わがままに愛して

よしゆき

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 マイラ・エルヴァスティは貴族の娘に産まれ、家族や使用人から甘やかされて育ってきた。自分が何かを望めば、大抵の事は叶えられた。そんな環境に身を置くマイラは、それが当たり前の事なのだと思い、すっかり我が儘な子供となっていた。
 甘いお菓子が大好きで、自分が食べたいだけ食べる。我慢なんてしない。そんな生活を続けていれば当然肉付きはよくなっていく。
 しかし周りからは「可愛い可愛い」と褒められ続け、マイラは自分の体型が平均よりもふっくらしている事に気づいていなかった。周りが可愛いと言うのだから自分は可愛いのだと、自分の容姿に自信を持っていた。
 自分の我が儘を我が儘だと自覚せず、自分のやりたいように振る舞う。
 マイラはそんな子供だった。
 そして彼女が十歳になった時、エルヴァスティ家に一人の少年がやって来た。
 天使のように無垢な瞳に、人形のように愛らしい顔立ちのその少年に引き合わされ、マイラはパチパチと瞬きを繰り返す。

「お父様、その子は誰なの?」
「この子はリュリュ。今日からこの家で一緒に暮らすんだよ」

 そう紹介されたリュリュという少年は、不安そうに身を縮めていた。
 リュリュは父の学生時代の友人の子供だ。彼の両親は仕事で海外を飛び回り、殆ど家に帰ってこない。リュリュを育てているのは使用人だった。彼はあまりにも寂しい幼少期を過ごしていた。
 その現状を知り、見兼ねたマイラの父親がリュリュを預かると申し出たのだ。

「家族として受け入れてやってくれ、マイラ」

 父親の言葉にマイラは頷く。

「いいわよ。よろしくね、リュリュ。私はマイラよ」

 声をかければ、リュリュはおどおどと口を開く。

「は、はい……。おねがい、します……」
「なぁに、その喋り方。家族はもっと普通に話すものよ」
「は、はい……ぁ、う、うん……。ごめんなさい……ご、ごめん……」
「まあ、いいわ。家の中を案内してあげる。ほら、来なさい」

 マイラはリュリュの手を取り歩きだした。彼は戸惑いながらも逆らわずついてくる。
 リュリュはマイラより歳下でその時七歳だった。
 マイラは弟ができたようで嬉しかった。歳の近い友人もおらず、今までずっと使用人に遊び相手になってもらっていたのだ。
 リュリュが家に来てから、マイラは彼とずっと一緒にいるようになった。
 人形のように愛らしい彼を、人形のように可愛がった。着せ替え人形のように自分のドレスを着せて楽しんだ。
 本当に自分だけのお気に入りのオモチャのような感覚でどこに行くにも連れていき、リュリュが自分以外の相手と話すのを嫌がった。
 リュリュが誰かと口をきくたびにマイラは機嫌を悪くし、彼にきつく当たった。
 我が儘なマイラは、自分の行いがどんなに傲慢なものなのか気づきもせず自分勝手にリュリュを振り回していた。
 リュリュが来てから一ヶ月以上が過ぎたある日の夜。マイラは偶然彼の部屋の前を通り、中から聞こえてきた泣き声に足を止める。
 ドアを開ければ、リュリュは両親を恋しがりベッドの上で泣いていた。
 マイラはスタスタと近づいていく。

