった。
〈サイコストーン〉を握って強く念じれば、位置をロッドが感知できるのだ。
それにより緊急事態などを知る事が出来るようになる。
ロッドはこの石をマリー、ジュリアン、ジョアンナ、リーンステアに渡した。
次にジュリアンとジョアンナ、リーンステアに向き直るロッド。
「既に気付いているかも知れないが、俺達はこの世界の神であるイクティス様の命で、邪悪な神の野望を断つために動いている」
「ロッド様はイクティス様の、この世界の創造神の血縁者なのです」
アイリスが補足する。
「「「「!」」」」
驚いて、跪こうとするジュリアン達をロッドが止める。
「いや、跪ずくのは止めてほしい。俺自身は人間だよ。血縁者というのは本当らしいが、別の世界で生きた記憶を持っているだけの、ただの人間だ」
ロッドが続けて話す。
「俺達は旅を続けなければならない。だからマリーをよろしく頼むよ」
「ロッド殿、マリーさんの事は任せてくれ。辺境伯である私が保証しよう」
辺境伯であるアルフレッドがロッドに答えた。
ジュリアンも頷く。
ジョアンナはロッドに駆け寄って抱き着いた。
「ロッド様。無事なお帰りをお待ちしています……」
ロッドもジョアンナの髪を優しく撫でながら答える。
「ああ。ハム美やピーちゃん達とも修行したし、俺は誰にも負けやしないさ」
そしてそのままの状態で、ジュリアン、リーンステアと握手を交わす。
「ロッドさん。お元気で」
「ロッド殿からいただいたご恩、忘れません……」
ロッドはジュリアンとリーンステアに頷いた。
「!」
急に空を見上げるミーア。
「どうした、ミーア?」
ロッドが尋ねる。
「イクティス神からの神託です! 北の大陸にある神聖国が不死者の軍勢によって滅びようとしていると! そこには貴重な物もあるのでロッド様に救って欲しいとの事です!」
ミーアが興奮したように答えた。
アイリスと顔を見合わせるロッド。
「分かった。次の行き先はそこにしよう」
ロッドはアイリス、ミーア、ハム美、ピーちゃんを見回して告げた。
「それではな。辺境伯、ジュリアン、ジョアンナ、マリーをよろしく頼む。リーンステアも引き続き皆を護ってくれ!」
ロッドはそう言うと超能力で〔サイコバス〕を生成した。
空に浮かんでゆく〔サイコバス〕の中から手を振るロッド一行。
ジュリアン達も涙で手を振り、見送るのであった。
リーンステアが赤いオーラを纏っており、周囲には犬型の魔獣の死骸が散乱している。
国王や宰相、警備兵達も全員ではないが健在の様であった。
但し、姿似の悪魔の姿は何処にも無かった。
自身が戦闘するタイプでは無かった為か、形勢不利と見るやいつの間にか逃亡していたのである。
「待たせて済まない。外の魔物は全て倒してきた。状況はどうなっている?」
ロッドが仲間に向けて訪ねた。
「ロッドさん! ローモンド子爵が……」
「姿似の悪魔の魔法から私達を庇ってくれたんです……」
ジュリアンとジョアンナが悲痛な顔でロッドに説明した。
「そうか……」
それを聞いたロッドに驚きは無かった。
恐らくローモンドは、ずっと自分の罪を贖うつもりでいたのだろう。
自分を犠牲にして二人を助けられたのであれば、むしろ本望だったはずだ。
「ロッド様、申し訳ありません。私が付いていながら犠牲者を出してしまいました。それに姿似の悪魔の逃亡も許してしまいました」
アイリスがロッドに頭を下げる。
「いや、アイリス。恐らくこれはローモンド子爵の贖罪だ。彼の覚悟にこそ敬意を払おう。姿似の悪魔は次に見つけ次第始末するさ」
ロッドはアイリスに答え、目を瞑ってローモンドの冥福を祈るのであった。
ーー
国王の眼前での一連の騒動により、ロードスター辺境伯家への謀反の疑いは完全に晴れた。
何しろ疑惑を持ち込んだ当事者が悪魔だったのである。
ブランドル伯爵家にも取り潰しの話が出たが、主たる被害者であるアルフレッドが強硬に主張して、伯爵家は存続できる事になった。
国王には貴族連合軍の事も共有し、参加貴族達は王国の恥を晒したとして処罰される事になった。
ロッドは国王や辺境伯に請われて、王家の子供たちや王都の重症者達の治療を行ない、褒美としてある程度まとまった金貨を受領した。
