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第四章
縋られる日々――ララシア⑩
しおりを挟む夕日が沈み、夜が訪れる。騒がしかった民も――静まる。一斉に跪いていた。彼らは一同に海の方を向いていた。
「……ああ、そうか。『儀式』の時間だ」
「……うん」
エドワード君がぽつりと呟いた。震える声の彼が、私はどうも気がかりだった。話題に出しても良さそうだったのに、彼はこの時までそうはしなかったのも。
エドワード君はそっと、私の手に触れてきた。それから自然と繋ぎ合わされる。心細いのが目に見えてきたから、私も拒むなんてしない。
「……すまない」
「ううん」
エドワード君は不安な心のまま、海辺へと向かっていた。
海に着くと、人が点在していた。彼らは皆、海に向かって祈りを捧げていた。
「……?」
辺りが霞みがかる。霧によって視界がぼやける。私は薄目で確認する。海に浮かんだ巨大な建物を視認した。
霧が晴れていく――淡く発光した宮殿が姿を現した。
「……この国の」
そういえば。私は思い出す。城にあたるものは見たことがなかった。こうして秘められたものだったから……。
太鼓の音がし、それから笛の音がした。一つだった音が、二つに。三つと。幾重に重なっていく。
光をまとって現れたのは、王冠をかぶった男性――おそらく、この国の王だ。威厳ある人物は、錫杖を天に掲げると次に水面に打ち立てた。海は一斉に波立つ。
「――水の女神よ。我がララシアにご加護を」
王は水の上で跪いた。海は応えるように、波打っていた。やがて、静まり返る。
「ララシアの民よ、正しくあれ――」
その言葉と共に、王は霧に包まれ。やがて消えていった。
「……すごい」
私は圧倒されていた。水の魔力によって、あの王様は浮いていたのかな。そう、水の魔力といえば――。
「すごかったね。ね、エドワード君――」
「……」
エドワード君は泣いていた……ただ静かに。
「……そうだ、これで良いのだ。正しき王が、こうして健在している」
彼は虚ろな瞳のまま、そう呟いていた。
「……王は健在だ。素晴らしき王によって、ララシアは永遠に続いていく――」
「……うん」
エドワード君の握る手は強くなっていた。私は彼の手を握り返していた――。
儀式は終わった。民達は帰路についていく。私たちもそう、それぞれの場所へ。
「……今日が終わりか。ここまでとなるか」
まだ手は繋がれたままだった。エドワード君からその手は離すことはない。
さすがに帰らないと、離れないとだから。私が解こうとするも、エドワード君はそれを許しはしない。
「そうだね……でも、帰らないと。ずっと一緒にいられるわけじゃない」
嫁入り前、とまでは言わない。それでも、私は帰る意思を示した。
「それは……」
エドワード君は考え込むも、そっと手は離した。私は笑いかけた。
「ありがとう、エドワード君。それじゃ、帰ろう?」
「余こそだ……ホテルまで送らせてくれ」
「……うん、お願い」
私は寝落ち寸前のリッカを抱き上げた。エドワード君と並んで海岸線を歩いていった。
別れ際はあっさりとしたものだった。ホテルまで送ると、エドワード君は海賊船に戻っていったようだ。
私は部屋に戻ると、リッカをベッドの上に寝かせた。
私の目に映るのは、ララシアの海。美しく、幸福に満ちた国。
「……」
私は無言でベッドから離れ、玄関口へと向かう。
「――シャーリー? どこ行くの……?」
「リッカ……」
いつの間に起きていたの。リッカはベッドから下りて、私のところまでやってきた。
「あのね、リッカ……私、約束があるの」
桟橋で交わした約束。あの人の重々しい口調からして、内容はきっと……。
聞くのを迷ってないといったら嘘になる、それでも。
「……私は、知らなければいけない」
世の中には知らない方が良いことだってある。知らなければ、このまま目を瞑ったままなら、
その方が幸せなことだって。でもね。
「……私は、行かなくちゃ」
エドワード君はきっと……闇を抱えている。
傲慢で尊大、それでいて寛容な『キング』そのものな彼。明るくもある彼が、曇る時がある。よく見せる笑顔の下で――苦しんでいるようで。
エドワード君と向き合う為にも。きっと知れば心を痛めることでも。
「リッカ、お留守番してくれるかな」
この純粋な存在にも聞かせられないことかもしれない。だから私は黙って出て行こうとしていた。
「シャーリー。僕、君と一緒にいたい。一人にしたくないの」
「……そう、そうだね」
どこまでも純粋なんだね……どこまでも私に寄り添おうとしているんだ、君は――。
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