「寂しいの、リュリュ?」
「ま、マイラ……」

 マイラの存在に気付き、彼は慌てて涙を拭う。

「ご、ごめん……」
「どうして謝るの?」
「だって……」
「私だって、お父様とお母様と離れて暮らすことになったら、きっと寂しくて泣くわ」

 言いながらベッドに上がり、マイラは布団の中に潜り込んだ。その行動にリュリュは目を丸くする。

「リュリュがこの家にいる間は、私がずっと傍にいてあげる」
「え……?」
「リュリュが寂しい時は、私が一緒にいてあげる」

 マイラはリュリュをぎゅっと抱き締めた。

「こうやって、誰かと一緒にいたら、寂しいのも忘れられるわ」
「マイラ……」

 おずおずと、リュリュの手がマイラに抱きついてくる。
 リュリュは甘くて優しい匂いがする。こうして抱き締めていると温かくてどんどん眠くなっていく。

「寂しい時は、一人で泣かないで私に言いなさい。私が、ずっと傍にいてあげる。リュリュは一人じゃない……。私がいるわ……」

 うとうとしながらマイラは囁く。
 既に自分のお気に入りの人形のように己の我が儘で彼を連れ回しているくせに、お姉さんぶって慰めの言葉をかける。

「ほんと、マイラ……?」
「ええ」
「……マイラ、柔らかくてあったかい……。ふわふわして、いい匂い……。ずっとこうしてくっついてたい」

 リュリュはマイラの胸に顔を埋め、ピッタリと身を寄せてくる。
 頼られる優越感に、マイラは彼の背中を撫でてそれを受け入れる。
 その日から、二人は同じベッドで一緒に寝るようになった。





 二人の関係は変わらないまま時間は流れ、マイラは十二歳、リュリュは九歳になった。
 ある日エルヴァスティ家の屋敷に親戚が集まり、庭で軽いパーティーを開いていた。
 そこにはマイラのいとこのユスティーナもいた。彼女はリュリュと同い年の九歳だ。
 マイラはユスティーナと会うのは三年ぶりだった。
 ユスティーナにリュリュを紹介する。マイラに引き合わされ、二人は緊張しながらも笑顔を交わす。
 並ぶ二人を見て、マイラは衝撃を受けた。

「まあ、二人とも一対のお人形のようね」
「ああ、二人とも何て可愛らしいんだ」
「ふふふ、とってもお似合いだわ」

 リュリュとユスティーナの二人を見て、傍にいた親戚の大人達が口々に感嘆の声を上げた。微笑ましそうに隣り合う二人を見つめている。
 そう。二人はとても愛らしい。本当に一対の人形のように、二人がこうして並んで一緒にいる事が当たり前でなくてはならないと思えるほどに。
 二人の美しさは完璧に釣り合い、リュリュの隣にはユスティーナが、ユスティーナの隣にはリュリュがいる事が相応しいのだというように。
 そんな二人を見て、マイラは漸く、自分の容姿が人よりも劣っているのだと思った。少なくとも、リュリュとユスティーナに比べればその差は大きいのだと。
 今まで、可愛い可愛いと褒められ甘やかされて育ってきた。だから自分は可愛いのだと思い込んでいた。
 リュリュの傍にいる事を気にもしていなかった。
 彼の愛らしさを自慢に思っていた。彼の隣を歩き、彼を見せびらかして回りたいくらいに。
 でも、今、彼の傍にいる事が無性に恥ずかしくなった。
 二人を見ていると、自分が惨めに思えた。
 マイラは衝動的に駆け出し、屋敷を飛び出した。未だリュリュとユスティーナの可愛さに盛り上がっていて、誰にも気づかれなかった。
 前も見ないで走っていたマイラは、すぐに通りかかった赤毛の少年とぶつかり転んだ。勢いよく膝を擦りむく。

「きゃあっ……!?」
「いってー……っ」

 転んだのはマイラだけで、相手の少年はぶつかった肩を押さえる。
 マイラは顔を上げ、キッと少年を睨み付けた。

「何するのよ!」

 ショックを受けていた事もあり、感情が高ぶっていたマイラは大声で少年を責め立てる。すると少年は苛立ちも露に言い返してきた。

「なんだよ、ブス! お前がぶつかってきたんだろーが!」
「なっ…………」

 今までそんな暴言を吐かれた事などもちろんなかった。頭を殴られたかのような強い衝撃を受ける。
 怒りと、悲しみと、恥ずかしさに同時に襲われ、言葉が出てこなくなる。
 何も言えないマイラを見下ろし、少年は嘲笑する。

