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第五章
日向ちゃん家のワンコ
しおりを挟む「――でね、あの子が見つけてくれてね?」
「まじで。すげーじゃんかー!」
「そうなの、リッカは天才で……」
……あ。私、リッカのことばかり話していた。
リッカ。一緒に暮らすようになった、モフモフな可愛い子。健気で優しい。犬が苦手な人たちも虜にする、罪深き子。三角耳の白い子犬なあの子。
私はリッカが大好きなあまり、隙あらば語ろうとする。ああ……同じ話もしていたかも。日向ちゃん、ニコニコ聞いてくれるものだから、私も調子に乗って話してしまっていて……ああ。
「でも、そっか……君のおかげ。日向ちゃん様様なんだった。ほら、君が飼っていたでしょう? 私も色々教えてもらったりしたから。ありがとう、日向ちゃん」
「えー、なにー? いいのにいいのにー」
突然だったけれど、日向ちゃんは普通に照れていた。ノリ、いいなぁ。本当に日向ちゃんのおかげで、リッカをお迎えできたんだよね。
「君のとこのワンコもいい子だったよね。ワンちゃん、ええと、名前が……」
……ええと、やっぱりなんだ。私はその犬の名前が思い出せない。その姿もそう。白っぽかったのは覚えているんだけれど……どうしても、ぼやけてしまっていて。
日向ちゃん家のワンちゃんもそう。私の前世の記憶は……思った以上に忘れているようだった。
「……」
嫌になる。片桐先生のことはわりと覚えているのに……高校で腫れもの扱いにされていた頃とかも……。
「――あ、そっか。マキマキちゃんのこと、覚えてないか……」
「うん、ごめんね……」
日向ちゃんが教えてくれたのは、共通の友人の女の子のこと。小中学校にかけて、よくつるんでいたって。語ってくれる記憶がどうしても、どうしても思い出せなくて……。
本当にごめんね、日向ちゃん……幼馴染のこと、語ってくれているのに。
まともに記憶がない私は上手く返せないでいる。
「あ……」
日向ちゃんは笑ってはくれているけれど、悲しんでいるんじゃないかな。
「日向ちゃん――」
「あ、違う違う。そりゃ、覚えてないってなー」
「……?」
軽やかな反応だった。気にしないようにって、気を遣ってくれているのかな?
「キミは冬ちゃん。オレは日向。それで充分だからさ、ねっ?」
「?」
それはそうでもあるけど、でも――。
「これからこれからー、オレらはこれからっしょー!」
「う、うん……?」
押し切られた? 私の中で芽生えた違和感、冬ちゃん、日向ちゃんは前世の頃の話で……? 私たちは今は違う名で生きているのに?
「……忘れるよ、うん。オレも言っとくね……うちの犬のこと、オレもほとんど覚えてないんだ」
「え……」
すごく可愛がっていて、長年連れ添っていたのに?
「アイツの名前も忘れちゃったんだー……」
そう言った彼は、とても悲しそうな顔をしていた――。
それからも私たちは語らった。
日向ちゃんの話はやっぱり面白い。私もたくさん笑っていた。
笑っていた……けれど。
「……」
浮彫になってしまったともいえた。私、こんなにも前世のこと忘れていたの? 楽しかった思い出もあったでしょうに、そのことばかりが抜け落ちたかのように。
ふと見上げた青空、遠くに思える。
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