例によって王家や冒険者、傭兵団などからの誘いも全て断わるのであった。
そしてロッド達は数日後、ローモンドの遺体を連れて辺境伯領に帰った。
ロッドの〔瞬間移動〕で一瞬にして辺境伯領に戻った一行は、ローモンド子爵家に連絡を取り葬儀を執り行なった。
その後、ロッドは新たに旅立つ日を定め、各人がその日に向けて修行や研究、復興の手伝いなど忙しい日々を過ごすのであった。
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そしてとうとうロッド達が旅立つ日がやってきた。
朝食を済ませた皆は、辺境伯城の中庭に集合した。
まずロッドは膝をついてマリーと向き合う。
「マリー。今まで嘘を吐いていてごめん。もう気付いているかも知れないが、マリーの父と兄は死んでしまったんだ。騙すような事をしてしまった。許してくれ……」
マリーはロッドに抱き着いて言った
「うん。何となく分かってた。もうお兄ちゃん達には会えないんじゃないかって……」
ロッドもマリーを軽く抱き締めながら言った。
「俺はマリーの死んだ兄に約束したんだ。マリーの事は任せてくれって。だが、俺の旅は危険過ぎてマリーを連れて行く事は出来ない。だからジュリアンやジョアンナと、この城で待っていてほしい」
「うん。マリー待ってる。だから絶対帰ってきてね!」
マリーは泣きながら言った。
「この〈サイコストーン〉を持っていてくれ。これは俺の念力を凝縮させた石だ。これを持って強く念じれば、俺と通じる事が出来る」
ロッドは貴族連合軍に滅ぼされた村の件で、再発防止策をアイリスと考え、最終的に編み出したのがこの〈サイコストーン〉であった。
〈サイコストーン〉を握って強く念じれば、位置をロッドが感知できるのだ。
それにより緊急事態などを知る事が出来るようになる。
ロッドはこの石をマリー、ジュリアン、ジョアンナ、リーンステアに渡した。
次にジュリアンとジョアンナ、リーンステアに向き直るロッド。
「既に気付いているかも知れないが、俺達はこの世界の神であるイクティス様の命で、邪悪な神の野望を断つために動いている」
「ロッド様はイクティス様の、この世界の創造神の血縁者なのです」
アイリスが補足する。
「「「「!」」」」
驚いて、跪こうとするジュリアン達をロッドが止める。
「いや、跪ずくのは止めてほしい。俺自身は人間だよ。血縁者というのは本当らしいが、別の世界で生きた記憶を持っているだけの、ただの人間だ」
ロッドが続けて話す。
「俺達は旅を続けなければならない。だからマリーをよろしく頼むよ」
「ロッド殿、マリーさんの事は任せてくれ。辺境伯である私が保証しよう」
辺境伯であるアルフレッドがロッドに答えた。
ジュリアンも頷く。
ジョアンナはロッドに駆け寄って抱き着いた。
「ロッド様。無事なお帰りをお待ちしています……」
ロッドもジョアンナの髪を優しく撫でながら答える。
「ああ。ハム美やピーちゃん達とも修行したし、俺は誰にも負けやしないさ」
そしてそのままの状態で、ジュリアン、リーンステアと握手を交わす。
「ロッドさん。お元気で」
「ロッド殿からいただいたご恩、忘れません……」
ロッドはジュリアンとリーンステアに頷いた。
「!」
急に空を見上げるミーア。
「どうした、ミーア?」
ロッドが尋ねる。
「イクティス神からの神託です! 北の大陸にある神聖国が不死者の軍勢によって滅びようとしていると! そこには貴重な物もあるのでロッド様に救って欲しいとの事です!」
ミーアが興奮したように答えた。
アイリスと顔を見合わせるロッド。
「分かった。次の行き先はそこにしよう」
ロッドはアイリス、ミーア、ハム美、ピーちゃんを見回して告げた。
「それではな。辺境伯、ジュリアン、ジョアンナ、マリーをよろしく頼む。リーンステアも引き続き皆を護ってくれ!」
ロッドはそう言うと超能力で〔サイコバス〕を生成した。
空に浮かんでゆく〔サイコバス〕の中から手を振るロッド一行。
ジュリアン達も涙で手を振り、見送るのであった。
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