「デブでノロマなんだから、ちゃんと前見て歩けよな」

 そう吐き捨てて、少年は去っていった。
 何も言い返せないのが悔しかった。けれどそれ以上に悲しくて、涙が溢れた。
 マイラは泣きながら立ち上がる。

「マイラお嬢様……!」

 名前を呼ばれて振り返ると、メイドがこちらに駆け寄ってくるところだった。

「ああ、良かった。お姿が見えないから心配しました……!」

 マイラがいない事に気づいて捜しに来てくれたようだ。
 泣いているマイラを見て、メイドは青ざめる。

「どうしたんです、マイラお嬢様……。ああっ……怪我を……? 何て事でしょう、お可哀想に……っ」

 メイドはマイラを抱き上げ、優しく背中を撫でてくれる。

「もう大丈夫ですからね。屋敷に帰って手当てしましょうね」

 メイドに抱えられ、マイラは屋敷に戻った。
 マイラはメイドの肩に顔を埋めて泣いた。擦りむいた膝がジンジンと痛む。でも、マイラが泣いているのは、あの少年の言葉に傷つけられたからだ。
 メイドは怪我のせいで泣いていると思っている。それでよかった。何があったのか、誰にも言いたくなかったから。
 マイラは自室に連れていかれ、そこで怪我の手当てをしてもらう。汚れた服も着替えた。
 もう庭に戻る気にはなれず、ソファに座ってぼんやりする。メイドに用意してもらったお茶を飲みながら部屋で一人で過ごしていた。
 そこへ、リュリュが慌てた様子でやって来る。

「マイラ、大丈夫……!?」
「どうしたのよ、リュリュ」
「マイラがケガしたって聞いてっ……。大丈夫なの?」

 リュリュは心配した様子で、おろおろとマイラの体に視線を走らせる。

「大丈夫よ。転んで少し膝を擦りむいただけ」
「ホントに? 大丈夫? 痛くない?」
「大したことないわ。だから、リュリュはもう戻りなさい」
「じゃあ、マイラも……」
「私はいいの。もう疲れたから、部屋で休んでるわ」
「えっ……それなら僕も……」

 リュリュはマイラの傍にいようとする。彼はマイラの傍にいなければならないと刷り込まれてしまっているのだろう。マイラがずっと、どこへ行くにも彼を連れ回し続けてきた、そのせいで。
 マイラは立ち上がり、彼の手を引いて姿見の前へ行った。大きな鏡に二人の姿が映し出される。

「マイラ……?」

 マイラの行動の意味がわからず、リュリュはきょとんとしている。
 こうして並んで見れば、如実にその事実が浮き彫りになる。どうして今まで気づかなかったのだろう。どうして今まで平気で彼の隣にいられたのだろう。
 天使のように綺麗に輝いているリュリュ。
 その隣に立つ自分はあまりにも凡庸で、見劣りする。
 全然釣り合っていない。
 彼の隣にはユスティーナのような美しい者が相応しい。
 今まで我が物顔で彼の隣を陣取っていた自分が恥ずかしい。

「戻りなさい、リュリュ」
「マイラが戻らないなら、僕もここにいる」
「ダメよ。いいから早く行きなさい」

 傍にいようとするリュリュを無理やり部屋から追い出した。
 一人きりになり、先ほどぶつかった少年の言葉を思い出す。
 マイラは悪意をぶつけられるのははじめてだった。両親と使用人達にちやほやされて育ってきた。マイラを悪く言う者など一人もいなかった。
 だから、自分が相手にどう思われているのか。
 自分の言動によって相手がどんな気持ちになるのか。
 そんな事を考えた事もなかった。
 あの少年に悪口を言われて、自分が今までいかに何も考えずにいたのかを知った。そして自分の行動を省みる。
 自分の行いが恥ずかしい。
 今までは、たまたま傍にマイラに対して悪感情を抱く者がいなかっただけだ。
 でも数年後にはパーティーなどの催しに参加し、それこそ見知らぬ多くの人達と関わる事になる。あの少年のように、悪口を言ってくる者もいるかもしれない。マイラを嗤ったり蔑んだりしてくるかもしれない。
 そうならない為には、自分の言動を改めなくてはならないのだ。
 マイラは密かに決心した。





