EDEN ―孕ませ―

豆たん

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 強化ガラスの向こうの光景に、藍川の双眸が見開かれる。


「…こ…れ、は……」


 大きなマットレスの上で、全裸の優輝が男に犯されていた。俯せのまま両膝を立て、尻だけを高く掲げた姿勢でズンズンと内奥を攻められている。

『あぁっ、ああぁっっ、いい…っ、いいっっ』

 仮面舞踏会で使用するようなマスクを着けられた藍川の目が、聞こえてくる嬌声に一瞬ぎゅっと瞑られる。出来れば耳も塞いでしまいたいと思ったが、何故か腕が動かない。瞑った瞼も、すぐに開いて再び眼前の淫猥な眺めを凝視した。客と思しき男が自身を突き入れている優輝の後孔から、激しいピストンに合わせぬちゃぬちゃと湿った音が響いてくる。

「今日の朝の部は、久し振りに見学者もおられなかったので特別に入室を許可しましたが、本来であれば長者番付に載るほどのセレブな方々しかこのギャラリーへ入ることは出来ません。ましてや子作り部屋への部外者入室などもっての外ですからこれ以上近付くのは無理ですが、他に人目もありませんので、心置きなくじっくりと息子さんの悦ぶ姿を見てあげて下さい。こんな物もありますが、使用されますか?」

 横に立つ真柴が差し出したのは高級そうなオペラグラス。暫し逡巡したものの、藍川は震える手でそれを受け取った。恐る恐る覗き込む。レンズの先に、高い位置で揺すられている優輝の腰が大きく見えていた。太腿で隠れ気味だった股間のモノも、拡大されてその様子が何とか視認出来る。揺れる息子のペニスには何かの器具が装着され、それも優輝に強烈な快感を与えているようだった。

『はぁぁっ! イくぅっ、イくぅぅっっ!!』

 迎えた極みに啼き叫ぶ優輝。喘ぐそのかんばせには、ゾクゾクするほどの色気が漂っていた。腰に着けられたベルトの赤、そして犯され悦がる我が子の恥態に、オペラグラスから目を離せない父の喉がゴクリと鳴る。

「……優輝……」

 心なしか膨らんできた股間にも気付かず、藍川は己の網膜に映る隣室の情景に時を忘れた。横目でそれを見ていた真柴が、唇の端を上げ微かにクスリと嗤う。

『ひぃっ、はひぃぃっっ! …いっ、イく~~~~~~っっ!!』

 ひと際高い優輝の啼き声に次いで、ベッド脇に設置された機器がピピピと電子音を発する。ぎょっとした藍川の目線の先で、機器類を操作しモニターチェックをしていた白衣の男が、笑顔で客に言った。

『おめでとうございます、神南かんなみ様。たった今受精が確認されましたので、種付け完了となります。一卵性の双子ですよ。3時間38分、まさに圧巻の孕ませでした』

 満足げにベッドを降りる客。俯せたまま大きく肩を上下させている優輝を、モニター係とは別に待機していた白衣男が抱えて室外へ運び出していく。その姿をガラス越しに目で追った藍川は、不安そうに振り返り真柴を見た。

「今回も見事に孕んでくれましたね。心配はいりません。妊娠した男子は、出産時間まで寝室で睡眠を取ることになっています。男子の妊娠期間は4時間ほどなので、夕方には可愛い赤ん坊が産まれてきますよ」

 深く嘆息してマスクを外す藍川。真柴は、オペラグラスを返してきた彼を促し廊下へ出ると、玄関扉に向かう。出た先のエレベーターで数階上のフロアへと移動した。





「お疲れのようですね。まぁこちらへお掛け下さい」

 豪華な内装と調度品で整えられたお客様用の個室ラウンジ。大きなソファセットと壁掛けテレビ、冷蔵庫付きのカップボードにミニバーまであり、多種の菓子や飲み物が用意されている。部屋の隅にあるドアの向こうは専用のラバトリーになっており、トイレやシャワーブースが設えられていた。
 一時間ほどの『種付け見学』でげっそりとやつれた感の藍川をソファに座らせる。クッションの利いた背凭れに凭れ込んだ彼は、目を閉じて天井を仰いだ。

「……あんな…、息子があんなふうになるなんて……。奥手で純情で、恋愛にさえ疎い子だったのに……」

「ですから、心して下さいと申し上げたでしょう? あれが今の優輝くんです。自分の体質と才能に目覚め、本能に従って在るべき形を見出した、彼の本来の姿なんですよ。僕はその切っ掛けを作ってあげただけに過ぎない。――藍川さん。これが息子さんの失踪の真実です。たとえどんなに貴方が受け入れ難いと思ってもね」

 力説する真柴の言葉を聴き、藍川は徐に目を開く。

「……本来の…優輝……」

 上向いたまま零された微かな呟き。真柴は畳み掛けるように話を続けた。

「――本当に、彼は優秀な名器男子です。一日二度の『子作りタイム』で、毎回必ず受精してくれるんですよ。だから、一日に最低でも2人の赤ん坊を出産しています。多胎妊娠も、さっきのような双子だけでなく、三つ子を産んだことだってあるんです。最初の妊娠からまだ半年しか経たないのに、彼が産んだ子供はもう370人を越えている。極上の快楽と確実な種付けを実現してくれる優輝くんは、お客様の捌け方もその人気も、他の子達の比ではありません。誰よりも抜きん出た妊娠能力を持つ、まさに最高の名器――。ひょっとすると、そういう体質に産まれ付いたからこそ、才能が開花するまでは純粋に育つ必要があったのかも知れませんね」

 顔を起こした藍川が、センターテーブルの上に置かれた一輪差しのバラを見る。棘が綺麗に処理された深紅のバラの花。ベルベットのような花弁は妖艶な美しさを纏い、なまめく優輝の姿態を思い起こさせた。

「――藍川さん。まだ、優輝くんを連れ帰りたいですか?」

 今の心持ちを確かめる真柴の面を正面から見据える藍川。何を見聞きしようとも、我が子への強い思いに変わりは無かった。

「……どんな体質でも、優輝は私の息子なんだ。…あの子自身の言葉が聴きたい――。会って話をさせてくれ…っ」

 尚も食い下がる彼に、真柴がふうと息をつく。根負けしたように頷いた。

「……分かりました。ですが、今すぐにというわけにはいきません。彼は今休んでいますから、会えるのは出産の後――夕方6時頃です。それまでに、貴方には健診を受けて頂きます」

 直に再会出来ると聞いて、藍川の眉間に刻まれていた皺がすうっと解れる。目元や口元に抑え切れない喜色を浮かべる彼だったが、真柴が口にした単語に首を捻った。『健診』とは何のことだろう。

「…健診…?」

「ええ。男子達の体はとても繊細です。風邪などのちょっとした不調でも、命を産み出してくれる大切な母体には影響が出てしまいます。なので、彼らに接触する人物には、必ず健康状態の厳密な検査を受けて頂いているんです。無症候性の感染症だって沢山ありますし、話をするだけと言っても、感染のリスクがあることには変わりないですからね」

 なるほど、それはもっともだ。普段なら気にも掛けない程度の軽い病であっても、妊産婦にとっては大きなリスクに繋がることがあるのだと知っている。出産で体力を消耗するであろう息子に感染うつしてしまうような事になってはいけない。

「……分かった。言う通りにしよう」

 承諾した藍川が返事を返すと同時に、真柴はすっくと立ち上がった。

「では、健診棟にご案内します。最新の技術と設備が整っていますので、すべての検査を終えて結果が出るまで2時間ほどです。オーケーが出ることを祈ってますよ」

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