 その夜。寝る準備を済ませてベッドに上がろうとしたところで、リュリュが部屋にやって来る。

「マイラ、一緒に寝よう」

 リュリュはそう言った。
 これはいつもの事だ。はじめて一緒に寝たあの日から、リュリュはこうして毎日マイラの部屋に来てマイラと一緒に寝る。
 これも全部、マイラが悪いのだ。リュリュは常にマイラの傍にいる事が当たり前になってしまった。マイラがそういう風にしてしまったのだ。
 リュリュは別にマイラが好きで、自分の意思で傍にいたいと思っているわけではない。今までずっと、マイラがリュリュに傍にいなきゃ駄目だと強要してきただけだ。
 こうして毎日やって来るのも、マイラと一緒に寝たいなんて思っているわけではない。マイラと一緒に寝なくてはならないと思い込んでしまっているのだ。
 今思えば、自分の彼に対する行いは最低だった。
 リュリュを自分の物のように扱ってきた。
 独占欲を剥き出しにして、彼の気持ちなど考えもせずに自分勝手に振り回してきた。
 そんな我が儘三昧の自分が、リュリュに好かれているわけがない。
 もう、彼の傍にはいられない。自分なんかが、美しく純粋なリュリュの隣にいてはいけない。
 いっそ、徹底的に彼に嫌われてしまおう。
 マイラはやけくそ気味にそう考えた。
 今の時点で既にリュリュはマイラに好意的な気持ちなど抱いていないだろう。けれど、マイラに逆らえない、逆らってはいけないと思っているからこうして自分から近づいてくるのだ。
 だから、二度と近づきたくないと思われるくらい嫌われてしまえばいい。
 子供のマイラは関係を修復するのではなく、何故かそんな風に考えた。
 しかし、そこまで嫌われるにはどうすればいいのか。
 リュリュの嫌がる事をすればいいのだが、彼が嫌がる事とは何なのだろう。
 彼は今まで拒絶した事がない。
 着せ替え人形のようにドレスを着せても嫌な顔をしていなかった。
 リュリュの分のお菓子を欲しがれば、すんなり頷き、寧ろもっと食べていいとマイラに分け与えてきた。
 屋敷中を連れ回しても、ジュースを零したのをリュリュのせいにしても、リュリュのお気に入りの人形に焼きもちを焼いてもうその人形で遊んじゃ駄目と取り上げても。
 彼は一度もマイラに意を唱えた事はない。
 そんな彼に二度と近づきたくないと思うくらい嫌われるには、相当に嫌がる事をしなくてはならないだろう。
 ふと、昼間屋敷の外でぶつかった赤毛の少年の事を思い出す。
 マイラはあの少年が嫌いだ。もう二度と顔も見たくない。
 マイラがあの少年にされて嫌な事を、リュリュにすればいいのではないか。
 想像してみる。
 少年とは顔を合わせるのも嫌だ。
 口もききたくない。
 指一本触られたくない。
 抱き締められたらと思うとゾッとする。
 キスなんてされたらきっと一生立ち直れないくらいショックを受けるだろう。
 そこまで考えて、それだ、と思った。
 キスだ。
 嫌いな相手にされたら最悪だ。二度と近づきたくないと思うだろう。
 キスをされたら、リュリュはマイラを嫌いになる。
 突き飛ばして、逃げ出すはずだ。汚いものに触られたみたいに嫌悪して、嫌で嫌で堪らなくて、そしてもうマイラに近寄らなくなる。
 よし、キスをしよう。
 覚悟を決め、マイラは強張った顔をリュリュに向ける。

「マイラ……? どうしたの……?」

 ずっと黙ったままのマイラをリュリュは心配そうに見ていた。
 彼の肩を掴み、顔を近づける。

「マイラ?」

 これから何をされるかわかっていないリュリュは、パチパチと瞬きを繰り返す。
 警戒心もなくじっとしているリュリュに、罪悪感が込み上げてくる。
 実際のところはわからないけれど、でも恐らく、彼にとってはじめてのキス。それをマイラが奪ってしまうのはさすがに申し訳ない。嫌われる為とはいえ、そこまでしてしまうのは気が引けた。何の罪もないリュリュにそんな非道な真似はできない。
 だから、口ではなく口の横。唇にギリギリ重ならないところにキスをした。
 ちゅっと唇が触れた瞬間、リュリュの肩が激しく揺れた。きっと嫌悪に身震いしているのだ。
 突き飛ばされるだろうと思っていたけれど、ショック過ぎて動けないのか、リュリュは硬直している。
 マイラは顔を離した。
 目をまん丸にしてこちらを見ているリュリュに言う。

「いい? またキスされたくなかったら、二度と私に近づかないことね」

 暗に近づいてきたらまたキスをする、と警告し、呆然と立ち尽くすリュリュを部屋から追い出した。
 これで、もう彼からマイラに近づいてくる事はないだろう。
 マイラにキスされて、気持ち悪いと彼は思ったはずだ。
 自業自得だというのに、そう考えると悲しかった。
 今まで散々な扱いをしてきた自分が悪い。彼に好かれるような事など何一つしてこなかったのだから。
 明日からはもう、リュリュと一緒にいられないのだ。おやつの時間を一緒に過ごす事も、一緒に庭でピクニックする事も、一緒に本を読んだり絵を描いたり、リュリュの甘くて優しい匂いに包まれながら一緒に寝る事ももうない。
 リュリュはマイラに二度とキスなんてされたくないと思っている。だから決して近づいてこないだろう。
 悲しくて、胸が苦しくて、ポロポロと涙が零れた。
 一人ベッドに上がり、布団に潜り込む。
 この寂しさを忘れたくて早く眠ってしまいたいのに、リュリュの事を考えると全然眠気は訪れなかった。
 泣いて泣いて泣き疲れて、そうして漸くマイラは眠りに落ちたのだった。






 翌朝。眠りから覚めたマイラはゆっくりと重たい瞼を持ち上げる。
 今日からは、もうリュリュと今までのように一緒にはいられない。
 きっと彼はマイラを嫌悪の目で見てくるのだろう。
 大好きな彼に避けられるのだと思うと憂鬱で、このままずっと部屋に引きこもっていたくなる。
 自分でそうなるように仕向けたくせに、マイラの心は早くも折れそうだった。
 それでもどうにか体を起こす。

「おはよう、マイラ」

 近くから聞こえてきた声に、ビックリし過ぎてすぐに反応できなかった。
 声の聞こえてきた方へ顔を向け、愕然とした。
 リュリュがいる。キラキラと輝く笑顔を浮かべて、マイラの寝ているベッドに乗り上げている。

「な、なんっ……どうし……っ」

 マイラはパクパクと口を開閉する。あまりの驚きに言葉が出てこない。
 何で。どうして。
 マイラは困惑した。
 昨夜の事を、彼はもう忘れたのだろうか。なかった事にしようとしているのか。それともまさか夢だったとでも思っているのか。
 呆然とするマイラを見つめ、リュリュは天使のように愛らしく微笑んだ。

「キスされたくなかったら近づくなってことは、キスしたかったら近づけばいいんだよね?」

 満面の笑みで言われ、一瞬意味を理解できなかった。
 理解できても意味がわからなかった。
 リュリュの理解不能な解釈にポカンとする。
 呆けているとリュリュの顔が近づいてきて、ちゅっと唇にキスをされた。
 マイラが避けた唇に、彼は何の躊躇いもなく口づけた。
 強い衝撃を受け、頭の中が真っ白になる。

「えへへ……マイラとキスできるなんて嬉しいな」

 マイラの心情に気づかずに、リュリュは嬉しそうにはにかんでいる。
 おかしい。
 何でこんな事に?
 こんなはずではなかった。
 キスをして、気持ち悪いと思われて、嫌われて、二度とリュリュが近づいてこなくなるはずだったのに。
 近づかなくなるどころか、リュリュは自分からキスをしてきた。
 これは一体どういう事だ。
 もしかしてリュリュはそういう事に興味津々なのだろうか。異性との触れ合いに深い関心があり、試してみたいと思う年頃なのかもしれない。
 キスがしたいだけで、キスができれば相手は誰でもいいのかもしれない。
 リュリュはもしかして性に奔放なタイプなのだろうか。
 知らなかった。天使のようだと思っていた可愛いリュリュが、誰とでもキスできるようなふしだらな少年に成長していたなんて。
 一番近くで彼を見てきたマイラはショックを受ける。
 ともあれマイラの思惑は見事に外れた。
 それからリュリュは積極的に自分から近づいてくるようになり、そして頻繁にキスされるようになってしまったのだった。






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